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海月万花8 パン屋飽きた

「もしかして緊張してるんですかあ?」


人を小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべ話しかけてきた。

朝来るのは初めてだから、ね。期待しちゃった?なんて言ってくる。

…うん、万花ちゃんと比べるのも失礼だな。

でも、この子はこの子で一所懸命なんだよな。仕事はまじめだし、気が利いて、なんだかんだで優しい。

と、急に出てきた記憶ではそうなっている。…違うな、もうこれが本来の記憶のように感じる。


「あ、朝ごはんだ。ほら行きますよ先輩」

「おう…」


食堂にたどり着くと八重が俺たちの事を待っていた。


「おはよう、円ちゃんとついでに翔琉」

「おっはーヤエッち」

「おはよう…」


当たり前のように三人で食事をとる。

この後は旅館内の掃除だ。まずは風呂。次に廊下。掃除はあっという間に終わった。

手首をひねったせいで自分のスピードは遅いが、円ちゃんが要領よくテキパキと掃除をしてくれるのでいつもより早く終わるのが最近だ。


「いや、本当に助かったよ。いつもありがとう」

「まあ夏休み暇だったし?気にしなくて良いから」


素直な気持ちで礼を言うと少し恥ずかし気に目をそらして髪の毛をくるくるいじっている。


「あれ?でも究極のもちふわパンは良いの?」

「えー、何それ。パンなんて自分でつくったことないよ。誰かと勘違いしてない?」

「そ、そうかな」

「そうそう。まあ、昔はそんなこと考えてたかもだけど。前、言ったかなあ」

「…いや、そうだな。気のせいだ」


よく考えてみたらそんな記憶はない。なぜそんな疑問が出たんだろうか。

そのままお昼までの余った時間は八重も巻き込んで三人で旅館にあるボードゲームをして遊んだ。

ついでにお昼ご飯も食べ終わり、午後からどうするかと考える。

とりあえず3人で旅館の外に出た。外を見渡すが守莉の姿はない。なにかあったのだろうか。

いつも必ず迎えに来ていたはず………、いや、そんなことは一度もなかった。

どうせ今日も灯台でのんびり本を読んでいるのだろう。


「さてじゃあ今日も灯台かなあ」

「そうだね、最近は父さんの手伝いもないし私も行く」

「じゃあ7人でボドゲでしょ。優勝者にはこんびにの高級アイス!」

「いいね、前回はまさかの大郷が勝ったから今日は勝つ」


二人は仲良く歩きながら灯台でなにして遊ぶか話している。

俺もそれに続こうとして、足が動いていないことに気が付いた。


「翔琉先輩?早くいこいこ」


円ちゃんは動かない俺に気が付いて声をかけてきてくれた。


「あ、いや、ちょっと寝不足でさあ。今日は寝て過ごすよ。悪いな」

「大丈夫?体調悪い?」

「そんなんじゃない。ただ眠いだけだから」

「そっかー、じゃあ先輩また明日」

「翔琉、寝不足なんて子供だね。ちゃんと寝なよ」

「ああ、また明日」


特に断る理由もなかったが、気が付けば俺は否定の言葉を吐いていた。

二人は心配そうな顔をしたが、たいした事がないと分かると去っていった。

姿が見えなくなるまで見送って旅館の中に戻る。

少し外に出ていただけで凄い汗だ。それが夏の暑さのせいか、現状の違和感のせいかは分からなかった。

とりあえず、大きく深呼吸をする。


「違和感、違和感か」


正直それは分かっている。原因は円ちゃんだ。

記憶の中の円ちゃんはもっちりふわふわのパンをつくるのが好きで、姉である守莉にいつも送り迎えしてもらっていた少女だ。いや、そんなはずはない。でも正しいようにも感じる。

そういえばこんびにの隣にあるパン屋でいつもパンを…。

そうだな、あの二人はもう灯台に到着しているころだろうパン屋に行ってみよう。


俺は焦る気持ちを抑えて旅館を出てこんびにの隣のパン屋へ向かった。


「ない…」


こんびにの隣は民家になっていた。記憶を思い返してみると最初からそうだったような気がする。

とりあえずこんびにに入ったら店主がいたので話を聞いてみることにした。


「うちの隣でパン屋のお。まあ数年前までやってたけどねえ」

「え、なんで辞めちゃったんですか」

「飽きたからだね。まあ趣味の範疇だったし、あんまりうまくつくれなくて飽きたのさ。ああ、そういえば…」

「??」


そこで黙って目をつぶる店主。そこで話が途切れてしまった。

そういえば、なんだ…と思ったがもしかしてと思い飲み物を二つ取ってくる。


「500円」

「丁度あります。あと一本は店主さんがどうぞ」

「おお、ありがたい。抹茶ラテは好きだねえ」


どうやら正解だったようだ。

お互い一息つく。店の外からはセミの鳴き声が聞こえてくる。

窓から見える空は雲一つなく太陽がまぶしい。

目の前には年老いた店主が一人。

どこか不思議な状況だな。


「それでなんだっだたか」

「。そういえば」

「それそれ。そういえば、ねえ円ちゃん小さい頃はパン屋さんになりたいって言ってたのに。あんな事故があってからめっきり言わなくなっちゃたねえ」

「あんな事故?」

「10年ほど前に土砂崩れがあってね。お友達が大怪我して家族で引っ越したんだよ。元気になってるといいけどねえ」

「万花ちゃん…」

「そうそう、そんな名前だよ。円ちゃんと二人で良く遊んでたんだけどねえ」

「そうですか…」

「それよりあんた。昨日のテレビは見たかい。夕方頃の番組なんだけど」

「店主さん。ありがとうございました!失礼します!」


聞きたいことは聞けた。何だか話しが長くなりそうだったのでこんびにから出ることにした。

それにしても海月万花。万花ちゃん。

今朝まで覚えていたはずなのに忘れていた。

そして事故。

守莉も言っていた、万花ちゃんが小さいころにあった事故。店主の言っていた土砂崩れ事故だろう。

万花ちゃんと円ちゃんが巻き込まれた事故。

それがもしかして入れ替わったのか?いや、だからどうしたというんだ。

何ができるんだろうか。


思い悩みながら歩いていたらいつの間にか神社の近くに来ていた。


暑い。

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