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朱色のゲートウェイ ー 御神体 ー  作者: 此花 陽
明治編

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5/28

文明の騒音、インクの闇

 

 慶安のハクが

「沈黙」を飲み込んでから二百年あまり____。  



 時代は「音」を失うどころか、

 耐えがたいほどの「ノイズ」に

 満ち溢れようとしていた。  


 明治。


 文明開化の号砲は、

 同時に、かつてない質量を持った負債


 ――**「活字の呪い」**を産み落としたのだ。


 私は、ロンドン仕立ての燕尾服を纏い、

 文明の香りが漂う銀座の街角に立っていた。  


 馬車の車輪が石畳を叩く音、蒸気機関の咆哮。


 だが、それらよりも遥かに

 私の鼓膜を突き刺すのは、

 街の至る所で売り歩かれる

新聞しんぶん」という紙片が放つ、

 無数の邪念であった。



「号外! 号外!


  没落士族の若旦那、

 泥棒に成り果てる!」



 人々の好奇心という名の指先が、

 その紙片を汚していく。  


 紙に刻まれた「文字」は、

 一度刷られれば消えることはない。


 それは何千、何万もの目に触れるたび、

 書かれた者の尊厳を薄紙のように

 削り取っていく、近代的な拷問具であった。



「……そろそろですね。

 

 二本目のゲートウェイが必要な頃合いだ」



 私は、新聞社の裏手、インクの臭いが

 立ち込める路地裏へと足を踏み入れた。  


 そこにいたのは、かつては名の知れた

 旗本の子息でありながら、

 今は新聞の刷り手として働く少年、



 **伊織いおり**だった___。





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