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海月万花4 先輩と呼ばせてください!

さて、万花ちゃんの事で質問に答えてくれるとの事だけど、何を聞こうか。

…答えたくないことは答えないだろう。遠慮しても仕方ない、気になったことを聞いてみよう。


「じゃあ、早速だけど」

「ええ」

「責任感が強いともいえるけど度が過ぎている気がするんだけど」

「そうね」


庇って怪我をしたといってもちょっと手首を痛めたぐらいで、あそこまで心配されると申し訳ないというか。そこが一番気になるところだ。

守莉は軽くうなずくと少し間をおいて口を開いた。


「あの子は小さいころ、自分の身勝手な行動で大きな事故を起こしてしまった。と思っているの」

「と思っている?」

「ええ。でもその事故は万花だけのせいじゃなかった。でもあの子にとってそれはトラウマになっている。だから自分のせいで人に被害が出ることを恐れているの」

「なるほど…」


それなら納得できる。よほどひどい出来事だったんだろう。


「他に質問はあるかしら」

「うーん」


いや、正直もうないなあ。事故の詳細を聞いても仕方ないし、悪い話なのは分かり切ったことだ。

だがあえて聞くとすれば。


「どうしてこんな場をつくってくれたんだ?別に説明する必要もなかったと思うけど」


そう問いかけると守莉は少し視線を宙に泳がせた。答えづらいことなのだろうか。


「それは…」

「それは?」

「あなたが信頼できると思ったからよ。万花のこともそうだけど、うちの男どもの強引なイベントもそう。この村に来てからあなたは困った顔をしても嫌な顔をしなかった。だから多少は説明しようと思ったのよ」

「あー、なるほど…」


守莉は恥ずかしかったのか、少し苦虫を嚙みつぶしたような表情でそういった。

俺が人と接していこう、嫌われないようにしようっていう行動はそう捉えられていたのか。確かに困ったと思うことはあったが邪険に思ったことはなかったな。逆行して折角リア充を目指そうと思っているんだ。その決意と行動が認められたみたいで嬉しいな。


