第参乃鳥居:電子の廃材
昭和三十年代、
高度経済成長期の熱狂の裏で。
私は、完全に「電子の彫像」へと化した美空を、
九地無の里へと運び込んだ。
彼女の石化した表面には、
無数のテレビ受像機の破片や、
切断された電線が、
神経のように絡みついていた。
私は、彼女が最期まで握りしめていたマイク
――いまや彼女の手の一部と化した
「石のマイク」を、無慈悲に引き剥がした。
「これを砕き、精製しなさい。
今回の顔料は、闇の中でも自ら発光する
『生きた朱』になるはずだ」
江戸の白鷺色の鳥居、
明治の黒ずんだ鳥居の隣に、
三本目の鳥居が建立された。
それは、昼間はくすんだ赤だが、
夜、ひとたび誰かがその下を通ると、
センサーに反応するようにボゥと
不気味な朱色の光を放つ。
この門が完成したことで、
九地無のシステムは「物理的な接触」を
必要としなくなった。
電波という目に見えない糸が、
日本中どこにいても人々の負債を回収し、
この里へと送り届ける「見えない網」を
完成させたのだ。
私は、美空の喉から摘出した、
三枚目の「石化した舌」を自身の空洞へ収めた。
舌は激しく震え、周囲の静寂を
掻き消すほどのノイズを奏でている。
ハクの沈黙、伊織の活字、そして美空のノイズ。
「……ああ、ようやく『音楽』らしくなってきた」
私は里の空を見上げた。
そこには、かつてハクが見た死んだ魚のような
空はなく、衛星放送の電波が飛び交い、
情報の渦が銀河のように渦巻く、
新たな「戦場」が広がっていた。
やがて、情報の速度は光を超え、
世界は一人一人の掌の中に収まるだろう。
その時、四本目、五本目……
そして九本目の鳥居の糧となるのは、
もはやプロのスターである必要すらない。
誰もがスターになり、誰もが生贄になり得る。
そんな「総ハッキング時代」の王として
君臨する、あの少年――有馬蓮が現れるまで、
私のコレクションは増え続けるのだ。
事代は、美しく発光する三本目の鳥居を背に、
闇へと消えた。
【昭和初期:完】




