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帆風七咲11 じゃあ今日はかいさーん

「ほらほらー守莉ん!腕の振りが大きいぞー!結は歩幅が狭い!!」

「はぁはぁ…急にやってきて好き勝手いうわね」

「らしくなってきたじゃねえか」


息を切らしながらもフォームを修正する守莉と結。

それを満足げに眺めながら七咲は他の人にもアドバイスする。

片手にメガホン。首からは【さすらいの美少女監督】と書かれたタスキをかけていた。


なんでこうなったんだ。いや別にいいんだけどというかむしろ嬉しいけど。

と思いながら俺は楽しそうに指示を出す七咲を眺めていた。


七咲は早朝の会話の後、

「優勝するなら私の力が必要なのは当たり前。

てか私だけ仲間外れにするつもりー?仕方ないから監督になってあげようー」

と思い立って、準備をしてきたというわけらしい。


「ほら翔琉!サボってないで走れー!」

「はい!すいません!」


眺めていたら叱られてしまった。謝って練習に戻る。

その日は夕方まで七咲のアドバイスを受けながらくたくたになるまで練習した。


「やっぱりみんなで集まると楽しいですね!」

「ありがとう、そうだね」


練習後、万花ちゃんから貰ったタオルで汗を拭く。

いつもと同じような練習だけど、万花ちゃんの言う通りみんなで練習した方が集中できた気がする。

リレー大会までの日にちもあまりない。この調子でやっていけばなんとかなるはずだ。


「じゃあ今日はかいさーん。体をしっかり休ませるようにねー」


解散の合図まで七咲に取られてしまった。

それぞれ挨拶して帰っていく。気が付けば残ったのは俺と七咲だけだった。


「で、実際どうなんだ?」

「さあねー。でも普通のバトンと違って飛脚箱でしょ?隣町の陸上部も祭りの大会のためにわざわざ練習なんてしないしー」

「俺たちは飛脚箱での練習に特化しているから」

「そ、勝てるかもしれないし。勝てないかもしれないねえ」

「どっちだよ!」


なんとなくお互い並びあって帰り道を歩く。

話す内容はリレー大会の事で、色気も何もあったものではないが楽しかった。

いや、べつに色気を求めているわけではない。変なことを考えてしまった。

夕方だが夏の日は高く、太陽はまだまだ元気だ。それでも少し涼しい風が海から流れてきて歩きやすい。


「でも優勝するんでしょー?」

「ああ、当たり前だ」


気が付けば七咲の家の近くまでたどり着いていた。

名残惜しいがそこで別れる。


「また明日だな」

「そうだねえちょっと名残惜しいけど、また明日」

「お、おう」


七咲のセリフに少しドキドキしてしまった。仲の良い友達との別れに名残惜しさを感じてくれただけで他意はないはずだ。お互いにぎこちなく笑って手を上げ別れた。

一人になると、夏なのに少し冷えたように感じてしまう。なぜだろうか。

俺は首をかしげながらも帰路に就いた。


そして瞬く間に日がたっていく。


「こらー!八重っちフォームがぶれてるぞー!」

「守莉んは言うことなし!ばっちりー!」

「大郷は走りながら筋トレやめなさーい!」

「万花ちゃんのパンは美味しいねえ」

「翔琉ー!カフェオレちょうだい!」

「結!は特になし!」


「ないのかよ!?」


そして、とうとう【伝説の飛脚を見つけろ祭!夏休みリレー大会!!】前日。

無理をしてケガをしては元も子もない。今日は練習もほどほどにしてゆっくり休むことになった。


明日は何時のバスで行くか、昼ご飯はどうするか、大会が終わったらどうするか、なんてことを話す。

ちなみに大会後の打ち上げは真千子叔母さんのご厚意で天ヶ谷旅館の部屋を使わせてもらうことになった。料理も用意してくれるようで本当に頭が上がらない。


「てかユニフォームもうちょっとなんとかなんねえのかよ」


結が不満げに持っているのは明日、大会で着用するユニフォーム。

青いシャツに黒字で大きく【自然豊かな天海村】と書かれた簡素なシャツだ。

町おこしもかねてぜひ着てほしい、と村の人に頼まれたみたいである。


「字がもうちょっと可愛いと良かったですよね」

「万花ちゃん、そういう問題じゃない」

「そうですか?」


八重が万花ちゃんにツッコミをいれるも不発に終わる。

まあ凝った意匠のユニフォームを渡されてもそれはそれで恥ずかしいからなあ。

その後、明日必要な事も全部話し終わって、ダラダラと雑談をしているが皆どこか落ち着きがない。


「守莉ん、さっきから本のページ進んでないけどもしかして緊張してるのかなあ?」

「別にゆっくり読んでるだけよ」

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

「大郷、ダンベルのスピード速すぎない?」

「あああああ!!明日の事を考えると落ち着かねえぜえええええ!!」

「結さん声大きいですよ」


皆がそわそわしている。ま、当然だよな。ここまで頑張ってきたんだから絶対に優勝したい。

――――そう、そうだ。勝たないといけない、結果を出さないといけないレース。

部活に入って、毎日練習して、それで俺は。




ズキリと頭が痛む。




見たことのない光景が頭をよぎる。

学校の廊下。俺が昔、通っていた高校だ。

そこを一人で歩いている。俺が向かおうとしているのは陸上部の更衣室だ。

更衣室から声が聞こえてくる。


「だってあの人笑いながら走ってるとかまじ気持ち悪い」

「だよな、まじであれはないわ」

「ま、いいじゃん。あれのおかげで全国いけたら俺たちも有名人じゃね」

「確かに!あんなでも一番早いからな!」

「ははは!適当に持ち上げとけばいいんだよ!」


なんだこれは、誰の事を言ってるんだ。俺は楽しく走りたいだけなのに、もしかしてこれは俺の事か?

いや、そんなことはない。だっていつもタオルとか持ってきてくれたり親切にしてくれる。

俺のアドバイスだって嬉しそうに聞いてくれた。そんなことを言うような奴らじゃない。

じゃあ、一体だれを。部活内で悪口言うのは良くないんじゃないか。今すぐ更衣室の扉を開くべきだ。

手を動かせ。これ以上、会話を聞きたくない。動け。動け。動け。


「だってあいつーーーーーーー」




「――?―――たの!?翔琉!!」


気が付けば七咲の顔が目の前にあった。

皆も俺の事を見ている。自分のシャツがびっしょりと濡れていることに気が付いた。

冷や汗をかいていたみたいだ。


「大丈夫ー?」

「あ、ああ。大丈夫だ。ちょっと疲れているのかも」

「翔琉が一番かんばってたからな、今日はゆっくり休めよな」

「おう、ありがとう。ちょっと先に帰るよ。お疲れ様」


俺はその勢いのまま帰路に就いた。

心配そうに見られていることは分かっているが、正直それどころじゃなかった。

心臓がバクバクとなっている。走れなくなった原因。厳重に封印して忘れようとしていたものがあふれ出た。いや、あの頃と今じゃ状況が違う。問題ない。そうだろ俺?

旅館に戻った俺は晩御飯までずっと部屋に籠って心を落ち着かせた。

その日は眠ろうとしたが、ほとんど眠れなかった。


そして大会当日の朝を迎えた。


なんとか投稿できました。もうそろそろ終わりです。

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