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帆風七咲 心の逃避行【badend】

  ・でもそれは七咲が自分で考えるべきことだ

=>・二人で一緒に考えてみよう

どちらが正解かは分からない。でも俺は七咲に寄り添うことにした。


「経験者としてさ、俺も七咲のために考える。だから話してほしい」

「じゃあ、お言葉に甘えまして相談させてもらうねー」


七咲はどこかほっとした顔をしていた。そして本心を聞いた。

手術は怖いということを、どうすればいいか分からないということを。

夜も遅いので少し話しただけで解散となったが、翌日から俺たちは暇があれば話した。

8月末の手術の1週間前には入院しなければならず、それまでにどうするかをきめなければならないからだ。


「最近おまえらいつも一緒にいるなあ」

「できたのか?」

「仲が良くていいわね」


付き合っているというわけではないが、皆からは付き合っていると思われているようだ。

それぐらい俺と七咲は一緒にいた。話すことは尽きなかった。

走ることは勿論だが、陸上部の事もそうだし、人間関係もそう、俺たちはお互いに臆病だった。

だから相性が良かった、いつまでも話していられた。居心地の良い空間だった。

七咲の飄々としている態度は人を観察するフィルター。俺は嫌われたくないから人の事を拒絶しない。

どちらも人から拒絶されたくないから、根本的な部分がお互いによく似ていた。

夏休みはあっという間に過ぎていく。気が付けば手術の一週間前になっていた。

俺たちの選択は決まった。選択肢は三つ。

投薬治療、通常の手術、時間のかかる手術。その中で体に負担が少ないものを選択した。


「手術を受けないで投薬治療で様子を見る、それが一番安全な選択だ。走れるかどうかは手術をしたって分からない。なら体に影響が少ない投薬治療をするべきだと思う。治る可能性もあると説明もされたし」

「うん。やっぱりちょっと怖かったんだよねえ手術。急変することはないらしいし、私は二人で考えた投薬治療を選択する。それに、夏休みが終わっても会いに来てくれるんだよねー?」

