ローレンツ編 2
国中の宝石商を脅し、文字通り地眼になって探させたサファイアの首飾り。
アネットの、あの吸い込まれそうな青い瞳に完璧に調和する、最高級の逸品だ。
夜会に出られない彼女が、少しでも寂しくないように。俺からの、不器用な求愛の印だった。
側近のディミトリに「早く直接渡してきなさい」と背中を押され、心臓が爆発しそうなほどの緊張を隠しながら、俺は彼女の部屋へと足を踏み入れた。
「――受け取ったようだな」
腕を組み、精一杯の威厳を保って声をかける。だが、アネットの怯えたような表情を見た瞬間、俺の脳内はパニックに陥った。
「ローレンツ殿下……。あの、この素晴らしい首飾りは……」
「来週の夜会、君は欠席だが」
緊張のあまり、また余計な一言が口から滑り落ちる。視線をどこにやっていいか分からず、俺はふいっと顔を逸らした。
「我が国の皇太子の婚約者が、碌な宝飾品も持たずに部屋に引き籠もっているとあっては、外聞が悪い。私からの『施し』だ。大人しく持っておけ」
(……あ、)
言い終えた瞬間、自分の脳味噌を叩き割りたくなった。
「施し」だと? 「外聞が悪い」だと?
違う。お前が世界一似合うから、君の瞳を俺が独占したかったから捧げただけだ。それなのに、口から出るのは、彼女のプライドをずたずたに引き裂くような呪いの言葉ばかり。
アネットの瞳から、みるみるうちに光が消えていく。彼女は人形のような、完璧で、血の通わない笑みを浮かべた。
「……お心遣い、恐れ入ります、ローレンツ殿下。没落した私にはいささか分不相応な品でございます。身の程を弁え、大切に、箱の奥に仕舞っておきますわ。二度と日の目を見ることはないでしょうけれど」
「……、……仕舞っておく、だと?」
俺の声音が、驚愕と絶望で低く険しく響く。
(仕舞っておく!? つけないのか!? なんでだ!? お前のために、国を傾けるほどの金を積んで手に入れたのに……!)
「ええ。殿下の面汚しにならぬよう、この部屋から一歩も出ず、大事に保管いたします」
深々と頭を下げるアネットの頭頂部を見つめながら、俺は絶句していた。
面汚しなわけがない。お前は俺の光だ。
「……そうか。好きにしろ」
これ以上ここにいたら、情けない本音が漏れてしまいそうだった。俺は逃げるように踵を返して部屋を出た。廊下に出た瞬間、壁に頭を打ち付けたくなるほどの自己嫌悪が俺を襲った。




