表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の皇太子の仮面の下は、没落婚約者への狂愛で満ちている  作者: 迦陵れん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/15

ローレンツ編 3

 翌日、庭園の東屋。


 アネットが、あのサファイアの首飾りを身につけて現れた。


 地味なドレスに、あまりにも鮮烈な青。だが、それが彼女の気高さをより一層引き立てていて、俺の心臓は狂ったように鼓動を刻んだ。やはり、世界一似合う。


「ふん……まあ、悪くない。我が国の面汚しにはならんようだ」


 心臓が口から出そうなのを隠すため、あえてぶっきらぼうに品評する。アネットはただ、「ありがとうございます」と人形のように微笑んだ。その距離感が、もどかしくて堪らない。


 そこへ、急な公務の伝令が入った。


「すぐに戻る。ここで待っていろ」


 そう言い残して席を外したが、胸騒ぎがして、俺は異例の速さで公務を片付け、東屋へと引き返した。


 遠くから見えた光景に、俺の血は一瞬で沸騰した。


 セリーヌ・フォン・バルドゥール。アネットの実家を嵌めた、あの邪悪な女が、アネットの首元を扇で指差して嘲笑っている。


 急いで近づくと、セリーヌが俺に気づき、甘ったるい声を上げて擦り寄ってきた。


「ローレンツ殿下ぁ! 没落したアネット様では、国の恥ですわ。ぜひ、このセリーヌを隣に――」


 俺の瞳は、怒りで底知れないほど冷たく凍りついていた。今すぐこの女の首を撥ねてやりたい。


 だが、まだバルドゥールの不正の全容は掴めていない。ここで俺がアネットを庇えば、この狂女とその実家は、アネットを「明確な排除対象」として命を狙い始めるだろう。


 アネットを守るためには、この女の前で、アネットに価値などないと言い切らなければならない。


 俺は、自分の心臓を自らナイフで突き刺すような心地で、血を吐くような「演技」を始めた。


「……バルドゥール令嬢。アネットはただの、我が国の温情を示すための『飾り』に過ぎん」


(違う。俺の、俺だけの唯一無二の宝だ)


「夜会に出さぬのもその意だ。君がそんなものに、いちいち目くじらを立てる必要はない」


(そんなものじゃない……! 頼む、アネット、俺を見るな、その言葉を聞かないでくれ……!)


 アネットの顔から、完全に血の気が引いていくのが見えた。


 その絶望に染まった表情を見た瞬間、俺の理性がメリメリと音を立てて軋んだ。守るための嘘が、彼女を生きながら殺している。


「では、失礼いたします……」


 アネットが去っていく。その背中を追いかけたい衝動を、俺は血が出るほど唇を噛み締めて堪えていた。


(待ってくれ、アネット……! あと少しだ、あと数日で、あのゴミ虫どもを全員地獄へ送る……! だから、だからそれまで、俺を信じてくれ……っ!!)


 心の中でいくら叫んでも、彼女には届かない。


 俺の完璧すぎる「冷徹な演技」が、二人の間の亀裂を、修復不可能なほどに深めていくのだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