きらきらタルトと強引な手伝い
《深淵の鍋》の厨房で、ガルドがオーブンから取り出したのは、黄金色に輝くタルトだった。
「よし、完成だ! ダンジョン深層『光晶の園』で採れた『星輝果実』を使った特製タルトだ。
食えば口の中で光の粒が弾ける……ちょっとした夢を見られる高級デザートだぞ!」
エレナは無表情でタルトをチェックしながら、淡々と言った。
「星輝果実は魔力揮発性が高いです。食べ過ぎると幻覚と軽い陶酔状態になります。
原価率は41%。もう少し抑えたいところです」
そこへ、裏口の扉が勢いよく開いた。
「みんなー! ルルが来たよ!」
明るい声とともに現れたのは、銀髪の幼女・ルルだった。
見た目は10歳くらい。ふわふわのエプロンドレスに大きなリボン。
しかし、その笑顔とは裏腹に、彼女の瞳には底知れない光が宿っていた。
ルルはにこにこしながら厨房に入ってくると、ガルドとエレナを交互に見つめ、
可愛らしい声で、しかしはっきりと言った。
「今日もルル、手伝うね! 断らないよね?」
一瞬、空気が重くなった。
ガルドは髭を掻きながら、苦い顔で言った。
「……ルルよ。お前、毎回来るたびに『手伝う』って言うよな。
正直、邪魔になることも多いんだが……」
ルルは笑顔のまま、首を少し傾げた。
その瞬間、彼女の周囲の空気がわずかに歪んだような気がした。
「えー? ガルドおじちゃん、ルルのこと嫌いなの?
ルル、悲しいな……すごく悲しいよ?」
可愛らしい声なのに、どこか底冷えのする響きがあった。
エレナの表情が、ほんのわずかに固くなった。
エレナが冷静に切り返した。
「ルル。あなたは労働力として非効率的です。
むしろ損失を生む可能性が高い。帰っていただけますか?」
ルルはエレナの顔をじっと見つめ、にっこりと微笑んだ。
「エレナお姉ちゃんも、ルルのこといらないって言うの?
……ルル、寂しいな。
このお店、ルルが好きなんだけど……ずっと手伝いたいんだけど……」
その笑顔は可愛らしいのに、目が全く笑っていなかった。
店内の温度が少し下がったような錯覚を覚える。
ガルドはため息をつき、肩を落とした。
「……わかったよ。今日も手伝ってくれ。
ただし、危ないことはするなよ?」
エレナも、わずかに眉を寄せながら小さく頷いた。
「……了承します。ただし、衛生管理と効率を乱さない範囲でお願いします」
「やったー!」
ルルは一瞬で明るい笑顔に戻り、ぴょんぴょん跳ねながら厨房に入ってきた。
「じゃあルル、タルトの飾り付けやるね! きらきらにしちゃう!」
彼女は星輝果実のタルトの上に、持ってきた小さな花や光る結晶の欠片を器用に飾り始めた。
見た目は確かに可愛らしい。しかし、その動きには妙な迫力と正確さがあった。
エレナが横から指摘した。
「ルル。その光る結晶は『幻光晶』です。タルトに載せると魔力反応が強くなりすぎます」
「大丈夫だよ! ルル、ちょうどいい量わかるもん!」
ルルは笑顔のまま、しかし有無を言わせない口調で答えた。
ガルドは遠くからその様子を見て、ぼそりと呟いた。
「……あの子、見た目だけは天使なのに、なんか脅されてる気分になるんだよな……」
完成したタルトは、ルルの飾り付けによってさらに派手で魅力的な「輝きの星屑タルト」となった。
客に出したところ、女性客や若い冒険者から「かわいい!」「ルルちゃんが飾ったの?」と大好評だった。
ルルはカウンターから身を乗り出し、満面の笑みで手を振った。
「みんな、たくさん食べてね! ルル、頑張ったんだよー!」
エレナは無表情のまま、ルルの後ろで静かに監視を続けていた。
閉店後、ルルは満足そうにタルトの端を頰張りながら言った。
「今日もルル、手伝えて嬉しかった!
また明日も来るね。……来るよね?」
ガルドとエレナは同時に小さく頷いた。
「……ああ、来いよ」
「……了承します」
ルルは「えへへ」と無邪気に笑ったが、その瞳の奥には、やはり底知れぬ光が宿っていた。
ガルドはため息をつきながら、エレナに小声で言った。
「……お前も感じただろ? あの子、ただの幼女じゃねえよな」
エレナは無表情のまま、静かに答えた。
「感じました。
しかし、現時点では損失より利益の方が大きいと判断します。
……強制的に了承した形ですが」
看板には、その夜エレナの字で新たな注意書きが追加された。
『ルルの手伝いは強制的に了承しております。
文句は一切受け付けません。
……おすすめしません。』




