帆風七咲9 七咲は本当にそれを望んでいるのかしら
次の日の朝は深夜まで降っていた雨のおかげで涼しく感じる。
いつも通り水汲んで戻ってくると当たり前のように七咲はいた。
「おはよう七咲。元気そうだな」
「グッモーニン!歩いてきたからねー」
七咲はよいしょと気の抜けるような声で荷台に乗り込んだ。
気合を入れて坂道を駆け下りていく。
「七咲!俺たち、伝説の飛脚を見つけろ祭!夏休みリレー大会!!に出場することにした!!」
「へー!!そーなんだー!!」
「そこで俺たちは優勝する!だから見に来てほしい!!」
「―――勝てないよ」
「え?」
まさか否定されるとは思わなかった。静かにつぶやくような声だったのに耳にしっかりと届いた。
思わず振り向いた七咲の顔には諦観があった。
動揺するが止まることもできないのでお互いが無言のまま坂を下りきる。
天ヶ谷旅館の前にたどり着いたが七咲に降りる気配はない。こちらの疑問に答えてくれるようだ。
「なんで勝てないと思うんだ?」
「だって、隣町の陸上部も参加するし他にもレベル結構高いんだよ」
「俺たちだって負けてない」
「どうかなあ」
七咲にしては後ろ向きな発言だ。でも逆に言えば優勝できれば、それは七咲の勇気になるはず。
胸の奥からやる気がふつふつと湧いてくる。こんな気持ちはいつ以来だろうか。
「分かった、絶対に優勝する。だから見に来てほしい」
「翔琉………分かった。見に行くねえ」
どうせ無理だと思うけど。そんな心の声が聞こえるような顔をしていた。
「優勝したら絶対に勇気が出る。そんな走りにする。期待しておいてくれ」
「うん。またねー翔琉」
「ああ、またな。気を付けて帰れよ」
話しも終わり荷台から降りた七咲はゆっくり歩いて帰っていった。
その後ろ姿を見て決意を新たにする。
皆とは昼過ぎに灯台で集まる予定だ。そこで走るメンバーを選出したり練習したりする。
俺ははやる気持ちを抑えて午前中の仕事を終わらせた。
「というわけで申請してきたぜ!」
午後、灯台に集まると結が先に箱がひっかけてある長めの棒を持ちながら報告してきた。
「ありがとう。で、それは?」
「へへ、さすがの翔琉でも知らねえか。これは大会で使うバトンで江戸時代に飛脚が持ってた奴だ!」
「そのまま飛脚箱と言うらしいわね」
「思ったより本格的な大会なんだな」
近隣参加者の特権として借りてきたと言われる。
ルールとして飛脚箱を肩で担ぎながら走らなければいけないようだ。
持たせてもらうと意外に軽い、軽い素材でできてるようだ。ただ思ったより長い。
しかし、これをバトン代わりに担いで走るのはなかなか難しいな。
早速、担いで順番に走ってみることにした。
それで4人の参加者を決定した。
一人目は自分。
片方の腕が振れないから思ったよりもスピードが出ない。
「こんなもんかな」
最終的な結果としては一番で元陸上部としての面目躍如だが練習は必要だな。
二人目は結。
「おっしゃあ!行くぜ!!」
部活はやっていないと言っていたがなかなかのタイムだ。
三人目は守莉。
「ま、当然よね」
灯台で本を読んでいる印象しかなかったが皆の中では3番目のタイムだった。
四人目は八重。
「よし、頑張る」
父親に付いてフィールドワークをしているおかげか運動神経が良い。守莉と遜色ないタイムだ。
補欠は大郷と万花ちゃんだ。
「ふっ、俺の筋肉は走るためのものではない…」
「応援は任せてください!」
大郷も万花ちゃんも決して遅いわけではないが、走るフォームが悪い。短い期間で調整できるか分からないので補欠だ。
【伝説の飛脚を見つけろ祭!夏休みリレー大会!!】は10日後。七咲の期限日はその翌日。
俺たちはこの日から練習に打ち込んでいく。ただ、七咲が練習している場に来ないのが気がかりだ。
朝の水汲みには来たが、そこで大会の話をすることはなかった。
なんとなくこちらからも話すことができずに時間だけが経過していった。
そんなある日の練習中。
「だいぶ良い感じになってきたな」
「そうね。隣町の陸上部がどれだけ速いのかは知らないけど良い勝負はできるんじゃないかしら」
「そうだといいんだけどな」
「あら、翔琉は自信がないの?」
「そうじゃないけど」
「けど?」
「七咲が…いやなんでもない」
「そう」
守莉と大会に向けて話すが不安が拭えない。たぶん七咲が見に来ないから不安なんだろう。
でもそれを守莉に相談もできない。最近、気が付けばうじうじとしているな。
優勝して勇気を見せるって言ったんだから自信を持たないと。
「翔琉は七咲に難しい手術を受けてほしいの?」
「…ああ、難しい手術が走れるようになる可能性が高いらしいからな」
「七咲は本当にそれを望んでいるのかしら」
「どういう意味だ?」
「別に。さ、練習を再開しましょう」
意味深な発言をした守莉は話しは終わったとばかりに練習に戻っていった。
七咲は走ることを望んでいるんじゃないのか?
実際にそう言っていたし、難しい手術を受ける勇気がないから悩んでいたんだ。
俺は間違っていないと思う。
…七咲の本当の望みか。もう一度、話してみたほうがいいのだろうか。
明日、聞けそうなら聞いたほうが良いのかもしれないな。
最早、何が書きたいのか。小説書いている人って凄いですね。
七咲の病気の設定↓
七咲は心臓の病気。継続的な投薬でも治る可能性はある。
手術は簡単な手術と難しい手術がある。
簡単な手術は成功すればこれ以上病状の悪化はない。ただ完治するかは不明。
難しい手術は成功すれば完治の可能性が高い。




