新たなる道。
久々更新。
10月中旬まで多忙なので、不定期更新になります。
俺は主人公じゃない。
俺は攫われたヒロインを救える器ではないし、決死の思いで行ったのがただの人殺しという結末に終わった。
何の為に戦うのか。何をしていたのか。
ただ頭が呆然としていた。
まるで魂を抜かれたようだ。
人形みたいに動く事を忘れてしまった。
ベットにうつ伏せになり、泥のように眠る。
どうかこれが夢であって欲しい、そう願うように。
□■□
奏はアイシャの訃報を、アンネから聞いた。
奥山によって殺され、その当人もこの世にいない。
「そんな……」
散々泣いて赤らんだ目も、今は驚きの色へと変わる。
そして三年の間孤独に戦い続けた幼馴染を思った。
あの日。
悠里は奏ではなくアイシャを選んだ。
勿論あれは、彼女を助けに行く為でどちらが好きかという選択の場面でなかったのは理解出来た。
ただ、ようやく再開した幼馴染がまた離れる。
そんな不安や失望に奏はひたすらに泣いた。
「悠里、今は……?」
「いえ、いる」
アイシャに習ったばかりの言語でアンネの意を汲み取る。
そっか、家にいるんだねと精一杯に頷いた。
そして、何かが一気に吹っ切れた。
「一緒に行こ?」
気が付くと、奏はアンネに手を伸ばしていた。
アンネは消えてなくなりそうなか弱い声で囁く。
「なんで、アンネは……」
「私も負い目を感じてる。傍にいてあげられなかったし、悠里の隣に相応しくないのかも。でも───」
自らを鼓舞するように明るく振舞った。
「やっぱり奏は、悠里の幼馴染だからさ」
彼が辛いと言うなら隣にいよう。
苦しくて泣きそうだと言うなら背中を支えよう。
そうやってお互いの弱さを認めあって助け合う存在。
それが幼馴染だと思った。
奥山という脅威は晴れた。
なら次はこちらが恩返しをする番だ。
もう一度、前に一歩踏み出す為に。
□■□
アンネと奏は俺の変わり果てた姿に一瞬息を止めた。
部屋は暗い。
電池が切れたように動かない身体。ベットから身動きひとつ取れず、ただ時が流れていくのを感じた。
今は何時頃か。夜通し戦って、そろそろ夜更けか。
ギルドは休むか……もう行く意味もない。
「悠里」
「何の用だ」
「……っ、その……」
つい語気が荒んでしまう。
心配して来てくれたのに、酷い仕打ちだ。
情けない。
「ご主人様……」
「アンネ。お前ももう自由なんだ。こんな所に居ないでさ、自分の好きな所に行けばいい」
「どうして……そんな意地悪を言うの?」
嗚呼、腹が立つ。
俺はベットのシーツをくしゃりと掴んだ。
「じゃあ、俺にどうしろって言うんだよッッ」
弱々しい慟哭が朝を迎える前の部屋に響く。
「明日、明後日。いくら経っても……! アイシャは戻ってこないっ、俺が犯した罪は消えないんだ……ッ、ァァァ……ッ」
俺は人殺しだ。
両親よりも凶悪な、日本において最も重き罪。
「そんな事ないよ」
「はぁ!? なんで……俺はっ」
「悠里は守ろうとしたんだよ。皆を、私を……」
守る?
そんなのはただの偽善だ。
この世界は、晴らしきれなかった俺の鬱憤を思うがままにぶちまけられる、そんな都合のいい場所だった。
善人らしい事は何一つしていない。
「俺は……どうすればいい」
奏は言葉を詰まらせる。
強く唇を噛んだ。
俺の中に隠れていた、脆い部分が全てさらけ出された。
中学二年の時から止まっていた時が動き出す。
両親が失踪し、俺は暗殺され、異世界へと辿り着いた。
そこでようやく見つけた最愛すらも同郷の人間に奪われた。一時の平穏も、全ては絶望へ導く伏線だったとして、俺はやはりこの世にいるべき人間ではないのかもしれない。
奏もアンネも、強く意見をいう方ではない。
だから今回も、俺をただ傍で眺めるだけ。
そうなると思っていた。
俺の肩を強く握りしめる手に気が付いた時、俺は目が覚めた。
悔しさを滲ませた表情で、それでも立ち止まらない強い意志。
嗚呼、この子は……アンネは。
「ご主人様……この国から出よう」
一つの提案を持ち掛けた。
「やり直そう。また一から」
このどうしようもない国を捨てて。
何も知らない道へと足を踏み出して。
ようやく、スタートラインへ立つ。
「アンネ、実は色々考えて来たんだ。アンネの国ラナンキュラスは黒竜王のせいで滅亡の危機に瀕している。そこにふとご主人様がやって来て、あっという間に竜を倒しちゃうの」
これからの未来を語るアンネ。
その目は希望という光に満ちていた。
頬に涙の痕を残しながら、強がった笑みを見せる。
こんな華奢な身体でも心は凄く強いんだ。
それに対して俺はどうだ。女を失って泣くばかり。
馬鹿みたいだ。
「ご主人様は他の人達に実力を認められて、国に帰ろうとしても引き留められちゃう。ご主人様は『しょうがないなぁ』って頭を掻きながら、ラナンキュラスに留まる事を決意する。すると、案外環境にしっくりきて、いつしか戻りたいって感情が失せてきて……」
全部忘れろ、なんて都合のいい解釈だ。
ついでに言えば、ラナンキュラスとライゼンベルクは敵対国。敵国に寝返っていざ戦争が始まれば顔見知りと殺し合いが始まる。
それでも……。
「いいな……それ」
ははは、と乾いた笑みが零れた。
窓から部屋に差し込む金色の光。
俺達は朝を迎えた。
「悠里……」
「奏。俺はさ、多分疲れちゃったんだよ」
波乱の十七年間。
それに今日、終止符を打つ。
俺を知る人間が周りにいない環境で。
新たな王に迎えられて、新たな人生を歩む。
アンネと奏と三人で……!
「亡命か……ははっ、なんかうきうきするな」
「ふふ、だよね」
「向こうに行ったら何しようか」
「アンネが案内するよ。こう見えても結構詳しいんだよ」
「ほう、じゃあ美味しい店屋を紹介してもらおうか」
「うんうん、任せてご主人様っ」
「えぇ、嘘でしょ……」
急展開に奏は置いてけぼり。
でも、表情はどこか柔らんでいた。
「よし。なら今日はギルド長に退職届でも出しますか」
「え~!? 急展開過ぎだよ!!」
心に負った傷はすぐに癒える事は無い。
だが前を向いて歩けば、いつか幸せというゴールに辿り着ける。少なくとも今の俺達はそう考えていた。
case3完結!
まさかの展開、そして新天地へ───。





