帆風七咲 こっちこそよろしくねー【good end】
どこか遠くでセミの鳴き声が聞こえる。
俺は一体何をしていたんだっけ?ここはどこだろうか?疑問に思っても考えがまとまらない。
ふわふわとどこかを漂っているような不思議な感覚だ。
ぼんやりと辺りを見渡す。地面は砂利と石畳で、あれは…賽銭箱と鈴。
その奥の建物の扉が開いている。人影が見える。中に誰かいるのか?
霧がかかっていて良く見えない。近づきたいのに近づけない。もっと近くに。
「そっちには行くな。もう戻りな」
唐突に声をかけられた。乱暴な口調だが女性の声だ。
誰だろうかどこかで聞いたことのあるような声。
思い出そうとするが全く分からない。気が付けば霧が濃くなっていた。
もう何も見えない。意識が浮上していく。そうかこれは夢か。
なにかが頭上で鳴り響いている。とてもうるさい。何の音だろう。
そして意識は覚醒する。
ジリリリリリリン!!
電話の音でハッと目が覚めた。どうやら眠っていたらしい。
そうだ、旅館の受付で七咲の手術の結果を待っていたんだ。時計を見るともう夕方だ。
…?あれ?なにかおかしい気がする。でも何がおかしいのか分からない。
俺は慌てて電話をとった。
「もしもし!天ヶ谷旅館です」
電話は七咲の両親からだった。無事に成功したと連絡がきた。
麻酔がきいているので目覚めるのは夜になるそうだ。
俺はいてもたってもいられずに病院に向かうことにした。
真千子叔母さんに送ってもらい隣町の病院に到着した。
手術は無事に成功したと分かっていても七咲の顔を見るまで安心できない。
今はとにかくあいつの顔が見たい。その一心で病室にたどり着いた。
病室に入ると七咲の両親がいた。その奥に七咲が眠っている。
顔色も悪くない、眠っているだけのようだ。七咲の両親に挨拶すると。
「あとはごゆっくりー。行くわよあなたー」
「お、おい引っ張るんじゃない。一緒に目覚めを待てば良いじゃないか」
「ほら、あなたー?」
そんなやり取りの後、両親は病室から出ていった。俺はそんな二人に頭を下げてベットの脇に座る。
ようやく手術が成功したと実感する。ほっと胸をなでおろす。
「良かった…」
思わず独り言がこぼれた。実はとても嫌な予感がしていた。
夕方になっても連絡がこないで夜にやっと来たと思えば失敗したというそんな悪夢。
でも本当に成功したようだ。はやく七咲と話したい。
しばらく七咲の顔を見ていた。もういつ目が覚めてもおかしくないはずだ。
「…はやく起きろよ」
スースーと寝息が聞こえる。穏やかな顔だ。
「好きだ七咲。早く返事を聞かせてくれ」
「私も好きだよー。スースー」
思わず告白してしまった。すると寝ているはずの七咲から返事が聞こえた。
「って起きてんのかよ!?」
「起きてないよー…スースー」
ごまかしにもなってない返事の声が聞こえる。
七咲は両目を開いて悪びれた様子もなくこちらを見た。
「やっと告白してくれたねえ。まったく遅いんだからー」
「え?あ、ああ、悪かったよ」
告白、してなかった?強い違和感を覚えたがそれが何かは分からなかった。
それより今は七咲だ。
「体は大丈夫か?」
「重いし、倦怠感がねえ」
「そっか。ナースコールするか」
「うーん、ちょっと待った。もう一回告白してくれたら元気になるかも」
布団で顔を半分隠しながらそんなことを言ってきた。よく見れば先ほどより顔が赤い。
けれど、期待するようにこっちを見ている。
「ああ、もう、分かったよ」
頭をガシガシとかいて恥ずかしさをごまかし覚悟を決める。
「俺は、帆風七咲の事が…」
そこでなんとなく視線を感じて病室の入口を見ると扉の隙間から覗き込んでいる両親と看護師と目が合った。思わず口を紡ぐ。
「どうぞどうぞーお気になさらずー」
そっと扉が閉じられた。七咲と目を合わせて肩をすくめる。そんな雰囲気じゃなくなったのは有難いな。
二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
「いや、無理でしょ」
「だねえ」
「えー!?おかーさん見たかったなあ」
「父は見たくないぞ!」
「あ、目が覚めましたか。ただいま先生を呼んできますね」
わちゃわちゃと七咲の両親が入ってきて、しれっと医者を呼びに行った看護師さん。
その後は夜も遅いのでということで帰宅。
翌日の検査は問題なしで、退院は一か月後ということだ。手術は無事成功。
退院後は走ることもできるらしいが、マラソンなどの長い負担がかかる運動は控えてほしいそうだ。
それも今後の通院次第で運動についてはっきりしたことが分かる。ただ、何もしてないのに心臓が痛くなるとかちょっと動いただけで痛くなるとかはなくなったみたいだ。
翌日、検査の後、改めて七咲と色々とこれからの事を話した。
そして、夏休みが終わった。
「で、学校どうなのー?」
「まあ何とか。席も教えてもらった」
「自分の席、忘れちゃったんだ」
「久々だったからなあ」
俺は病院で七咲に近況報告をしている。丁度、学校が始まって一週間目の週末。
夏休みのバイト代を使って朝から新幹線でやってきた。しばらくは大丈夫だけどバイトしないといけないな。だけど、会いたいから仕方ない。
学校のほうは、話していた友達の顔と名前を覚えていたからそこでぼちぼちやっている。
案外なんとかなるものだ。
「そっちはどうなんだよ」
「私のほうはぼちぼちですよ」
「ぼちぼち?」
「ぼちぼちー。手術も成功したしー、彼氏もできたしー」
「そっか、じゃあもっと楽しくしないとな、彼女さん」
「そうですねえ彼氏さん」
俺たちは顔を合わせて笑いあった。
楽しいことも苦しいこともたくさんの事を二人で経験するだろう。
でも飄々としているようで繊細で心優しい彼女となら、何だって大丈夫だ。
「だからこれからもずっとよろしくな」
「こっちこそよろしくねー」
七咲は満面の笑みで笑った。
書きたいことをかけていない。いつか書き直したい。
とりあえず帆風七咲ルート完。もっと暗くなる予定だったのに。
次回は別ヒロインのルート、もしくは共通ルート書き直しか。
頑張って週2は投稿したい。




