雲キノコオムレツとルルファン
《深淵の鍋》の店内は、午後からいつもの常連客で賑わい始めていた。
ガルドが厨房でフライパンを振るいながら大声を出した。
「今日の新メニューは『雲キノコのふわふわオムレツ』だ!
ダンジョン中層の浮遊森で採れた雲キノコを使っている。食うと体が軽くなって、雲の上にいるような感覚になるぞ!」
エレナが横から冷静に補足した。
「浮遊効果が強いので、食べ過ぎると天井に張り付く可能性があります。
一人一皿までと制限します」
そこへ、裏口から明るい声が響いた。
「ただいまー! ルル、来たよー!」
銀髪に大きなリボンを付けた幼女・ルルが、元気よく店内に飛び込んできた。
ルルはすぐにエプロンを着けると、キッチンに立ってガルドの隣に陣取った。
「ガルドおじちゃん! 今日もルル、手伝うね! もちろん、いいよね?」
ガルドは少し引きつつも、すぐに頷いた。
「……ああ、頼む」
エレナも無表情のまま、小さくため息をついた。
「……了承します」
すると、店の常連である中年冒険者のおじさんたちが、次々とルルに声をかけ始めた。
「おうルルちゃん! 今日も来てくれたか!」
「ルルちゃんの笑顔を見ると疲れが飛ぶわー」
「今日も可愛いなあ。おじさん、元気出るぜ!」
ルルはカウンター越しに笑顔で手を振りながら、明るく応じた。
「こんにちはー! おじさんたち、今日もいっぱい食べてね!
ルル、頑張ってオムレツ作るよ!」
特に常連のおじさんたちからの人気は異常だった。
彼らはルルを「店のアイドル」「癒し系」と呼んでおり、ルルが来ている日にはわざわざ来店する者も少なくない。
一人の髭面の斧使いのおじさんが、照れくさそうに言った。
「ルルちゃん、今日もそのリボン可愛いぞ。おじさん、毎日見に来てる甲斐があるわ」
ルルはにこにこしながら答えた。
「えへへ、ありがとう! おじさん、いつもルルのこと褒めてくれて嬉しいよ!
今日は特別に、ルルが雲キノコをふわふわに焼くの手伝うね!」
ルルがオムレツを焼いていると、赤い牙のパーティも入ってきた。
ミアがルルを見て目を細めた。
「ルルちゃん、今日も元気だね! おじさんたちに囲まれてる」
レオンが笑いながら言った。
「ルルは常連のおじさんたちにめちゃくちゃ人気だよな。
俺らよりよっぽど愛されてる気がする」
ダンがからかいながらルルに聞いた。
「ルルちゃん、おじさんたちにそんなに人気で嬉しい?」
ルルはオムレツを盛り付けながら、にっこり笑って答えた。
「うん! おじさんたち、みんな優しいもん!
『ルルちゃん可愛い』って毎日言ってくれるし、ルルが失敗しても怒らないんだよ!
エレナお姉ちゃんみたいに冷たくないもん!」
エレナが無表情で即座に反応した。
「私は冷たくありません。効率を重視しているだけです」
ルルは笑顔のまま、エレナに近づいて小さな声で言った。
「エレナお姉ちゃんも、実はルルのこと好きでしょ?
……ね?」
ルルの可愛らしい笑顔の奥に、ほんの少しだけ「圧」が感じられた。
エレナはわずかに視線を逸らした。
「……了承します」
常連のおじさんの一人が、オムレツを食べながら大声で言った。
「うめえ! このオムレツ、ふわふわで最高だ!
しかもルルちゃんが作ってくれたんだろ? 今日は倍美味いわ!」
別の常連のおじさんがルルに向かって手を振りながら叫んだ。
「ルルちゃん! また明日も来いよ! おじさん、ルルちゃんの笑顔目当てに来てるんだからな!」
ルルはカウンターから身を乗り出して、元気よく答えた。
「うん! 約束だよ! ルル、毎日来るからね!
おじさんたちも、たくさん食べて、元気になってね!」
ガルドは厨房の奥からその様子を見て、苦笑しながらエレナに小声で言った。
「……ルルが来てから、常連のおじさんたちの来店頻度が明らかに上がってるんだよな」
エレナは淡々と答えた。
「はい。ルルの存在は、40代以上男性客の集客力に特化しています。
……非効率的ですが、利益には貢献していると認めます」
ルルはオムレツを運びながら、明るく手を振った。
「みんな、ゆっくり食べてねー!
ルル、明日も絶対来るから!」
常連のおじさんたちは、口々に「楽しみにしてるぞ!」「ルルちゃん最高!」と声を上げた。
エレナは無表情のまま、静かに呟いた。
「……この店、だんだんルルの色に染まってきています」
ガルドはただ、髭を撫でながら笑うしかなかった。




