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2、過去


ピピピピッピピピピッ────


「んん〜」

アラームがうるさく鳴り響く。止める気力も起きないぐらいに眠たい。

「───な、陽夏、陽夏」

私の名前を呼ぶ声が聞こえる。そんなことよりもう少し寝たかった私は無視をした。

ペチッ

「いたっ」

おでこに痛みを感じ、目を開けた。そこには泰輝の姿があった。

「た、泰輝?!……なんで私の部屋にいるの?!」

「俺の母さんがお前の母さんに渡したいものあって、渡した次いでに様子見てきてって言われたの」

「はぁ??」

痛みを感じるおでこを抑えながら、私は少し怒った。

「てか、時間ギリじゃね?朝飯食べて行けんの?」

泰輝が言うと、ハッとなり、私は部屋の時計に目を向けた。

「やっば!今日から授業なのに!もっと早く起こしてよ!!」

「俺が来る前に目覚まし時計が起こしてくれてたろが」

そんな言葉も聞かず私は急いで準備をし始めた。いつまでも私の部屋に居座る泰輝を「着替えられないでしょ!変態!」と言い、私は部屋から追い出した。


準備が中途半端なまま、急いで階段を駆け下りた。リビングへ向かうとそこにはまた泰輝の姿があった。

「え?なんでここで食べてんの?」

「私が食べて行きなーって声かけたの。陽夏のこと起こしてくれたんだし」

「起こしに来なくても起きてたし」

「「起きない!」」

2人同時にツッコミをされ、私は思わず驚く。悔しくなった泰輝だけを睨みつけ、コップ一杯の牛乳だけ一気飲みし、「ごちそうさまでした」とご飯には手をつけず、泰輝を置いて玄関へ向かう。

「おいおい、恩人にその態度は俺でも悲しいぜ?」

「……」

(無視無視)

「行ってきまーす!」

無視されて驚いているのか、泰輝は少し固まっていた。

「あ、おいおい置いてくなよ!陽夏ママー!お邪魔しましたー!」

「行ってらっしゃーい、気をつけてー」


私の家から出た泰輝が私を追いかけてきた。

「なに?怒ってんの?」

「…」

私は睨むだけで、応答しなかった。すると泰輝はカバンからゴソゴソと何かを取り出そうとする。

「ほれ、飯食べなきゃ倒れるぞ」

私の好物メロンパンだった。少々拗ねていた私は好物を目の前に目を輝かせる。だけど、素直になれない私は「別にお腹空いてないから」と前を向く。

「相変わらず素直じゃねーの。ま、食べたくなったら渡すから俺のクラス来いよ」

泰輝の手が私の頭を優しく撫でる。思わずドキッとしてしまった。

(顔、赤くなってないかな……)

泰輝に気づかれまいと私は少し早歩きをし始めた。


気づけば学校に着き、下駄箱まで来ていた。

「おっは!今日の仲良く登校ですか?」

「は?別に仲良くないし」

「またまたー、可愛くないないぞー?陽夏」

ましろの言葉に私はムスッとする。すると、私の横を通り過ぎる夏弥の姿が見えた。挨拶しようと思った私は夏弥に声をかけに行こうと足を踏み出した。

「なつ───」

「陽夏ー」

夏弥に話しかけようとしたとき、泰輝に話しかけられた。

「な、なに?」

「うっめぇ〜」

何を言ってるのかと泰輝の手元を見ると、私に朝渡そうとしてくれたであろうメロンパンを食べていた。

「あー!それ……」

私は驚き、口を開け、ポカーンとなる。ニヤニヤしながら泰輝は「じゃっ」と手を振り、自分の教室へと向かった。

不思議に思ったましろが泰輝を見る。すると私を見てましろはニコニコする。

「な、なに」

「いやぁ、ほんと仲良いなって思ってさ」

「はぁ?!なんで!仲良くないし!」

「陽夏は素直になる練習しなー」

(素直……)

素直になれたらとっくにできてるだろうと思いつつ、私はましろと教室へ向かった。



教室に着くと、夏弥の姿があった。席につき、教科書類を出す。そして思っいきって夏弥に話しかける。

「お、おはよう」

窓の外を向いていた夏弥がこっちを向く。

「はよ」

嬉しくなった私続けて会話をしようと口を開こうとしたが、夏弥はすぐ机に腕を組み、寝てしまった。

(迷惑だったかな……)

きっと眠いのだろうと思い、話しかけるのはあとにしようと決め、私友達の方へと向かった。なぜかその時、私は誰かからの視線を感じた。





ピピッ!


