帆風七咲12 なんだいなんだい?
「結局ほとんど眠れなかった…」
頭が重たい。あんまり体の疲れが取れていない気がする。
それでも行くしかない、今日は絶対に優勝しなければならない日だ。
(笑いながら走ってるとか気持ち悪い)
(あんなでも一番早いからな!)
眠ろうとしたら頭の中で何度も何度も当時の出来事が蘇った。
俺はただ楽しく走れたらそれでよかったんだ。あんな風に思われているなんて知りたくなかった。
あれから走るのが楽しくなくなったんだ。
そして結果も出せず。逃げるように退部した。
「そりゃ陸上部やめるよな」
まあ、でももう関係ないんだ。今は過去の出来事に囚われている場合じゃない。
今日は仕事もないし、朝ごはん食べて準備が終わったらバス停で待ち合わせだ。
天ヶ谷旅館の入り口で八重と合流する。真千子叔母さんが見送りしてくれた。
「翔琉君も八重ちゃんも頑張って!ばっちりユニフォームで宣伝お願いね!」
「はい!」
「ありがとうございます!!」
旅館を出ると燦燦と輝く太陽が出迎えてくれる。今日も暑いな。
八重と雑談しながら歩く。
「にしても翔琉、ちょっと眠そうじゃん。緊張して眠れなかった?」
「ちょっとだけな」
「へえ、ちょっと意外」
「そうか?」
「だっていっつも楽しそうに走っていたから」
「………」
そうか、俺は楽しそうに走っていたのか…。
変に思われてなかっただろうか。これから走る場所で変に思われないだろうか。
いや、やめろ。余計な事を考えるな。
「翔琉?」
八重が黙り込んだ俺を不思議そうに見てくる。弁解しようとしたところで背中に衝撃が走った。
バシン!と小気味のいい音が響く。
「二人ともおっはよー!」
七咲だ。朝からテンション高く挨拶してきた。こいつは何でそんなに元気なんだ。
「おはよう七ちゃん!」
「…おはよう」
「なんだいなんだい?翔琉は元気がないねえ。緊張して眠れなかったのかなあ?」
二人そろって同じことを言う。そんなに元気がなさそうに見えるんだろうか?
七咲の顔を見る。最近は走ったりしてないからか今日も顔色がいい。しっかり睡眠もとったようで元気溌剌な感じだ。今日は七咲のために走るんだ。今は余計な事を考えるのはやめよう。
「まあ、ちょっと緊張して寝不足なだけだ。逆に良い感じに気合が入ってるよ」
「へえ。それならいい良いけどねー」
話していたらいつの間にか【こんびに】の前までたどり着いていた。
そこに残りのメンバーが全員集結していた。
「皆さんおはようございます!」
「三人ともおはよう」
「よお…おは」
「…よう」
万花ちゃん、守莉姉妹は普通に挨拶してくれたのだが、いつも騒がしい二人組はやけに元気がない。
結は目がしょぼしょぼしており、大郷にいたっては目の下に隈ができている。
「この馬鹿二人は皆で隣町に行くのが楽しみすぎて眠れなかったそうよ」
「でえ、じょうぶだ。バスで寝たら、回復する、ぜ」
「…うむ」
「男組はダメだね。翔琉も緊張して眠れなかったみたい」
八重がばっさりと俺たちの事を酷評する。
いや、この二人と同じにされるのも嫌だ。思わず顔がひきつってしまう。
かと言って否定できる要素もない。なので男三人組はとぼとぼバス停を目指すのだった。
バス停に到着し、少し待つと時間通りにバスが来た。
乗客は自分たち以外誰もいない。バスに入るなり結と大郷は爆睡する。
一時間ちょっとバスに揺られて、何事もなく隣町にたどり着いた。
「よっしゃあ!完全復活だぜ!!祭りの雰囲気が出てんなあ!!」
「ふっ、そうだな!」
「大郷!射的行こうぜ!」
「任せろ!」
隣町はお祭りムードで一色だった。提灯はもちろんの事、出店や
【伝説の飛脚を見つけろ祭!】【最速の飛脚は誰だ!?】
と書かれたのれんや横断幕がいろんなところにある。
人も多く、かなりの賑わいを見せている。結と大郷は寝て回復したのか気の向くままに飛び出して行った。
「…隣町、いつも以上に都会ね」
「お姉ちゃん!あのわたあめおいしそう!」
「おー、盛り上がってるねえ」
「へえ、結構有名なんだ」
「とりあえず、リレー大会の参加登録しにいこう!」
他のメンバーは興味深そうに周囲を見ている。というか祭りの空気に当てられている。
仕方ないので皆を引きずるように参加登録をしに行くことにした。
事前に枠を予約しているとはいえ、受付時間内に登録しに来てほしいとのことだ。
リレー大会は市民公園で行なわれる。かなり大きい公園で、中心部のグラウンドでリレーをするようだ。
「すいません、天海村の青年会です。参加登録に来たのですが」
「はい、お待ちしておりました。こちらの参加証はなくさないでくださいね。指定の時間までにグラウンド脇の選手テントまでお越しください」
受付で参加証を渡され、簡単な説明を受ける。というか俺が天海村の青年会代表みたいに受付したけどよかったのだろうか。とにかくこれでひとまずやることは終わった。後は指定の時間まで暇をつぶすだけだ。少し走りたい気持ちもあったけどこの混雑具合じゃ無理そうだな。
「てわけで、リレー大会は昼過ぎだけどどうする?」
「よっしゃあ!じゃあ色々まわりながら飯食おうぜ!!」
「大郷さん、その右手にあるのは!?」
「ああ、餃子ドックだ。皆の分も買ってきたぞ」
「あら、気が利くわね」
「いただきまーす!」
「おいしいねえ」
「こういうの良いよね」
いつの間にか合流していた結と大郷は戦利品をたくさん抱えていた。完全に祭りを楽しんでいる。
とりあえず団体行動をすること。はぐれた場合は指定の時間までに必ず選手テントに来ること。
この二つを決めて、俺たちは市民公園の中を練り歩くことにしたのだった。
週2~3回しか投稿できない。話も進まない。悲しいですね。




