弁当と採取依頼
朝の《深淵の鍋》はいつもより少し忙しかった。
ガルドが厨房で大きな弁当箱を4つ並べながら、エレナに声をかけた。
「よし、準備できたぞ。今日は赤い牙に『黄金マッシュルーム』と『火竜の葉』の採取を依頼する。
弁当は事前に渡してやることにした。ダンジョンで腹ごしらえさせて、効率を上げてほしいからな」
エレナは無表情で弁当箱をチェックしながら淡々と言った。
「了解しました。報酬は金貨15枚+弁当提供で設定します。
ただし、食材の品質が悪い場合は、次回依頼を値下げすると伝えてください」
午前中、赤い牙の4人が店に集合した。
リーダーの戦士・レオンが手を上げて挨拶した。
「親父、呼び出して悪かったな。今日は何の依頼だ?」
ガルドは4つの立派な弁当箱をカウンターに並べ、説明した。
「紅の洞窟の奥で『黄金マッシュルーム』と『火竜の葉』をそれぞれ20個ずつ採ってきてくれ。
報酬は金貨15枚だ。……その代わり、これを持って行け」
ミアが目を丸くした。
「えっ、これ……弁当?」
ガルドが胸を張って答えた。
「ああ。ダンジョンに入る前に食って、途中で腹が減ったら中でも食え。
今日は俺が気合を入れて作った特製弁当だ。まだ温かいぞ」
エレナが無表情で補足した。
「中身は黄金マッシュルームの試作用と火竜の葉の風味を少し使っています。
栄養バランスは計算済みです。食べ残しは厳禁です」
4人は興味津々で弁当箱を開けた。
- 黄金マッシュルームと牛肉の炒めご飯(まだ湯気が立っている)
- 火竜の葉で香り付けした鶏の唐揚げ
- チーズたっぷりの卵焼きと野菜の煮物
- 小さな蜂蜜入りフルーツデザート
シーラが珍しく柔らかい表情で言った。
「……温かい。ダンジョンに行く前にこんな本格的な弁当をもらえるなんて、初めてだわ」
ダンが笑いながらレオンを肘で突いた。
「おいおい、親父が本気出してるぜ。エレナさんの計算も入ってるんだろうけど……これは嬉しいな」
レオンが弁当箱を大事に抱えながらガルドに笑顔を向けた。
「親父、ありがとな! これ食って、しっかり採取してくるよ。品質は保証するぜ」
ミアがエレナに向かって明るく言った。
「エレナさん、ありがとう! 絶対美味しく食べるね!」
エレナは表情を変えずに、淡々と言った。
「感謝の言葉は不要です。
重要なのは、食材の新鮮さと量、そして弁当を無駄にしないことです。
帰ってきたら、率直な感想を提出してください。次回の味の改善に使います」
ガルドが大きな声で送り出した。
「腹いっぱい食って、気をつけて行ってこい!
無事に帰ってきたら、また新しいメニューを考えてるからな!」
赤い牙の4人は温かい弁当を抱えて、意気揚々とダンジョンへと出発した。
閉店後、ガルドがエレナに聞いた。
「どうだ? あいつら、かなり喜んでたろ?」
エレナは帳簿に数字を書き込みながら、平坦な声で答えた。
「はい。依頼受諾率と食材品質の向上が見込めます。
事前弁当の効果は予想以上でした。
次回は弁当の量を1.2倍に増やし、報酬を若干値下げする方向で調整します」
ガルドは苦笑しながらため息をついた。
「お前は本当に、優しさも全部計算に組み込むんだな……」
翌朝、店の看板にエレナの綺麗な字で新しい注意書きが追加された。
『採取依頼には事前弁当が付きます。
弁当をダンジョン内で無駄にしないようお願いいたします。
食べ残しがあった場合は、次回報酬を減額します。』
最後に一言。
勘定は、必ずお支払いください。
――エレナより