体育館に笛の音と上履きのキュッという音が響く。あれから1週間、私は夏弥に話しかけられずにいた。

体育館の隅っこでチーム交代を待っていたとき、「はぁ……」と思わず溜息が出る。

溜息に気づいたましろと梨花が不思議そうに「どうした?」と聞いてきた。

「いやぁ?なんか勇気出ないなぁって思って」

「もしかして戸張くんのこと?」

「………え?」

驚く私に2人は笑う。

「だって分かりやす過ぎるもん陽夏。話しかけたいオーラが凄い」

そんな分かりやすい態度をしていたのかと我ながらにして驚く私に梨花は言う。

「まぁ勇気なんて最初は早々出るもんじゃないっしょ。戸張くん今年も図書委員なんじゃなかった?図書室行けば話しかけられるんじゃん?」

「だね。戸張くん放課後とか、たまにテスト前とか?図書室いるの見かけるよ。たださ……」

ましろの言葉が詰まった。

「……ただ?」

私は恐る恐る聞き返す。

「戸張くん、友達といるとこ見たことなくてさ。先生と戸張くんが話してる時、なんか友達作りたくないって言ってて、理由は良く聞こえなかったから分からないけど……」

ましろの言葉に私はリアクションできなかった。夏弥と友達になりたいと思っていた私はますます話しかける勇気をなくした。

「んでも、話しかけることは別に悪くないんじゃん?クラスメイトだしさ」


ピピーッ

「梨花ー、ちょっと交代してー」

「はーい。よし、私交代してくるわ」

笛の音に梨花はコートへ向かう。バレー部の梨花。飛ぶ鳥の様に早く美しいフォーム。私はいつも目を奪われる。

(いいな…)

「相変わらず上手いよねぇ梨花のバレー」

隣でましろが言う。ましろだってスポーツ全般できる。中学生のとき、3人でバレーを良くしていた。1対1で勝負したり、2対1やったり、楽しかった。

「陽夏はさ、もうバレーやらないの?」

「……分からない」

少し考えたが、いつもの返答。正直分からないんじゃない、できないんだ。あの時起きた怖さはまだ忘れられず私の脳裏に焼き付く。




────3年前。


当時私が中学2年生だった頃。私はバレーに夢中だった。3年生をもう引退し、私たちの代になった冬の話。毎日厳しいトレーニングの日々。それでも楽しかった。大好きなバレーができたから。高校は絶対強豪校に行くんだと決めた時期。練習試合中、私は膝を痛めた。今までバレーで怪我なんて一度もしたことがなかった。テーピングで固定し、休むことなくバレーを続けた。遂に限界を迎えた膝を庇うように歩くようになった。見兼ねたコーチが「病院へ行きなさい」と私に言ってきた。その結果、無理をしていた為、怪我は悪化。遂にドクターストップがかかった。

その日から部活を見学、運動全般禁止になった。

(痛い、痛い、痛い、悔しい、悔しい、悔しい……)

私はいるのに、気持ちはできるのに、なぜかバレーができなかった。目の前にコートがあるのに、その場に立てなかった。ただ膝を痛めてしまってるだけで…。テーピングもアイシングも欠かさずしていたのに、どうしてこうなってしまったのか。私は神様を恨んだ。


昼休み、私は1人で体育館へやって来た。倉庫にあるバレーボールに手を付け、地面へ叩きつける。得意だったジャンプフローターサーブ。今ではできない。ネットの高さを想像し、私はボールを高く上へ投げる。ジャンプし、ボールを打つ。久しぶりのジャンプサーブ。気持ちが良かった……だけどすぐに痛みが走る。着地した瞬間、痛みのあまり、地面にうずくまってしまった。悔しさで涙が溢れる。

(なんで……なんでなんで…!)

