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IDEA24  作者: みかづき
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20/21

Episode20

 ついに今日が来た。


 早く起きるのも習慣になり、空はまだ赤黒い。


 レイブンと朝食を食べた後に侍女さんに身なりを整えてもらい、馬車が止められた広間へ向かった。


 レイブンの表情がやや硬い。


 乗り気ではないのかもしれない。


 良い印象を持っているとは口にしていたが……それとは別の因縁があるのだろうか。


 ……とりあえず、これが終わったら何かお礼をしよう。


 日頃からお世話になりすぎている、何か出来ることがあれば……いや、あとで考えよう。


 レイブンに引き上げられるように馬車へ乗り込む。


 と、早速走り出した。


 レイブンの表情に強張りが見えたのは最初だけで、気づけばいつもの顔になっていた。


 そうやって取り繕われると……。


 聞いても……大丈夫だろうか……?


 ヨハネは関係ない……はず。


「やっぱり、無理して付き合ってくれてる?」


「……あぁ、ごめん、そんなことないよ。気を使わせちゃったね、僕も彼とは一度真剣に話してみたいと思っていたんだ。ただ……ううん、なんでもない。そうだ、今のうちに暁君のこと話しておこうかな」


 躊躇いが見られたが、彼は小さく頷くと話を続けた。


「彼がいるのはウィシーヌ大学の地下牢、魔法の実験体として極秘に拘留されている。表向きには処刑されたことになっていて、生きていることを知っているのは限られた人だけだ」


「ち……地下……実験……?」


 それに処刑って……。


 やっぱり危険人物なのか?


 少女の……アタラクシアの言っていた話が、部分的にだが繋がってきた。


 確かに偉くもなんともない。


 いつ会えなくなるか分からないってのも何となくわかる。


 実験だし……そういうことだろうか。


 レイブンは到着までいろいろ話してくれた。


 どこぞの刀とはえらい違いだ。


 今から一年前の聖戦を引き起こした人物として拘束されたのち、南の都市レムルスで処刑されたことになっている。


 なんだか不穏な人だと思っていたらフォローが入った。


 聖戦の先導者、というのは公の共通認識だがそもそも事実ではないようだ。


 どうも政治に利用された結果らしい。


 フィアトや一部の人間が彼の死を偽装し、現在はウィシーヌ大学に匿っているようだ。


 私と暁の関係はレイブンも詳しくは知らない様子。


 ただ、少なくとも一年前までは行動を共にしているのを見ているらしい。


 聖戦の後に暁は表舞台から姿を消した……なら、一緒にいた私はどうなったのだろう。


 気になり尋ねてみるが、どうやら私は暁が消える前に行方不明になったらしい。


 ……こうやって聞いていて思うが、人伝に自分を知っていっても何かを思い出すことはなさそうだ。


 他人事、噂話、それが私だと思えないのは、現在の私から乖離した生き方をしているからだろう。


 剣士ヨハネが聖戦に首を突っ込んでいてもおかしくない。


 そうだったのなら、きっと人を……どうかしてる。




 いつの間にか大学に着いていた。


 馬車から降りると、フィアトと歳の近そうな人物が出迎えてくれた。


 学長らしい。


 軽い挨拶が済むと、早速構内へ案内された。


 ……しかし、どうも封鎖されている場所が多い。


 どうやら一週間前の爆発はここでも発生していたらしい。


 アタラクシア……ベルカナを殺すだけなら大学を攻撃する必要はなかったんじゃないのか?


