龍の肝臓の鉄板焼き
《深淵の鍋》の厨房は、今日はいつもより重厚で濃厚な香りが漂っていた。
ガルドが大きな鉄板の上で、巨大な臓器のようなものを豪快に焼いていた。
その表面は深い赤紫色で、焼けるたびに魔力の粒子がわずかに踊っている。
「今日の超目玉メニューはこれだ!
ダンジョン最深部でようやく手に入れた『若き紅龍の肝臓』の鉄板焼き!
魔力の塊みたいな濃厚な旨味と、食べると体の中から力が湧いてくる逸品だぞ!」
エレナが無表情で冷静に分析した。
「紅龍の肝臓は、極めて高濃度の魔力と活力成分を含んでいます。
効果は強力ですが、副作用として『闘争本能の過剰活性』と『理性の低下』が確認されています。
特に戦士職の客には注意が必要です。
一人前につき、追加で中和剤を推奨します」
ルルは目をキラキラさせながら鉄板を覗き込み、興奮気味に言った。
「わあ! すごい匂い! ルルも少し手伝ったよ!
龍の肝臓、切るのめっちゃ硬かった!」
ちょうどその頃、赤い牙の4人が店に入ってきた。
レオンが鼻をひくつかせて目を輝かせた。
「おいおい、これはかなりヤバそうな匂いだな……!
龍の肝臓って、マジで出してんのか!?」
ミアが少し後ずさりしながら言った。
「えっ……本当に龍の肝臓? なんか危険な予感がする……」
ルルがにこにこしながら4人に説明した。
「大丈夫だよ! ガルドおじちゃんが丁寧に焼いてるもん!
でも、食べ過ぎると……ちょっと熱血しちゃうかもしれないよ?」
4人は興味と警戒が入り混じった顔で、龍の肝臓の鉄板焼きを注文した。
鉄板の上では、龍の肝臓がジュージューと音を立て、濃厚な肉汁と魔力の香りを撒き散らしていた。
レオンが最初に一切れを口に運んだ瞬間——
彼の目がカッと見開かれた。
「……うおおおっ!?」
次の瞬間、レオンの全身から闘気が爆発的に立ち上った。
「すげえ……体の中から力が……! 俺、今なら魔王でも倒せそうな気がするぞ!」
ミアも頰を赤くして興奮した。
「魔力の回復が異常……! 頭の中がクリアになって、魔法の精度が上がった気がする!」
しかし、効果はすぐに本領を発揮し始めた。
ダンが突然立ち上がり、剣を抜きかけた。
「俺……今、めちゃくちゃ強くなった気がする……!
誰か相手してくれ! 今なら勝てる!」
シーラは冷静さを保とうとしたが、弓を握る手に力が入りすぎて、
「ちょっと……闘争欲が抑えられない……」と呟きながらテーブルを叩いた。
レオンは目を血走らせながら大声で叫んだ。
「ガルド! もう一皿だ! 俺はまだ戦える!」
店内は一気に熱血モードに突入した。
常連のおじさんたちも影響を受け始め、
「俺も強くなった気がする!」「喧嘩するか!?」という声があちこちから上がった。
エレナは無表情のまま、冷たく告げた。
「現在、店内の闘争本能が平均で380%上昇しています。
中和剤を配布します。追加料金で。
英雄の証をお持ちの方は、特別料金となります」
ルルはカウンターの上でぴょんぴょん跳ねながら大喜びしていた。
「わー! みんな熱血してる! 龍の肝臓、すごいね!
ルルも食べてみたい!」
ガルドは厨房で頭を抱えながら笑った。
「……美味いのは確かだが、毎回こうなるんじゃ店が持たねえぞ」
結局その日、赤い牙の4人は中和剤を飲まされるまで熱く語り合い、
シーラが珍しく「もう一皿」と注文するなど、店はいつになく熱気に包まれた。
閉店後、ガルドがエレナに聞いた。
「どうだった? 龍の肝臓、評判は上々だったろ?」
エレナは帳簿を閉じながら、淡々と言った。
「売上は優秀でした。
ただし、闘争本能の副作用が強すぎます。
次回は『若き紅龍の肝臓』を『成熟した青龍の肝臓』に変更し、
効果をマイルドにしたバージョンで出すことを提案します」
ルルは厨房の椅子に座りながら、にこにこ笑って言った。
「ルルは楽しかったよ!
みんなが『俺は強い!』って言ってるの、面白かった!」
ガルドは深いため息をつきながら、看板に新しい注意書きを追加した。
『龍の肝臓は闘争心を高めます。
喧嘩をしたい方は追加料金にて対応いたします。
おすすめしません。』




