エレナの非情な料理指導
閉店後の厨房は、まるで試験場のような緊張感に包まれていた。
ルルがエプロンを着け、背筋をピンと伸ばしてエレナの前に立っていた。
今日はルルが「エレナお姉ちゃんに料理を教えてほしい」と頼み込んだ結果、特別指導が行われることになった。
エレナは無表情で冷たい視線をルルに固定したまま、淡々と告げた。
「ルル。今日の課題は『黒鉄キノコのクリームリゾット』です。
条件は三つ。魔法は一切使用禁止。時間は25分以内。出来栄えが基準に達しなかった場合、
明日から二週間、厨房への立ち入りを禁止します。良いですか?」
ルルは少し顔を青ざめさせながらも、拳を握って答えた。
「……う、うん! 頑張る!」
エレナの指導は、容赦のないものだった。
「キノコの切り方からやり直し。
その切り方は雑です。繊維を断つように、一定の厚さで切る。
今の切り方では食感が20%低下します。やり直し」
ルル:「ひゃっ! ご、ごめんなさい!」
「火加減が不安定です。現在の温度は最適値より4.7℃高い。
感覚で火を調整するのは非効率的。温度計を使いなさい。
……遅いです。もう一度最初からやり直してください」
ルルは額に汗をびっしょり浮かべ、唇を噛みながら作業を繰り返した。
エレナは一切表情を変えず、容赦なく指摘を続けた。
「米を入れるタイミングが遅すぎます。
すでにアルデンテの最適時間を8秒超過しています。
この時点で失敗確定です。鍋を洗って最初からやり直し」
ルル:「えっ……まだ途中なのに……?」
エレナの声がさらに冷たくなった。
「途中だからといって甘く見るのは間違いです。
料理に『頑張ってる』という言葉は不要。結果が全てです。
時間も残りわずかです。早く」
ルルは目に涙を浮かべながらも、必死に鍋を洗い、再挑戦を始めた。
ガルドが横から口を挟もうとしたが、エレナの冷たい視線に射抜かれて黙り込んだ。
25分が経過した。
ルルが震える手で完成させたリゾットを、エレナが無言で一口食べた。
長い沈黙の後、エレナが淡々と言った。
「不合格です。
味のバランスが崩れ、火加減のムラが顕著で、クリームの乳化も不十分。
基準に達していません」
ルルは肩を落としてうつむいた。
「……ごめんなさい」
エレナは容赦なく続けた。
「謝罪は結果を変えません。
明日から二週間、厨房には近づかないでください。
その間、皿洗いと床掃除だけを担当します。
成長したいのであれば、まずは基礎を徹底的に固めなさい」
ルルはうつむいたまま、小さな声で言った。
「……うん。わかった。
エレナお姉ちゃんの言う通り……ルル、まだ全然ダメだね」
エレナは無表情のまま、静かに付け加えた。
「自覚があるなら結構です。
二週間後、もう一度同じ課題をやります。
その時に同じ結果だった場合、指導を永久に打ち切ります。
良いですか?」
ルルは涙目になりながらも、しっかりと頷いた。
「……はい。頑張ります」
ガルドは遠くからその様子を見て、苦々しい顔で呟いた。
「……エレナ、お前、ちょっと厳しすぎるんじゃねえか……」
エレナは振り向かずに、平坦な声で答えた。
「甘やかして才能を腐らせるより、厳しくして伸ばす方が効率的です。
ルルが本気でこの店に貢献したいと言うのであれば、これくらいの壁は越えてもらいます」
ルルはエプロンを脱ぎながら、小さく微笑んだ。
「エレナお姉ちゃん……ありがとう。
厳しいけど……ルル、ちゃんと強くなりたいから」
エレナは一瞬だけ視線をルルに落とし、ほとんど聞こえない声で言った。
「……期待しています」
ルルは驚いた顔をしたが、エレナはすぐにいつもの無表情に戻り、
帳簿を閉じて厨房を出て行った。
厨房に残されたガルドは、ため息をつきながらルルの頭を軽く撫でた。
「まあ、頑張れよ。エレナの奴、ああ見えて少しは期待してるみたいだからな」
ルルは涙を拭きながら、小さく頷いた。
「うん……ルル、頑張る」