 他に目的が……今の彼女ならもしかしたら答えてくれるかもしれない。


 地下への入り口は警備が厳重だった。


 衛兵が入口に四人も配置されている。


 それに居心地が悪い。


 漂う空気が濁っているような気だるさ。


 ベルカナの屋敷を思い出す石造りの階段を下ると、重厚感のある鉄製の扉が現れた。


 ここにも警備がいる。


 私たち、というかレイブンの護衛は中には入れないらしい。


 代わりに入口を守護していた衛兵が中へ着いてきてくれる。


 ……金属同士が擦れる音を立てながら扉が開かれた。


 真っ暗な空間が広がっていた。


 オスアラでも見つかりそうな空間だが……部屋中の松明に火が灯され始めると全貌が見えてきた。


 ……そして、奥の松明が燃焼したことでその姿が露わになった。


 ぼろ切れが身体にかけられている、白髪の青年だった。


 一瞬ベルカナが脳裏をよぎったが、あいつの髪はもう少し長ったるい。


 首は折れ、骨が浮き上がるほど痩せこけている。


 両手が天井から伸びる鎖に吊るされている。


 ……見るに堪えない。


 寝ているのか、気絶しているのか……。


「あ、あの……暁さん?」


 とりあえず声をかけてみた。


 死んでいるようにも見える。


 物理的に起こしてみるか……近づくなとも触れるなとも言われていない。


 生死を確認する意味も込めて、見えぬ顔色を伺いながら歩み寄った。


 ……いや、生きている。


 名前に反応したのか鎖が鳴った。


 それから首がゆっくりと持ち上がって……生気を感じられない瞳を見た。


 血色のいい頭蓋骨だ。


「お師匠様……お久しぶりです」


 掠れた声で、私をそう呼んだ。


 けれど外見の痛々しさとは裏腹に、言葉にキレがあった。


 見た目に反して、案外余裕を感じる。


 ……しかしまぁ、どうやら師弟関係があったのは本当らしい。


「アタラクシアさんのことでしょう? 確か記憶がないんでしたよね……何を話せばいいか分からないので、適当に色々話します。分からないことがあれば、遠慮なく聞いてください」


 ……アタラクシアとはしっかり情報共有していそうな雰囲気だ。


 話が早い。


 いや、当然と言えば当然だが……よくこれだけの警備を掻い潜れたものだ。


 魔法があれば可能なのだろうか。


 オスアラのように声を遠隔で飛ばせるとか。


 ……出来るのなら、相当魔法に詳しいということになるが。


 どんな理論なのかは分からないが、少なくとも少女の中では、それが構築可能な現象として頭にあるということだ。


 まさか早速教本が役に立つとは。


 魔法はさておき、暁からしたら一年ぶりの再会で、何か思うところがあるのではないのだろうか。


 再会を果たした師匠に対して「久しぶり」の一言で済ませて少女のために時間を使おうとしている。


 こちらとしては都合がいいが……それでいいのか?


 ……まぁいい、何を語るのか聞かせてもらおう。


「そうですね……まずはベルカナさんの話をします。彼は今、世界の秩序を破壊しようとしています。魔族を絶滅させ、人類のほとんどを消し、魔法の存在を抹消し、母を殺そうとしています。何故そんなことをするのかは分かりません。ですが、それらは今既に進行しています。今頃彼は、魔族を殲滅しようとしているところでしょう」


 ?


 ……?


 世界を……破壊……?


 世界……?


 思わず苦い顔になった。


 大量虐殺…………意味が分からない。


 それに母を殺すって……母は神のことだろうが……。


 神を殺す……どんな主義者なんだ?


 ……どれも知っている単語ではある。


 だが、それがこういう形で結びつくとは……。


 御伽噺の悪役でも、人も神も皆殺しにしようとする奴はいないだろう。


「彼にも出来ないことがあります。それは、魔法を抹消することと、母を殺すこと。いくら魔法を極めた彼でも、それだけは出来ない。そこで、お師匠様の槍です。「其の神槍は離別の誓い、悉くを必滅させる理」。彼はその槍を探しています。その槍が彼の手中に収まれば、世界は母を失い滅亡するでしょう」


 槍……どこかで聞いたことがあるような……。


 私の槍……あ、確かベルカナとフィアトが話していた時にそんな単語が出ていた気がする。


 ヨハネの槍……とか言ってたっけ。


 何やら仰々しい……神槍……。


 ……魔法を抹消するというのはそのままの意味だろうか。


 何故そんなことを……自分の優位性を消すような真似……。


「彼がお師匠様を必要としているのはそのせいです。その槍をお師匠様は遥か昔にお隠しになられたと聞いています。お師匠様が槍の在りかを思い出すことが出来れば、槍を手に入れることが出来ると彼は考えています」


 ……なるほど、ここで私に繋がるのか。


 私がいなければ達成できない……本当にそうだろうか?


 記憶を取り戻してほしいのなら、ある程度協力する姿勢を見せたっていいはず。


 むしろ敵対的だ。


 私の知っているベルカナとは違う……暁も全てを理解している訳じゃないと好意的に解釈しておくか?


