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朱色のゲートウェイ ー 御神体 ー  作者: 此花 陽
昭和中期編

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9/12

侵食するノイズ


 収録後、楽屋へ向かうと、

 美空は豪華な衣装を纏ったまま、

 鏡の前で震えていた。  


 彼女の右腕。


 マイクを握り続けていたその手は、

 既に第一関節から肘にかけて、

 奇妙な変質を遂げていた。  


 それは、

 ハクの「土の石」でも、

 伊織の「鉛の石」でもない。  


 まるでテレビの砂嵐を固めたような、

 絶えずチリチリと発光し、

 微細な振動を繰り返す


 **「電波の石」**であった。



「……事代さん、腕が、熱いの。

 誰かが、私の中でずっと叫んでいるの」



 美空の瞳からは、涙ではなく、

 電子の火花のような青白い光が零れていた。  


 私は彼女の右腕に触れる。


 指先から伝わってくるのは、

 数千万人の「欲望」という名の高電圧だ。



「それは『声』ですよ、美空。


 あなたが歌うことで救われたと

 錯覚している連中の、重すぎる感謝と、

 その裏にある傲慢な期待。


 彼らはあなたを愛しているのではなく、

 あなたを『消費』することで、

 自分たちの空虚な穴を埋めているだけなのです」



 美空の喉が、引き攣るような音を立てた。  


 彼女が次に発した声は、

 もはや歌声ではなかった。  


 何重にも重なった、

 見知らぬ他人の罵声、

 独り言、

 すすり泣き。


 それらが不協和音となって、

 彼女の口から漏れ出した。



「三本目の鳥居には、この『熱』が必要です。

 冷たい江戸、硬い明治を経て、

 ようやくこのシステムは、

 人々の『情熱』を直接吸い込めるようになる」



 私は彼女の喉仏を強く押し込んだ。  


 その瞬間、スタジオ中の照明が、

 過電圧によって一斉に爆発した。


 暗闇の中、彼女の肉体は青い燐光りんこう

 放ちながら、一気に硬直を深めていった___。




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