第捌乃鳥居:選別の重力
志乃が、
自ら密閉した部屋の中で「無」へと還った夜。
私は、彼女が着ていた防護服の残骸と、
彼女の周囲に漂っていた「拒絶の空気」
そのものを、九地無の里へと運び込んだ。
七本目の鏡の鳥居の隣に、
八本目の鳥居が建立された。
その鳥居は、石灰に医療用ガラスと
高密度のフィルターの繊維を練り込み、
不自然なほどに鮮やかで、
それでいて血の気のない
「冷酷な朱色」を呈していた。
「この鳥居を、不浄を許さぬ
『断絶の門』にしなさい」
八本目の鳥居。
この門をくぐろうとすると、
強烈な重力と圧迫感が全身を襲う。
まるで肺から空気を
無理やり押し出されるような感覚。
この門は、精神に一欠片でも
「後ろめたさ」や「汚れ」を持つ者を、
物理的に跳ね除ける重力場を形成している。
人々はこの門の前に立ち、
己の「正しさ」を証明しようとして、
その重圧に屈し、這いつくばって
現世へと逃げ帰る。
私は、志乃の喉から摘出した、
八枚目の「石化した舌」を拾い上げる。
それは、冷たく、滑らかで、
一切の味覚を拒絶する
「純白の舌」であった。
ハク、伊織、美空、金成、カイ、佐山、ルナ。 そこに、志乃の「閉塞の沈黙」が加わる。
「……これで、八つ。基礎は完成しました」
私は、冷徹な八本目の鳥居を見上げ、
空を仰いだ。
八つの時代、
八つの負債、
八枚の舌。
これらすべてを一つに束ね、
四百年の連鎖を完成させるための
「鍵」が、今、四畳半のワンルームで、
安焼酎に溺れながら誕生の時を待っている。
有馬蓮。
全ての「演出」が終わる時が来た。
九本目の鳥居、
白鷺色の開門は、
もう目の前だ___。
【第八編:完】




