海月万花3 万花ちゃんの事だろ?
「ふわふわパンはとっても素敵~、もちふわパンは無敵のパンだ~」
機嫌よく鼻歌を歌いながら万花ちゃんは浴室を掃除している。手際も良く、最初に基本的なことを教えたら、後はスイスイとこなしている。細かい作業は痛む左手では少しやりずらいのでとても助かっている。
これならいつもと変わらない時間で掃除ができそうだ。
「どうですか翔琉さん!ちゃんとできていますか?」
「文句なしの満点だよ。手伝ってくれてありがとう万花ちゃん」
俺がそう言うと万花ちゃんは本当にうれしそうに笑った。
「そうですか!お助けできてよかったです!!」
順調に進み、予定通りに掃除が終わった。
まだ時間もあるので一番風呂を味わってもらう。昔からこのバイトの一番の楽しみだ。
万花ちゃんにも是非味わってもらいたい。ということで当たり前だが男湯と女湯で別々に分かれて風呂で汗を流した。万花ちゃんは恐縮していたがこんな暑い日に風呂掃除していたら汗もすごいし、問題なしと押し通す。実際、自分で綺麗にした温泉の一番風呂は最高だ。折角頑張ってくれたんだから是非味わってほしい。
「ふう、とってもいいお湯でした。それに自分でお掃除した後の一番は良かったです!」
「だろう?」
その後、お昼までに廊下の掃除などを終わらせてバイトは終了だ。
お昼ご飯を食べて自由時間となる。
「今日はお役に立てましたか?左腕は大丈夫ですか?」
「とても助かったよ。左腕は少し痛むけど平気だよ」
「良かったです!明日も頑張ります!!」
「うん、お願いするね」
帰り際も万花ちゃんは心配そうにこちらを気遣ってくれて、むしろこちらが申し訳ない気持ちになる。
そんな風に雑談していると守莉が万花ちゃんを迎えに来た。
「ほら、帰るわよ」
「うん!じゃあまた明日、翔琉さん」
「また明日」
朝よりシャキッとした感じの守莉が万花ちゃんを連れて旅館から帰っていく。
良かった、どうにかいつも通りの時間に終わった。実際、掃除のほうは無意識に左をかばってしまい、いつもより遅かったから万花ちゃんが手伝いに来てくれて助かった。
ふう、なんだかいつもより疲れてしまったがまだお昼すぎ。これからどうしようか。
…まあ、気になるのは万花ちゃんの事だ。どうしてあんなに責任感が強いんだろうか。
本人に聞くのが良いのだろうが、その前にちょっと他の人にも聞いてみようかな。本人に聞く勇気がないわけではないです。でもとりあえず灯台に行ってみるかなあ、誰かしらはいるはずだ。
というわけで、炎天下の中を自転車で駆け抜ける。風が生ぬるくて気持ち悪い。
でも夏だ!という気分になっていいな!なんて意味不明な事を考えていたら灯台に到着した。
「お邪魔しまーす」
扉をあけるとそこには誰かがいた。脱ぎ捨てられた服が見える。少しドキドキしながら視線を上にすると半裸の野郎二人と目が合った。どうやら着替えの最中だったようだ。
「キャー!痴漢よおおおお!!」
「ふっ、俺の筋肉を見ろ!」
野太い野郎の二重奏が響き渡る。知ってた。ちなみに女々しく叫んでるほうが谷川結というお調子者で、筋肉アピールしているのが大郷益伸。二人ともこの村で知り合った友達だ。
「んで、何が聞きたいんだよ」
「…俺はまだ何も言ってないんだけど」
「そんなの長い付き合いだからな」
「そうだろうか?」
「そうだよ」
まるで何事もなかったように結が会話を始めた。大郷は折角着替えたのにスクワットをしている。
こちらとしては望み通りなんだけどなんか気持ち悪い。
「万花ちゃんの事だろ?」
「そこまで分かるのか!?」
「どうせ、なんであんなに責任感が強いんだろうとか思ったんだろ?」
「いや、なんかもう怖いよ」
「まあ、それを話すのは俺の役割じゃねえ。上に行きな」
そう言って結は意味深なポーズを決め、指先で天を突いた。
なんだが得体のしれない雰囲気を全身から感じる。でもよく考えたら上の階に誰かがいるってことだ。
「守莉か」
「おっ、正解だぜ。でもちょっとドキッてしただろ?」
思いついたことを言うと悪びれなく認められた。もし俺が灯台に来たらどうせ万花ちゃんの事で質問に来るはずだから上に誘導しろと言われていたらしい。
いや、どちらにしろ恐ろしいが行くしかない。上へとのぼっていく。
「ぶっちゃけ、そんな対した話しじゃないと思うけどなー。よっしゃ大郷もうひと釣り行こうぜ!」
「まさか、海に引きずり落された挙句逃げられるとはな。筋肉リベンジだ…」
野郎二人組は気楽に言い放って出ていったようだ。
一段一段、階段をのぼっていく。なんだか魔王へと戦いを挑む勇者のような心境になってきた。
なんでこんなに緊張しなければならないんだ。そう心の中で愚痴っていると最上階にたどり着いた。
「お、お邪魔しまーす…」
小声で挨拶をする。最上階では守莉が窓際で本を読んでいた。
「来たわね」
パタンと本が閉じられた。守莉はいつもと変わらない表情で顔を向ける。
「どうせ万花の事でしょう」
「まあ、はい」
「いいわ。多少は話してあげるから質問しなさい」
「うっす…」
なんだか完全にペースを握られてしまった。
ま、まあ、ちょっと聞けたらいいかなあ、なんて思ったのも事実だしな。
折角、話してくれるというならば話そうじゃないか。
続く。
週一投稿もあやしいけれど折角投稿しているのでダラダラ続けます。
そのうち書くのもうまくなるかもしれない。




