侵食するノイズ
収録後、楽屋へ向かうと、
美空は豪華な衣装を纏ったまま、
鏡の前で震えていた。
彼女の右腕。
マイクを握り続けていたその手は、
既に第一関節から肘にかけて、
奇妙な変質を遂げていた。
それは、
ハクの「土の石」でも、
伊織の「鉛の石」でもない。
まるでテレビの砂嵐を固めたような、
絶えずチリチリと発光し、
微細な振動を繰り返す
**「電波の石」**であった。
「……事代さん、腕が、熱いの。
誰かが、私の中でずっと叫んでいるの」
美空の瞳からは、涙ではなく、
電子の火花のような青白い光が零れていた。
私は彼女の右腕に触れる。
指先から伝わってくるのは、
数千万人の「欲望」という名の高電圧だ。
「それは『声』ですよ、美空。
あなたが歌うことで救われたと
錯覚している連中の、重すぎる感謝と、
その裏にある傲慢な期待。
彼らはあなたを愛しているのではなく、
あなたを『消費』することで、
自分たちの空虚な穴を埋めているだけなのです」
美空の喉が、引き攣るような音を立てた。
彼女が次に発した声は、
もはや歌声ではなかった。
何重にも重なった、
見知らぬ他人の罵声、
独り言、
すすり泣き。
それらが不協和音となって、
彼女の口から漏れ出した。
「三本目の鳥居には、この『熱』が必要です。
冷たい江戸、硬い明治を経て、
ようやくこのシステムは、
人々の『情熱』を直接吸い込めるようになる」
私は彼女の喉仏を強く押し込んだ。
その瞬間、スタジオ中の照明が、
過電圧によって一斉に爆発した。
暗闇の中、彼女の肉体は青い燐光を
放ちながら、一気に硬直を深めていった___。




