帆風七咲7 あー、聞いちゃいます?
=>七咲の願いのためにも負けられない
後悔のない夏休みのためにも負けられない
ポトリ
一つの線香花火の玉が落ちた。
「あ…」
そしてもう一つの線香花火は火の玉が落ちず、そのまま火花が散った。
俺と大郷はお互い笑みを浮かべる。
「さすがだな、翔琉」
「お前の筋肉も凄かったよ、大郷」
線香花火が最後まで残っていたのは俺だ。
「―――勝者!翔琉!!」
「やるわね」「すごいです!」「やったじゃん」「めでてえな!」
周りからの祝福の声。
「ありがとう!」
「おめでとー、じゃあ願い事を叶えてもらおっか。何にしようかなあ」
隣にいる七咲にも祝福された、というか聞こえていたのか。
ニヤニヤした顔で考えを巡らせている。
「いや、俺が叶えるんじゃなくて、代わりに願うという、な?」
「えー、なんだって?」
「…聞くだけ聞くから考えとけ」
「そうするー」
なんだか押し込まれてしまったようにも感じる、願いを代わりに願うだけじゃなかったのか?
「あいつら最近仲いいよなあ」
「青春ね」「俺と筋肉みたいなものだな」
「いや、それは違うでしょ」「ずっと手をつないでます」
外野からこそこそとした声が聞こえるがそれは無視する。
ん?手をつなぐ?そういえば蝋燭の火を見て固まってた時、七咲が手を握って落ち着かせてくれたんだ。
お互い顔を見合わせて手をそっと離す。
「ま、それはそれとして結!優勝賞品は!?」
「ごまかしたな、あー賞品だな。うーん今度用意しといてやるよ」
「楽しみにしてるよ!」
何となく気まずくなり、いささか強引だが話題を変更することにした。
そもそも30過ぎのおっさんがひと回り小さい少女に、れ、恋愛的な意味で好きとか嫌いとかない。
七咲の事はこのメンバーで一番話しやすいってだけだ。うん。
その後は皆で残りの花火を楽しむことになった。
ヒュー…バン!
と威勢の良い音が鳴る。打ち上げ花火だ。市販の打ち上げ花火も結構迫力があって凄い。
思わず見入ってしまった。他のメンバーもそうなのかしばし無言で花火を眺めた。
大郷が職人のように無言で火をつけ離れてを繰り返している。そして最後の花火が打ちあがった。
「楽しかったな…」
最後も見終わり思わず声に出してしまう。
「だよねえ。またやればいいよー」
「また、か。そうだなあ」
いつになるかは分からないが、七咲の言う通りまたやればいい。
唐突に結が提案してきた花火大会だったが、思った以上に楽しかった。
「よっしゃ!来年またやろうぜ!」
「次は筋肉花火を用意しよう」
「いいんじゃないかしら」「ですね!」
「来年もまた来るからね」
皆も気持ちは同じだったのか、来年の花火大会の計画で少しの間盛り上がった。
まだまだ夏休みもあるというのに何だかしんみりしてしまう。
そんな空気を壊すように七咲が動き出した。
「まー、そろそろ帰る準備の時間だー!こんびにで着替えてに戻ろう」
「そうね、じゃあ男ども後始末は任せたわよ」
そういえばそうだ、もう午後8時過ぎ。明日も早いしさっさと片付けてしまおう。
「まあ、片付けるけどよ、言い方がなあ」と結がぶつぶつ言いながら動く。
女子たちは「またねー」と別れを述べて去っていった。
残った男どもでさっさと片付けていく。
「やっぱ女王様系の女はダメだよなあ。付き合うなら優しく甘やかしてくれる清楚系美人だろやっぱ」
「そうだな、筋肉質ならなお良い。そうだろう翔琉」
「いや、同意を求められてもなあ。俺は一緒にいて楽しく会話できる…いや何でもない」
急に女性の好みの話を振ってきたので思わず答えそうになったが、ニヤニヤした顔で見てくるので言葉を止めた。別に、誰のことも想像していないが藪蛇になりそうだ。
「ふーん。ま、いいけどよ。ゴミは俺が持って帰るから掃除は終了!帰ろうぜ!」
「お疲れ。今日は楽しかったよ、結、大郷」
「次はマグロの一本釣り祭りだ」
「だな」
なんて馬鹿なことを話しながら帰路につく。
途中、こんびにを通り過ぎたが明かりはなく女子たちも着替えて帰ったようだ。
ゆっくり歩いていると、その少し先でうずくまっている人影にたまたま気が付く。
七咲だ。胸を押さえて座り込んでいる。俺は急いで駆け寄った。
「七咲!大丈夫か!?」
「…うん、へーきへー………」
月明りでも分かるほどに顔色が悪い。七咲は無理やり笑って手をひらひら動かし答えてくれたが最後まで言葉が言い切れていなかった。救急車、と思ったが携帯をもってない。じゃあこんびにで電話をと動こうとしたら七咲に手をつかまれて動けなかった。
「こんびにで救急車を呼んでくるから手を離してくれ」
「だいじょうぶ、だから」
七咲はどうやら救急車を呼んでほしくないようだ。平気だとアピールしてくる。
そして緩慢な動きで胸ポケットから薬を取り出し飲んだ。
「ごふん、もすれば、なおるよー…」
「はあ、分かったから落ち着くまでもう話すな」
仕方ないので横に座る。七咲の体は夏にも関わらず冷たかった。
これでなにかあったら俺は一生後悔するだろうな。これ以上悪化するようだったらすぐにこんびにで救急車を呼ぼう。そう決意した。そのままお互い無言のまま時がたった。
「はあ落ち着いた。心配かけてごめんね翔琉」
しばらくすると流暢な言葉で七咲が口を開いた。顔色もだいぶ良くなっている。
「いや、無事ならいいんだ」
「そっか、ありがとね」
「それで、何の病気なんだ」
「あー、聞いちゃいます?」
今までの自分なら聞かなかっただろう。ただ、火を見たとき手を握って呼びかけてくれた七咲の力に少しでもなりたいと思ってしまった。だから後悔しないように踏み込むことにした。
七咲は少し気まずそうな顔をした後、口を開いた。
「―――心臓にちょっとした疾患があってねー、夏休みの最後に手術するんだ」
「そうか…。治るのか?」
「うん、手術が成功すれば多分ねー」
「よかったじゃないか」
「たださ、薬を飲んでるだけでも治るかもしれないし、手術するのも簡単なのと難しいのがあったりねー。成功してもしっかり走れるようになるか分からなかったり。それを私が決めてと言われましても。いろいろ悩んでいるわけですよ」
「なるほどな」
おおよそ予想通りの内容だったが、俺は七咲の悩みに対してなんて答えてあげればいいんだろうか。
見切り発車。この後、どうなるんでしょうか。
それにしても個別ルートが長い。共通ルートを倍増したいです。




