面白くなかったらゲームじゃない
(ここに来たのは偶然だ。)
(人との待ち合わせがたまたまここ、聖都ルクレディア西の酒場だっただけのこと。)
(だが、この結果は偶然ではない。)
カラン! と酒場のウェスタンドアを開け、男が日本の刀を鞘に納めながら入ってくる。
男は鮮やか紫色の着物を右肩だけ袖を通さず、着崩しており、着物の下は一本に結った長い髪を残して、顔から指の先まで、包帯で巻かれている。
「おーやっと来たか、抱影」
飲みかけのジョッキをドン! とテーブルに戻し、無精髭を蓄えたガタイのいい男が抱影と呼ばれた男を迎える。
「どうした? 街中で自慢の刀なんて抜いて」
「なんか外が騒がしかったわね…」
丸いテーブルの向かいに座っていた女が抱影の肩ごしに扉の外を覗く。
「やられた……」
「は? PKでもされたってのか? お前が? 笑わせるな、お前が誰に負けるってんだよ」
「死んだわけじゃないし、確かに俺が切った」
「? なにか問題でも?」
「何をされたかわからなかった……」
抱影はこの店に入るちょっと前、外の噴水の前でトラブルに巻き込まれた。何やら人が集まっていると思ったそのとき、突然アンデッドの集団が襲ってきたのだ。
突然のことではあったが、抱影はその主犯格であろう人物を捉え、切り捨てた。……と思った。
手応えはあった。大量のダメージエフェクトがそれを物語っていた。しかし、その主犯格らしきプレイヤーは自分の斬撃など気にも留めず、走り去っていったのだ。そして何をされたのか分からないが、自分のHPが3割も、ダメージエフェクトも無しに消し飛んでいた。
一対一では無類の強さを誇るトッププレイヤーだとういう自覚がある。しかし、何をされたかわからないということが、抱影に「やられた」と思わせるには十分な理由であった。
「相変わらず口下手だな、何言ってるかわかんねぇぜ。それよりお前からも何か言ってくれよぉ」
「ミサがギルドを抜けるって言うんだ」
抱影「ジエン、止めても無駄だろう」
ミサ「あら、わかってるじゃない、抱影」
ジエン「んー、でもよう、理由くらい教えてくれたっていいじゃないか」
ミサ「面白そうなことを見つけた、そう言ってるじゃない」
ジエン「全然わからん、お前を慕ってこのレオンベルガーにいるやつだっているんだ、ギルド名だってお前の意見が採用されてだな……」
ジエン「ところでレオンベルガーってどんな意味だ?」
ミサ「うちで飼ってる犬の犬種」
ジエン「な、なにぃ! そんな簡単な由来だったのか!?」
ジエン「強そうだからって俺も賛成しちまった……」
ミサ「クフフフっ!」
抱影「俺は知っていた」
ジエン「知らなかったの俺だけかよぉ」
ミサ「面白いと言えばもう一つ。アイゼン・フェッセンが竜種を見つけたらしいわよ」
ジエン「竜! ファンタジーな世界なのになぜか今まで出現情報がなかったが……、倒したのか?」
ミサ「いやー、これがね。倒したらしいんだけど、なんと相打ち」
ジエン「相打ちぃ!? まさかドロップアイテムも拾えなかったってことか!?」
ジエン「はっはっはっは! そりゃいいや! アイゼン・フェッセンは隊長は腕が立つらしいが、好きじゃねぇ。数の暴力でフィールド・ボスやレアモンスターを牛耳ってやがる。いい気味だぜ」
ミサ「わたしもー。あそこ軍隊みたいで面白くなさそうー」
抱影「同意」
ミサ「まぁ、そういうことでさ。嫌になったとかじゃないんだ。ほんとに」
ミサ「たまには遊びにくるから、抜けても仲良くしてよ」
ジエン「うーん、納得したわけじゃねぇが。相分かった! ギルドのイベントには声掛けるからな、気が向いたら仲間と参加してくれ。お前のことだ、他から誘いがあったわけじゃねぇだろうから、作るんだろ?新しいギルド」
ミサ「もー、お見通しかぁ。まだわかんないけど、多分ね」
ミサ「それじゃ、また! 今日は落ちるわ。レオンベルガーの散歩しなくちゃ」
ジエン「おう!」
ミサは笑顔で手を振り、店を後にした。
ジエン「いい女だなぁ、まったく」
抱影「ジエン、惚れてたろ」
ジエン「もー、お見通しかぁ」
抱影「その髭面でミサのモノマネは流石に引く……」
ジエン「自重します……」




