帆風七咲14 俺は風になる!!
俺たちは天海村の代表チームとしてそれぞれの位置についてスタートを待っていた。
参加チームは8チームと思っていたよりも多かった。
七咲たちが通っている学校の陸上部チームだったり、飛び入り参加だったり、飛脚のコスプレをした気合の入ったチームだったり参加者たちも多種多様だ。
アナウンスが入り、祭りの紹介や参加者の紹介を始めている。もう間もなくだ。
ただ、炎天下の中で待たされるのはじわじわと体力が削られていた。
「伝説の飛脚を見つけろ祭!夏休みリレー大会!!まもなくスタートです!!この祭りはかつてこの町に住んでいた伝説の飛脚である腱次郎を称える祭りです。その中でもリレー大会は現代の飛脚を見つけようと考案された――――――――」
遠くで声が聞こえる。いや、そんなことより。
人が見ている。たくさんの観客がいる。
俺たちを見ている。それを自覚した瞬間、ゾクリと悪寒が走った。
本当に走れるのか?笑われる。また馬鹿にされる。いや、そんなことを考えるな。
楽しく走れと言われただろう?その姿が好きだと言われただろう?
優勝できなかったら、七咲は手術を受けない。絶対に優勝しなければならない。
迷っている暇はないんだ。この思考は何度目だ。どうして俺はこうなんだ。
「第1レーンは自然豊かな天海村代表の青年たちです!歴史のある村で古くから交流もあり―――」
いつの間にか震えている足をたたく。
震えは止まらない。
頬を叩く。
震えは止まらない。
「心配するな。お前には筋肉の加護がある」
「ふわもちパンの加護もあります!優勝間違いなしです!!」
出走前に大郷と万花ちゃんはそう言って笑顔で送り出してくれた。
俺は期待にこたえたい。みんなと勝ちたい。
それでも震えは止まらない。
「まもなく開始です。伝説の飛脚を見つけろ!NO1を手にするのはどのチームだ!!」
第一走者が飛脚箱を構えた。
「それでは…よーい、ドン!」
パン!とピストルの音が響く。
天海村の第一走者は谷川結だ。不敵な笑みを浮かべながら走っている。
なんであいつはあんなに楽しそうに走っているんだ
何事も楽しそうに、全力で生きている。そんな男だ。
「この戦いが終わったらら今度こそマグロ釣ろうぜ!」
「それでみんなでマグロパーティしようぜ!!」
リレー前に楽しそうに笑いながらそう言っていた。
いつもいつもそうやって盛り上げてくれた。面白い奴だ。
俺もあんな風に楽しく生きたい。
結は懸命に走っているが思った以上に周りが速い。5位で次の走者に飛脚箱を託した。
第二の走者は深塚八重だ。父親の手伝いが、と言いながらもなんだかんだで付き合い良く優しい子だ。
八重も懸命に走っているが、祭りの雰囲気を楽しんでいるようにも感じる。
「やるだけやるから、最後はあんたが頑張ってね」
「ま、翔琉なら平気でしょ」
何でもないかのように肩をポンと叩いてレーンに入っていった。
なんで俺をそこまで信頼してくれるんだ。その言葉を思い出すと胸に熱が宿る。
八重は一人を追い抜き4位で次の走者に託した。
第三の走者は音村守莉だ。素っ気ないように見えて面倒見が良く頼りになる奴だ。
守莉は真剣に走っている。負けず嫌いでもある彼女は何事にも全力を出す。
「そこそこ食らいつくけど、最後はあなたが決めなさい」
何でもないように言ってレーンに入っていく守莉からは気迫がみなぎっていた。
クールに見えて熱い、そんな彼女にいつも助けられた。
今回もまた。守莉は一人を追い抜き、もうすぐ俺のところまでやってくる。
気が付けば足の震えが止まった。
ここまできて走るのが怖いなんて言ってられない。七咲のためだけじゃない。俺はみんなのためにも。
「―――七咲を任せたわ!!」
守莉から飛脚箱を託された。
俺は走り出す。順位は3位。二人抜かせば優勝だ。
少し差はあるが、それでも俺は、俺たちは勝つ!!
一歩を踏み込む。二歩、三歩。
グングンと体が前に進んでいく。調子がいい。
「天海村代表チーム!速い!すごい勢いで差を縮めていく!伝説の飛脚の生まれ変わりか!!?」
風だ!俺は風になる!!
一人は抜いた。あと一人だ。だけどゴールも近い。
息が苦しい。体が重い。
――――だけど。
「翔琉!!いっけええええええ!!!!」
楽しい!!
気が付けば笑っていた。どこかから聞こえた七咲の声に押されるように更に加速する。
思えばこの夏はいつもあいつの声におされてきた。七咲にどれだけ救われただろう。
あいつのおかげでこの夏を楽しく過ごせた。走る楽しさを思い出させてくれた。
だからこそ俺は返したい。そうか、俺は七咲に恩返しがしたかったんだ。
それに、まあ、キスの返事もしていない。
いつの間にかゴールテープが見えた。
俺はそこに全力で駆け込んだ。
「ゴール!!いまここに伝説の飛脚が誕生しました!!優勝は天海村代表チームだあああああ!!!!」
優勝のアナウンスが聞こえてくる。
「翔琉うううううううううう!!!」
背中から衝撃が奔った。誰かが抱きついてきたんだ。
「って大郷か!?暑い!しかも痛い痛い!?」
「お、俺は感動したぞおおおお!!!」
顔を涙でぐしゃぐしゃにした大郷が万力の力で締め上げてくる。
「っしゃあ!?俺も行くぜ!!」
「翔琉さんおめでとうございます」
「やったね翔琉!」
「ま、良かったんじゃないの」
気が付けば揉みくちゃにされていた。なんとかそこから這い出る。
「翔琉、おめでとー」
顔をあげるとニコニコ顔の七咲がいた。いつもの調子で声をかけてくる。
「ああ、みんなの勝利だ」
こうしてリレー大会は終わった。表彰式で飛脚トロフィーと地域商品券を貰った。
その後、表彰台を借りて撮った集合写真は永遠の宝物だ。
そして翌日。
たくさん書きたいことあったんですが纏まらない。いずれ書き直します。とりあえず(仮)投稿です。
リレー前に七咲の学校の陸上部に絡まれたり、七咲が優勝後に倒れたり、翔琉がもっとうじうじしたり、そんなことを考えていました。描写ももっとやりようあったんじゃないんすかね。