拳を作り、地面に打ち付ける。ドンッと重い音が体育館に鳴り響く。そこにたまたま私を探しに来たましろと梨花が助けに来てくれた。まだ完治していない膝はしばらく痛み続けた────


こうして月日が過ぎ、引退試合。マネージャーとして、コートのベンチに座る。

2ヶ月前、医師から伝えられたのは"もうバレーをすることはできないでしょう"だった。私は頭が真っ白になり、目のハイライトも消えていただろう。母は必死に慰めてくれた。でも何も癒えなかった。心にポカンと穴が空いたような感覚で、何日かご飯もろくに食べられなかった。遂に、部活にも足を運べなくなった。バレーを見ると辛くなるからだ。後輩からは来てほしいと稔を押される。同級生も、梨花も同じことを言う。見かねたコーチは私にこう言ってくれた。

「自分の足を救えないなら、他の人の足となりなさい。君の目や技術は素晴らしい。だから君がバレー部に必要とされる意味が分かるよ」

最初は意味が分からなかった。人の足になる?バレー部に必要?しばらく考えた。


数日後、私はコーチに呼び出され、何かを渡された。バレー部からの色紙だ。手紙もあった。

「なんで……?」

私の問いにコーチは「まぁ見なさい」と言っているかのように顎を突き出す。書いてあることは私のプレーのことよりも、アドバイスに感謝していることが多かった。


『先輩のアドバイスは的確です!癖直しできたんで、今度見てください!』

『肩が痛いの、誰にも言ってなかったのに先輩は気づいて治し方教えてくれました。私あの時からずっと先輩に感謝を伝えたくて…早く会いたいです!』

『先輩の背中飛んでなくても羽が見えます。かっこいいです。先輩みたいになりたいです』


沢山のメッセージに私は泣いてしまった。嬉しくて、こんなにも私を待ってくれる人がいた。気づけなかった。

「無理にとは言わん。だが、俺もお前にはいてほしいと思う……陽夏どんな形でもいいからな、待ってるぞ」

涙腺破壊させるようなコーチの言葉にまた涙が溢れる。


「コーチ」

「なんだ?」

「私にマネージャーをやらせてください」

コーチは驚き、微笑み返してくれた。


私はそこからバレーの研究を前以上に取り組んだ。マネージャーとして、1人の選手として────



今私はベンチにマネージャーとして座っている。マネージャーとして始めてから何冊ノートが増えただろう。試合の記録、相手校の選手の特徴、業績。などなど書いたものは計り知れない。点が決まる度につき足していく1ページ。そしてあっという間に引退試合が終わった。

惜しくも全国大会出場はできなかったものの、過去最高を残した。


そして引退。この日限りでの引退。もうバレー部としてここに来ることはない。皆一人一人最後のコメントを述べていき、最後は私。

「……まぁ言いたいこととしたらいっぱいあるけど……マネージャーとして、一言。皆、ありがとう!」

私の言葉を最後に皆で大号泣。怪我をした時よりも私は泣いた。

もう後悔はないだろうとその時心に決めた────





フフッと私は笑った。

「どうした?なんか変なことでもあった?」

「ん?なんでも。ただ、懐かしいなと思っただけだよ」

そんなことを考えてるうちに試合は終わり、授業も終わりのチャイムがなりそうだった。道具を片付け、3人で更衣室へと向かう。ふと外を見ると、同じクラスの男子がサッカーをしていた。そこにポツンッと1人、立ちっぱなしの男の子がいた。思わず足を止める。

(あれは……夏弥?)

木々が揺れ、砂埃が舞うグラウンド。目に入るまいと、私は目元を隠す。その瞬間、風で体操服のがめくれ、素肌が見えた夏弥に目がいく。遠くからでも分かる。夏弥のお腹には傷跡が見えた────


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