 毎度の事ながら、考察対象がまともな人間ならこんなに悩むことはないだろう。


「ベルカナさんはお師匠様が自力で思い出せないのなら、魔法を使い無理矢理思い出させようとするでしょう」


「……なんで最初からそうしないの? 私が寝てる間にでもやっちゃえばいいじゃん」


「その通りだと思います。ですので、それが出来ないやむを得ない事情があると考えるのが妥当かと。こればっかりは本人に聞くしか……」


 ……筋は通ってるか。


 魔法自体に制約があるのか、それとも個人的な感情なのか。


 あいつは過去の私と接点がある、両方ありえる。


「彼女はどうしてベルカナを憎んでるの?」


「……ベルカナさんと彼女は、元々師弟関係でした。その……難しい話ですが、今のベルカナさんはベルカナさん本人ではないんです。本物のベルカナさんは一年前の戦争で既に亡くなられています。つまり、今の彼はベルカナさんの顔をした偽物なのです。大切な人の名誉が日に日に失墜していく光景は、彼女にとっては……」


 ……あぁ、あの時の。


 なるほど、「死者を辱める」とはそういう事か。


 ……やはり少女の気持ちに偽りはないと見るべきか。


 動機に関しては同情にも値する。


「あと……お師匠様の事も話しておきます。アタラクシアさんから聞いたとは思いますが、お師匠の記憶が消されるのは2度目です。一度目は恐らく100年以上前。2度目は昨年の聖戦から今までの1年以内だと思います」


 100年前…………100年?


 …………いや……え?


 ……100って……100って?


 となると…………私は最低でも100後半か……。


 …………は?


 ……てっきり10代か、20前半だと……い、いや、流石におかしい。


 そんなのもう人じゃ…………。


 レイブンに助けを求めようとするが……ダメだ、全く動じていない。


 …………え、嘘でしょ?


 100…………100歳以上ってこと……?


 フィアトより年上なんて話じゃない。


 ……ぁ、そういえば。


 初めて会ったとき確か年を取らないとか言っていたような……。


 戯言とすら認識できていなかったが、そういうことだろうか。


 ……いやいや、ないない。


 例え100歳越えの長寿だとして、見た目はどう説明する。


 どう見ても10代か、20代前半くらいだ。


 ……魔法ならどうにかなるのだろうか?


 寿命を延ばしたり、肉体年齢を若いままにさせたり。


 …………魔法のせいにしておこう、深く考えても仕方ない。


 それよりも2度目と確定した事が大事だ。


「1度目は本物のベルカナさんですが……2度目の犯人は正直分かりません。ただ、人に成りすます魔法が使える偽物のベルカナさんなら、記憶を操作する魔法を使えてもおかしくありません」


 ……まぁそうなるだろう。


 その2つに論理的な繋がりがあるようには思えないが……いや、素人に何がわかる。


 学びたてのひよっこに高度な学術理論が想像つくはずもない。


 ……だが、あいつ、偽ベルカナが消した線は薄い。


 槍の在処を思い出して欲しいのに、大元を消すわけがない。


 私の知らない他の誰かの魔法と見るべきだ。


 ……もっとも、心当たりはまるでない。


 偽ベルカナ以外にも何かを企んでいる人間がいるはずだ。


 ……私の敵は一体何人いるんだ。


「こんなところでしょうか。他に聞きたいことがあればお答えしますよ」


「……ちょっと待ってて、整理する」


 色々話されて頭がごちゃごちゃだ。


 ……とりあえず、ベルカナがとんでもないことをしていて、その目的を完遂するためには私の槍とやらが必要。


 その槍の場所は私しか知らず、偽ベルカナは私に記憶を取り戻してほしい。


 ……が、行動に一貫性が感じられないので事実は不明。


 今回の記憶喪失との関係性は分からないが、100年以上前にも同じことがあった。


 推定年齢は100歳後半以上……馬鹿みたいだな。


 ただ、記憶を消すにせよ幼少期にやられることもあるまい、110歳を上回っていても不思議は……ないな。


 今のベルカナは偽物で、本物は既に死んでいる。


 なので、1度目の犯人であるアタラクシアの師匠、つまり真ベルカナが2度目の犯人ということは時系列的にあり得ない。


 その犯人が偽ベルカナである可能性はない……目的から遠ざかる真似をする意味がない。


 ただ、記憶を操作する魔法が使える可能性はあるらしい。


 無理矢理吐かせることも可能……本当に訳が分からない。


 ……まぁこんなところか。


 ……うん、聞きたいことは山ほどある。

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