帆風七咲4 えー、折角話したのにー
そもそも俺は七咲をどう思っているんだろうか?
深入りするべきなんだろうか?
いや、七咲だけじゃない。結局、他のみんなもこの夏休みだけの関係じゃないか。
どうせ連絡なんて取らない。この夏休みをなんとなく良い思い出にできたらそれでよくないか?
変に聞いてギクシャクするほうがダメだろう。
―――俺はこの夏休みが終わったらどうなるんだろうか。
学校にしっかり通えるのか?ここのみんなは過去の俺を知らない、
でも、夏休み明けの学校は過去の俺を知っている。うまくいくのか?
仕事を終えた午後。
俺は考え事をしたくて村の中を当てもなくぶらついていた。
気が付けば少し前に走った広場に来ていた。
先客がいたようで誰かがそこで走っている。
…七咲だ。
思わず木の影に隠れてしまった。そっと覗いてみると七咲は真剣な顔で走っていた。
そこに普段の飄々とした雰囲気はまったくない。
七咲は何度も何度も走っては休んでを繰り返している。
陸上とか言ってたし練習しているのだろうか。
なんとなく出ていくタイミングがなくてボーッと七咲の走っている姿を見ていた。
背筋がピンと伸びた綺麗なフォームだ。あれはかなり速いだろうな。
なんて思っていたら七咲の顔色が悪くなっていて座り込んでしまった。心配になり声をかけに行くことにした。
「よっ、大丈夫か」
「…あー、翔琉じゃん。走った後はこんなもんだから平気平気、にしても見てたのー?」
辛いのか億劫そうに返事をしてきた。それでも会話をしてくれるようでいつもの感じで返答してくれた。
「ちょっと前からな。練習してたのか」
「まあ一応。私も陸上部だからね」
「そっか、それにしても…いや、なんでもない」
「え?何々気になるじゃん。そこで止めないでよー」
俺が途中で言い淀むと続きを促してくる。
この先の言葉を言っていいのかどうか判断が付かない。どうするべきか。
はぁ、考えても仕方ないか。どうせ答えは出ない。夏休みだけの関係ならここでギクシャクしても引きこもればいいだけか、逆行前の夏休みみたいに。
「それにしても全然楽しそうに走ってないな、と思ってな」
「そんなことないと思うけど、そうかもね」
「どっちだよ!」
意を決して口を開くと肯定も否定もされなかったので思わずツッコんでしまった。
七咲はあははーと薄い笑みを浮かべている。
実際、いつも荷台に乗せているときは楽しそうに笑っていたのに、今の練習はまったく楽しそうじゃなかった。まるで何かに追いつめられるように走っているように見えた。
「まあ、あれですよ。うん。楽しくないかも、みたいな」
珍しく歯切れが悪い答えを返してくる。
それでも話し出そうとしていると判断して待った。
「私は私で何のために走っているのか考えていたわけですよ」
「何のために、か」
「そうそう。翔琉は凄いねえ、走るのは好きだけど競争に向いてないから部活は辞めた!なんてなかなか決断できないことだよ」
「そうかな」
「そうだねえ」
こないだの俺の発言に思うところがあったのか七咲は堰を切ったように話し始めた。
「走るのは楽しいよ?だけど楽しく走るために陸上部に入ったのに楽しく走るだけじゃダメだった。だってみんなが期待してるんだ。全国大会も夢じゃないってねえ」
どこか遠くを見るように話している。学校での出来事を振り返っているんだろうか。
「田舎の学校だからさあ。滅茶苦茶に期待されるんだよねえそういうの。タイム的には全国レベルなんだって私のタイム」
「凄いじゃないか」
「だよねえ。でもそんなつもりで走ってるんじゃなかったからさあ。それに私の体は…ちょっとあれですしおすし」
七咲はそこでごまかすように言葉を濁した。話すかどうか迷ってるのか。そして俺は聞いてもいいのだろうか。先を促すこともできずに無言でいた。
「まあちょっと体が弱いのですよ。だからちょっと手術をしないといけないらしくて、でもしなくても日常生活やちょっと走るぐらいなら支障はないって。調子が良い時は割と走っても大丈夫だし。さて私はちょっとと何回言ったでしょうか」
「そうか」
「そうなんですよ。だからちょっと悩んでたんだ。手術をするかしないか。陸上部を辞めるかやめないか。期待に応えるかどうかってねえ」
「…なるほどなあ」
翔琉はどう思う?という感じで顔を向けてくる。
俺はその問いになんて答えたら良いのだろうか。正直な話、分からない。
ただ何も選択しないで逃げただけだからな。
だからこそ、か。
「俺から言えることはあまりない」
「えー、折角話したのにー」
「ただ、しっかり自分で納得できるように選択するべきだと思う。前も話したけど俺は選択しないで逃げた。たまたま心に折り合いがついただけで何年も後悔したかもしれない。勿論、選択しても後悔するかもしれないが、きっと逃げるよりかはずっとマシだと思うぞ」
「そっかあ。やっぱそうだよねー」
七咲は納得したように頷いて立ち上がった。
両手を振り上げて元気をアピールしている。
「よっし、元気回復しました!ところでさ私のフォームどうだった?見てたんだよねえ」
「あー、ちょっと軸がぶれていたかも。もう少し左足はあげてもいいと思う」
「おっ、さすが元陸上部。じゃあちょっと見ててよ翔琉!」
「ああ、いいぞ」
そしてなんか流れで七咲の走りを見ることになった。
彼女は勢いよく走っていく。綺麗なフォームだ。俺の指摘も正直いらないぐらいだ。
それから夕暮れまで走りを見ていた。
「あははー。今のはどうだった!?」
「ああ、かなりいいと思う」
暑くて、セミの声はうるさくて、日差しは強いし汗は止まらない。
それでも七咲はいつものように楽しそうに笑いながら走っていた。
陸上部の知識はないです。翔琉君が積極的になることもないです。