「そうだな、二人で治していこう」

「ありがとね、翔琉」


夏休みももうすぐ終わる。

七咲の体はいつの間にか走ることができなくなっていた。

それでも命に別状はないと病院で説明を受けた。

投薬治療で様子を見ていきましょうと、医者に言われた。

七咲は少し残念そうだったが、それでも選択を変えなかった。


夏休み最終日。前日にお別れ会を開いて別れを惜しんだからか、気を利かせてくれたからか、帰りのバスは俺と七咲だけで待っていた。そこで意を決して七咲に告げる。


「七咲、結婚を前提に付き合ってくれ」

「あはっ!結婚って気が早くないー?でも嬉しいな。こちらこそよろしくね!」


七咲はとても嬉しそうに笑ってくれた。

そして俺たちは付き合うことになった。


時間はどんどんと過ぎていく。

遠距離恋愛だが寂しくなかった。毎日電話したし週に一度は必ず会いに行く。

大人の時の経験を活かして勉強し、高校の成績は常にトップを維持した。


高校を卒業して天海村の隣町で就職をする。就職先は高卒にもかかわらずとても待遇の良い会社だ。

高校卒業まで七咲の病気はわずかにだが良くなっていった。

激しく走れはしないが軽く走るくらいなら問題ないそうだ。

ただ走ろうとすることはなかった。その頃の七咲は俺が運転する車で海沿いを走るのがお気に入りらしく、助手席に座ってニコニコと外を眺めているのが常だった。


その後、七咲と結婚をした。

結婚式も挙げた。夏休みの仲間たちとお互いの両親だけの小さな結婚式だが盛大に祝った。


「結婚おめでとうございます!究極のふわもちパンを持ってきたので是非食べてください!大人気なんですよ!」

「結婚おめでとう。おかげで毎日が大変よ。テレビの取材が来るとは思わなかったわ」

「天海村にテレビ局が来るとは思わなかったよな!天ヶ谷旅館も大賑わいみたいだぜ!二人ともおめでとな!!」

「二人とも結婚おめでとう。この日のためのマッスルポーズを考えてきた。見てくれ」


皆は相変わらずだったが、天海村は万花ちゃんの開発した究極のもちふわパンが大当たりして噂がうわさを呼び連日賑わいを見せているというのだから驚きだ。

その日は、酔いつぶれるまで飲んではしゃいだ。

結婚式の集合写真はリビングに置いて、たまに見ては思い出を語り合った。


七咲は専業主婦として家を支えてくれた。俺は家に帰って七咲が出迎えてくれるだけでとても幸せだ。




それからさらに一年ほどの月日がたった頃。

俺と七咲は幸せだったし、なにもかもが順調だった。そう、だった。

七咲はある日突然倒れた。


「今すぐ手術の必要があります」


病院で医者にそう告げられた。頭が真っ白になる。


「な、七咲は助かるんですか!?」

「…分かりません」


その後の説明はろくに頭に入ってこなかった。

少しずつ良くなっていたはずの病状は一時的なもので、急転したという。

考えもまとまらないまま七咲のいる病室に入った。


「翔琉、ごめんねー…」


七咲の意識は回復しているが起きあがることはできないらしい。

俺が入ってくるなり七咲に申し訳なさそうに謝られた。


「なんで謝るんだよ…。謝る必要なんてないだろ…」

「でも、分かってたんだー、なんとなくこうなるって。それに、私、助からないと思う」

「そんなこと言うなよ!絶対助かる!」

「そう、だね…。ごめんねー、翔琉、愛してるよ………」

「お、おい!?七咲!?」


七咲は再び意識を失った。

そのまま緊急の手術をすることになる。

そして、――――――――――七咲は帰らぬ人となった。


それからの事はよく覚えていない。

俺が喪主で葬式もしたらしい。


気が付けば、俺と七咲の家で茫然と座っていた。

結婚式の時の写真が目に映る。


「あああああああああああ!!!!!!!!!!!」


思わずそれを叩きつけた。


ガシャン!!


大きな音とともにフレームが壊れる。


「なんだ、これ?」


写真とフレームの間に見覚えのない一枚の紙が挟まっていたことに気が付いた。

震える手で取って広げてみる。手紙だ。


『翔琉へ


初めて会ったあの夏休みの事を覚えていますか?

神社の階段を降りてきたあなたはとても臆病な顔をしていました。

私はこの人なら拒絶しないだろうと荷台に乗り込んでしまいました。

あの坂道から駆け下りた時に感じた風は今でも忘れられません。

それに、思った通りあなたはとても臆病で、とても優しい人でした。

暑い夏の日、走り方を教えてもらったり、相談に乗ってくれたり、心配してくれたり。

あなたとの思い出は宝物です。


ごめんなさい。

だからこそ、後悔があります。

あなたに投薬治療を選択させてしまった。

二人で考えたわけじゃない、私はあなたに甘えてしまった。

そう選択してくれるだろうと。

実は私の体にとってそれは良くない選択かもしれないと思っているのです。

臆病な私は怖かった。手術に立ち向かって行くことが出来なかった。

だからごめんなさい。


あなたと結婚して本当に毎日が幸せで、楽しい。

でも走れない。分かる。私は二度と走れない。私の体はいつ悪くなってもおかしくない。

本当は相談すればいい。だけどできない。だからこんな手紙を書いてしまいました。


今度の結婚記念日にあなたに相談します。手紙もそこで捨てちゃおう。そうしよう。

恥ずかしいこと書いちゃったなあ。


大好きだよ翔琉。


七咲より』




「何だよ…何だよこれ!!――――俺は何も変わっていなかった!!」


俺は結局、七咲の事を見ていなかった。臆病で嫌われたくないからあの時そう選択してしまったから!!


手術をしても失敗していたかもしれないじゃないか。どんな選択をしても変わらなかったんじゃないのか?仕方のないことだ。だからお前は悪くないよ。そうだろう?


弱い心がそう囁いてくる。


「黙れ黙れ黙れ!!」


俺は頭を抱えて逃げた。家から仕事から仲間からすべてから。



―――――――それから10年の月日が流れた、暑い夏の日。

俺は1人静かにリモートで仕事をしていた。


生暖かな風を送り続ける扇風機に嫌気が差してノビをする。

外からは子供が楽しげに遊んでいる声が聞こえた。


「子供は元気だなあ」


そこでふと自分の現状を省みる。

名前は雨ヶ谷 翔琉、年齢は30ぐらい。

適当な会社に就職してだらだらと仕事。

辺境のアパートで一人暮らし。

人づきあいが苦手で、火にトラウマがあり自炊もできず。

毎日コンビニ弁当で酒を飲むのが楽しみなだけの日々。

呆れるほどにダメ人間だ。

本当にいつからこうなってしまったのだろうか。

でも、なんの記憶もない。俺はどうして。


帆風七咲badend。完。とても難産でした。

次回からは帆風goodendか、別ルートか始まります。

安易に病気設定するとダメですね。帆風が何の病気かは分からないです。

いずれ内容も修正したいです。

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