「なにか言いたいことでもあるのかしら?」

「いや、別にないです」


少し顔が緩んでしまったのを見咎められてしまった。反射的に否定すると仕方ないわねという風に守莉は肩をすくめて首を振る。本当に一つ一つの動作が絵になる少女だ。

そしてなんとなはなしに沈黙が走る。最初のような緊張感はなくなっていた。


灯台の最上階ということもあって風が良く通る。真夏にも関わらずこの空間は居心地が良い。

外からは鳥やらセミ、波、野郎二人の絶叫やら色々な音が聞こえてくるがそれもすべて遠い世界のことのようである。


しばらく涼んでいたら唐突に会話が再開された。


「それじゃあ万花の事、頼むわね。しっかり見てあげてほしいの」

「それは勿論」

「といっても水汲みは付いていくから。見てほしいのは旅館内の仕事のほうだけど」

「むしろそっちは一人で充分なんだけど…」

「なら、あなたが万花を説得しなさい」


そりゃあ、無理だろう。守莉も無理だと思っているのか諦めきった顔をしている。

その後、雑談をしていたら戻ってきた野郎二人に拉致されてマグロ釣りの手伝いをすることになった。

ほとんど見ていただけだしマグロは釣れなかったが、なんか魚は釣れたので良かった。


気が付けば一日が終わっていた。

そして次の日。天気は快晴。


「翔琉さん!おはようございます!!」

「おはよう万花ちゃん」

「…おはよう」

「おはよう。元気ないなあ…」


早朝、天ヶ谷旅館から出ると姉妹が出迎えてくれた。

うーん、まだまだ見慣れない光景だ。

万花ちゃんは元気いっぱいで、守莉は眠そうにしている。まさに正反対。


「よし、今日もよろしく頼むよ。ただし無理はしないように」

「はい!」


いつものようにリアカーを引いて歩き出す。それからは昨日の繰り返しだ。

神社の階段をのぼり切るまでは万花ちゃんにポリタンクを持ってもらって、水の入ったポリタンクは自分が頑張って片手で持って降りた。

帰りのリアカーは万花ちゃんと一緒に引いて、旅館に到着したら守莉はひらひらと手を振って帰宅した。

その際、顔を向けられ「任せたわよ」と言われた気がしたので頷き返す。


朝食を食べに食堂に入るとすでに八重が席をとっていてくれた。

三人でご飯を食べているが、いつの間にか万花ちゃんは少し浮かない顔をしていた。

守莉と別れるまでは気合の入った顔をしていたのにどうかしたのだろうか。


「おはよう。万花ちゃん今日も朝からお疲れ様だね」

「おはようございます。いえ、力仕事はあんまり役に立てなくて…」

「そんなことない。万花ちゃんがいるだけで翔琉は元気づけられてるから。ね?」

「ああ、勿論だよ」


八重と二人でフォローするが息を合わせてフォローするが万花ちゃんの顔が晴れることはなかった。


そんな表情のまま朝食後の風呂掃除が始まる。

昨日のように鼻歌を歌いながらでもない、沈んだ表情のまま掃除をしている。


「同じところ、ずっと掃除してるよ?体調が悪い?」

「ごめんなさい。違うんです。私のせいなのに真剣にやらなきゃダメですよね…」


心配になり話しかけると万花ちゃんの動きはとうとう止まってしまった。

だが、こちらの顔を少し窺っている。なにかを言おうと迷っているみたいだ。

俺は黙って万花ちゃんが口を開くのを待つことにした。


「翔琉さんは凄いです。もうお姉ちゃんに信頼されてます。今朝もお互い顔を見ただけで通じ合っていました。お姉ちゃんがこんなに早く心を開くなんて本当に凄いことなんですよ?それに八重さんとも息がぴったりだし。大郷さんと結さんにも頼りにされています」


おもむろに開いた口から次々と言葉があふれてくる。それは憧憬と嫉妬、そして自己嫌悪だった。


「それに比べて私は心配をかけてばかり。何をやってもダメで、迷惑ばかりかけてしまいます。私はみんなより年下だから仕方ないことなのかもしれない。でも、私も信頼されたいです…。あなたになら任せられると言われたい…」

「それは…」


どうやら朝に守莉と別れたときのやり取りを見て、蓋をしていたものが溢れてしまったのかもしれない。

守莉は万花ちゃんが自分のせいで人に被害が出ることを恐れている、と言っていた。そのために頑張っているのに信頼してもらえない。頼りにしてもらえない。正直とても辛いことだと思う。

俺はそれに対してなんと言ってあげたら良いんだ。


「万花ちゃん…」

「突然こんなこと言ってしまってごめんなさい…掃除頑張ります………」

「いや、そんなことないよ。それに俺は万花ちゃんを信頼してるよ」

「え?」

「だって凄い一所懸命で真面目に仕事をしてくれるし。昨日だってそりゃ水汲みは無理かもしれないけど掃除が助かったのは事実だよ。慣れたら分担して掃除して倍以上のスピードで終わるようになるだろうなと思ってた。それにほかの奴らも心配もあるけど信頼もしてくれてるさ。万花ちゃんに足りないのは自信だよ!」


なんだかあまりにも思いつめた表情の万花ちゃんを見たら、元気づけたくて思わず勢いでまくし立ててしまった。嘘を言ったつもりはないが、いい加減なことをいうなと叫ばれても仕方ない、と反応を待つ。


「―――んぱいと」

「?」

「翔琉先輩と呼ばせてください!私、自信持てるように頑張ってみます!だからもっとアドバイスください!!」

「はい?」


キッと顔を上げた万花ちゃんは決意のこもった顔でそう言い放った。

え?ちょっと想像してた反応と違いすぎて俺はフリーズしてしまう。

その間の抜けた声が返事としてとられたようだ。


「よろしくお願いします!翔琉先輩!!」


大浴場に万花ちゃんの叫び声がエコーした。


とても難しい

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