帆風七咲10 自分勝手だねえ
翌日、俺は考え事をしながら朝の水汲みのために神社の階段を上っていた。
七咲の本当の望み。でも本人は自分の足でどこまでも走りたいと言っていた。
改めてどう聞けばいいんだろうか。さっぱり分からない。
曖昧な考えで七咲に望みを聞くのは良くないような気がする。
どうすればいいんだ。そうやって集中していなかったからだろう。
「――――あ!?」
ズルリ!と足が滑った。そのまま前のめりに転び、何段かの階段を滑り落ちた後、なんとか手をつき体勢を立て直すことができた。
「うっ…」
体がそこかしこ痛む。恐る恐る足に触れてケガをしてないか確認した。
よかった、足は大丈夫みたいだ。
余計な考え事をしながら上っていたから転んだんだ。気を付けよう。
状況を確認する。ポリタンクは神社の境内まで落ちてしまったようだ。
体の節々が痛いが、外傷はなし。服と手が汚れたぐらいだ。
ポリタンクも空でよかった。さっさと取りに行くことにする。
「天ヶ谷さん、大丈夫ですか?」
「あ、天海さん、はい多分大丈夫です」
落ちたポリタンクを拾いに戻ると、天海神社の巫女であり、宮司の娘である天海來乃葉さんが様子を見に来てくれた。心配させてしまったようだ。俺の様子を見るなり手ぬぐいで服と手を拭いてくれた。
「痛いところはないですか?」
「いや、はい、本当に大丈夫です。ありがとうございます」
甲斐甲斐しく汚れをとってくれる。というか距離が近くてこんな状況なのに恥ずかしさがこみあげてきた。
「―――翔琉さん、何か悩み事でもあるんですか?相談に乗りますよ?」
「え?」
「だって、暗い顔して階段を上って行って、転んでしまったから」
「ああ…まあ、少し」
どうやら見られていたようだ。なんだか申し訳ない気持ちで一杯になる。
「図々しかもしれませんが、話してみるとうまく解消することもありますよ?」
天海さんの表情からとても真剣にこちらを思って言ってくれていると伝わってきた。
悩んでいたのも事実なので、七咲の事はぼかして悩みを相談する。
俺の話を黙って最後まで聞いてくれた天海さんは頬に手をあて何と答えるか思案した。
「そうですね。私も偉そうなことは言えないのですけれど…」
天海さんはうーんとそこで言葉を止める。
「その望みは天ヶ谷さんの望みになっていませんか?」
「俺の望みに?」
「はい。でもそれを相手が望んでいるからと言い訳しているのは良くないと思います。天ヶ谷さんの望みであるとお相手にしっかり伝えるべきです」
俺は結局のところ七咲に押し付けていたのか?
七咲が迷っている事に真摯に向き合っていたのか?
言われてみたら、そうなのかもしれない。七咲に寄り添っていなかったのかもしれない。
天海さんにそう言われたら、そんな気がしてきた。
「天海さん、ありがとうございます。言われてみたらそうかもしれません」
「天ヶ谷さん。後悔のない選択をしてください。お力になれたようで良かったです」
迷いが晴れたわけではないが、なんとなく七咲に言うべきことがまとまってきた。
改めて手ぬぐいと相談の事にお礼を言って水汲みを再開する。
天海さんに見送られながら水汲みのために階段を上っていった。
先ほどと違って余計な事を考えずに集中して動く。水を汲んで戻ってくる頃には天海さんはいなくなっていた。そのまま、鳥居まで降りると七咲がいつものように待っていた。
「おはよー、少し遅かったみたいだけどなんかあった?」
「おはよう。まあ少しな」
まだ体が少し痛い。肩の部分をやってしまったかもしれない。旅館に戻ってアイシングをして長引かないことを祈ろう。今はそれより七咲だ。ポリタンクをさっさと荷台に乗せる。
「大したことじゃないから大丈夫だ」
「ふーん。じゃ、お邪魔しまーす」
すこし訝しんだようだが追及はなく、七咲が荷台に乗り込んだ。
痛む体を無視してリアカーを出発させた。
グングンと駆け下りていく。そこで俺は覚悟を決めて口を開いた。
「七咲いいいいい!!!」
「なーにー!!?」
このままごちゃごちゃ考えていても時間の無駄だ。だから言いたいことだけ言おう。
こんな思考をこの夏休みに何度しただろう。何だか笑えてきた。
「俺は!お前に自分の足で気持ちよく走ってもらいたい!!だから優勝したら難しい手術を受けて完治させてほしい!!」
でもそれは押しつけだったのかもしれない。七咲だって悩んでいたからという言い訳だったのかもしれない。
「でも!!もう好きにしろ!!正直手術は受けたほうがいいと思う!!簡単なほうでも良い!!投薬治療は併用するならわかるがそれだけってのは良くないと思う!!とにかく俺は!!俺たちは優勝するから!!それまでに覚悟を決めておいてくれよな!!」
言いたいこと言って気が付いたら旅館に到着していた。
後ろを振り向くと七咲は小さく笑っていた。
「勇気出させるんじゃなかったのー?」
「優勝してでるなら出してくれ」
「自分勝手だねえ。そっちが出させてくれるって言ったのに」
「それはすまないと思ってる」
そっかあ、と呟いて七咲は荷台から飛び降りた。
「なんだかんだで優勝は難しいと思うよー?」
「絶対にする」
「分かった。じゃあ代わりに優勝したら何でも一つ願いを叶えてほしいなあ」
「それぐらいならどんとこいだ」
「約束だからね」
「ああ、約束だ」
お互いに向き合って拳を閉じて拳の前方を軽く突き合わせる。
目と目で通じ合ったような気がした。
「じゃあ楽しみにしてるからねえ」
「任せとけ」
七咲は晴れやかに笑いながら去っていった。いつも坂道を駆け下りているときに見せている顔だ。
言って良かったな。優勝するために頑張るぞ!!
結局、何が言いたいのかよく分からないですね(他人事)
残すところはあとわずか。
帆風七咲編終わったら書き直したいですがしたら止まるからなあ。




