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帆風七咲13 プレッシャーをかけてあげよう

リレー大会の登録を終えた俺たちはみんなで練り歩いていた。

こんなことをしている場合じゃないとは思うが、この人混みでは練習する場所もないだろう。

せめてはぐれないように纏まって行動するか、なんて思ってたのだが…。


「あれ?いつの間にかはぐれちゃったねえ」

「そうだなあ…」


気が付けば七咲と二人きりになってしまっていた。男組はともかく姉妹と八重までいなくなるとは想像していなかった。周囲を見渡してみてもそれらしき姿が見当たらない。

というか人が本当に多い。このままだと七咲とまではぐれてしまう。


「うわっと!?」


まさにそんな思考をしていたら、七咲が人にのまれて離れ離れになりそうになった。

咄嗟に七咲の手をつかんで体を寄せる。


「大丈夫か?」

「あー、うん。へーき」


無事に七咲を救出することに成功したが、距離が近い。いや、これは仕方のないことだ。

珍しくしおらしい態度をとるからこっちも変な気になってくる。


「離れないようにしばらく手を握ってても平気か?」

「へーき」

「そうか」

「うん」


いつもの飄々とした感じと違って、なんかドキドキしてしまう。

俺はそんな気持ちを胸にしまい込んで、休憩できそうなスペースを探すことにした。


「わー、フランクフルトじゃん」

「翔琉!ヨーヨー欲しいなあ」

「おっと、この綿あめは格別ですねえ」


なんて思っていたが七咲は歩いていくうちにいつもの感じに戻っていった。

手を繋いでいるため、文字通り引っ張りまわされながら屋台をめぐり、休憩スペースを見つけることができた。穴場となっているのか人はまばらでゆっくり休憩できそうだ。


「大丈夫か?疲れてないか?」

「運動したわけじゃないから大丈夫。人によっちゃったかも。そんなことよりお昼食べようー?」


座って顔色を見ると少し七咲の顔色が悪かったが、屋台で買った食べ物を食べているうちに回復していった。杞憂だったようだ。お互い食べ終わり、まったりする。時間もまだあるしこれからどうしようかと考えていたら七咲に話しかけられた。


「ねえ翔琉。なんかあったー?」

「なんかって?」

「昨日の帰りと今日の朝。顔色悪かったよー?」

「ああ…」


思わずドキリとする。こいつは本当に人を良く見ている。思わず黙ると避難の目で見られた。


「私に勇気をーとか、後悔しないーとか調子のいいこと言ってるのに翔琉はだんまり?」

「―――分かったよ」


確かにその通りだ。聞いても面白くないぞ、と前置きして話すことにした。

話そうとするだけで憂鬱な気分になる。俺は俯いてぽつぽつと語った。


忘れようとしていた事を思い出したんだ。

走るのは好きだけど部活はまた違ったみたいで大会で結果を出せなかったから部活をやめた。というのが以前に話したことだ。ただ、結果を出せなかった理由はプレッシャーに弱かったからじゃない。

更衣室で馬鹿にされて笑いながら走るのが気持ち悪いと陰口をたたかれ、適当におだてとけばいいと笑われた。俺はこいつらのために走るんじゃない。俺のために走るんだ。そう思い込もうとして失敗した。

そしていつの間にか走ることが楽しくなくなっていた。楽しく走る姿を人に見られるのが怖くなった。

それで部活をやめたんだ。そのことを昨日、思い出しただけだ。


ということを七咲に話した。


「そっかあ。じゃあ今日は走らない?」

「いや、走るよ」

「楽しく走れる?」

「…それは、分からない」


俺はその質問に即答することができなかった。祭りに来ている人は大勢いる。きっとリレー大会も見に来るだろう。そこで楽しそうに走って、また馬鹿にされる。優勝できなかったら笑いながら走るただの気持ち悪い奴だ。それにリレーだからみんなにも迷惑が掛かってしまう。そんなのは、嫌だ。


「楽しくは走れない。だけど絶対に優勝する」


結局、そう答えることしかできなかった。


「私は楽しそうに走る翔琉の顔、好きだけどなあ」

「え?」

「ほんっとに、うじうじしてるよねえ」

「おい」


何が言いたいんだ。好きと言ったり罵倒したり。七咲はニコニコしながら話しているから何を考えているか余計に分からない。


「しょうがないなあプレッシャーをかけてあげよう。リレー大会で優勝しなかったら私は手術しません。投薬治療で様子を見ることにするねえ」

「それは、ずるくないか…?」

「だからさ」


そこで肩を叩かれれて顔を向ける。視界の先には七咲の顔が目前に迫っていた。

柔らかい感触、一瞬だけ唇と唇が触れ合って離れた。七咲は顔を真っ赤にしている。


「楽しく走って優勝すること!わかったー?」

「…ああ」


何をされたのか理解が追い付いてこちらの顔もどんどん熱くなってくる。


「じゃ、じゃあもうそろそろ行かないー?」


今のことをごまかす様に七咲は立ち上がってこちらに手を向けてくる。

俺はその手を繋いだ。二人で寄り添って歩き出した。


気が付けば選手テント前までたどり着いていた。みんなも集まっているようで俺たちが最後のようだ。ここで出場選手以外とは別れることになる。その前に円陣を組むことにした。


「よっしゃあ!絶対勝つぜ!天海村の錦を飾ろうぜえ!!」

「「おー!!」」

「ってなんで結が纏めてるのよ」

「それに掛け声がダサい」

「天海村の錦…」

「わ、私は良いと思いますよ!?」

「そこは筋肉の錦を飾りたい」


リレー大会直前だというのに緊張感がない。みんなはまったく気負ったりはしてないみたいだ。

いつも通りで笑ってしまう。


「おっ、翔琉。良い顔つきになったんじゃねえか」

「ああ、勝とうな」


そうだ。俺たちなら優勝できる。だから、見といてくれ。

七咲の顔を見ると目が合った。お互い頷きあう。選手組はテントの中に入っていく。


そしてリレー大会が始まった。


週2回しか投稿できていないですね。頑張ります。

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