知りたくないんだよ(カルロ視点)
最終回後のカルロ視点です。
『今日は一日メリッサと過ごす。父上に許可はもらった。執務室にはエディが行くからよろしく頼む。では』
テオからの一方的なテレパシー。内容を理解する前にまくしたてられ強制的にぶつりと切れた。
えーと、つまり。
いや、脳が理解するのを拒否する。え、俺知りたくなかったんだけど。
何でいきなり今日なんだよ。昨日メリッサが泊まりたいとか言った時点でいやーな予感はしたが一体何だ、昨日今日と何があった。
許可をもらったということは、陛下もご存じ?
あいつ何人にテレパシーしたんだ。おいおい。内容が内容なんですが。そりゃあ許可をもらうために理由は話したほうがいい。いいが……。
さすがにお父様にはしていないよな? だったらお父様には誰が伝言するんだ。まさか陛下? それとも俺?
……俺知らなかったことにできないかな。
お母様は……何でだろう、知っていそうだ。じゃあお母様にお願い……いや……。
なんか頭痛くなってきた。
よりにもよって王城へ向かう馬車の中で聞くことになるなんて。帰ることはできないが帰りたい気分だ。
と、とりあえず仕事しよう。
執務室の自分の席に着く。
テオの机は整理されていた。彼は昨日、今日の分までできる限りやったということか。
しかも彼じゃなければできない仕事を重点的にしていて、残るのは今日くらいエディに任せてもいいものばかり。
つまり、最初からあのつもりで?
……い、いや、違うよな。
考えない、考えない。
仕事が少なくなったことはいいことだ、うん。
しばらく仕事しているとノックの音がした。
「兄さんから代わりに仕事してくれって頼まれちゃって~」
へらへらと笑って後ろの頭を掻いている。
いないよりはマシか。
一応確認を。
「近衛団のほうはいいのか?」
「一日くらいいいよ。ウーゴは優秀だから!」
副団長大変だな。しかし彼らは仲がいいはずだ。エディは兄弟仲もいいから、いろいろ得をしている。
へらへら笑いながらテオの席に座るも書類を見て渋い顔をした。
「ええ~、判子だけって聞いたのにこんなにあるの? 僕第一王子じゃなくて本当に良かった」
「お前なあ……」
それは俺も思う。
エディは昔から騎士団に入りたがっていた。政治など興味がない。
テオもそんなエディのことを尊重し彼がサボっていてもあまり言わなかった。副団長にも負担をかけないよういくつか仕事を請け負っていたほどだ。
エディが国王を目指せばメリッサの婚約者が彼に移ると考えたからかもしれないが……いや、今日はそれについて考えるのはよそう。
「一日中休むなんて、兄さんよっぽどしたかったんだね」
「言うな! 言わないでくれ!」
耳を塞ぐ。
今妹とテオがどうなっているかなんて欠片も想像したくない。
「メリッサはブラコン気味だけどカルロも実はシスコン?」
「いや兄弟間のそんなの知りたくないのが普通だろ」
エディもだろ、と告げてみたのに「僕は別に?」と返答された。こいつマジで鍛練以外興味がないんだな。まったく、どいつもこいつも普通じゃない。
俺は仕事に集中しよう。そうしよう。
そう思っているのに面倒くさいのか時折話しかけてくる。
「あーあ、兄さんが結婚しちゃったら僕の結婚問題が話題になっちゃうなあ。いやだなあ」
よりにもよって何故今テオの話題を出すのか。こいつわざとか?
「ねえねえ、誰かいい女性いない?」
「お前の好みに合う人間は知らん」
強くて鍛練大好きな女性騎士、という人物がいたらとっくの昔に有名になっているはずだ。先進国であるこの国でさえそんな人物は聞いたことがない。
「ちぇ~。いるとしたら他国かな? パーティー出たくないなあ~。苦手なんだよね」
そういえば彼のダンスしている姿はここ数年見たことがない。自分も正直そんなに踊りはしない。
「カルロは結婚問題どうなの? 確か何人かと付き合ったことあるよね?」
「どいつもこいつも地位目当てでいやになった」
「ありゃま、ご愁傷様」
「俺はいいんだよ、仕事に生きる」
「いやいや、嫡男がダメでしょ」
あーもう、うるさいな。仕事に集中させてくれ。
何で恋愛の話題なんだ。二人とも苦手としていて今まで回避していたこと。
エディの言う通りいつまでも逃げられる問題ではないが何故。何故今。いやでも思い出すだろうが。
「こういうのは考えると悪い方向に行くんだよ。運が良ければいい出会いもあるだろ」
見合いでも政略結婚でも構わない。だからこの話はなしに、と思ったのに食いつきやがる。
「運って。一番自分ではどうにもならないやつ」
判子から手を離し両手を上にあげて背伸びをし出した。飽きるのが早すぎる。
エディも集中力はあるほうなのだが事務で活かされることはない。
こいつを見ていると騎士団の演習場へ行ってもらったほうがいいかな、と思えてくる。
テオや副団長の気持ちが分かってきた。
…………あー、いや、ちょっと今は頭の中から追い出したい人物が。
「あーあ。運命の人が本当にいれば良かったのに」
ん?
良かった?
何で過去形なんだ?
「何だ? ロマンチストか?」
「違うよー。ま、兄さんにとってはメリッサが運命の人なんだろうね」
「思い出させるなよ!」
あーもう!
仕事だ仕事!
* * *
何とかエディに手伝ってもらって仕事が終わった。
いらないことをちょくちょく会話に加えやがって、もうあいつとは仕事したくない。
ああ、でもテオもいやだなあ。特に明日。
それはもう浮かれた奴と会わなければならないのだろうか。
休みたい。
「お帰りなさい」
「ただいま……って、メリッサ!?」
瞬きしても玄関を開けて目の前にいたのは妹だった。何でいるんだ!?
「お前、今日は王城じゃあ?」
「泊まる用意をしていなかったから帰ってきたわ」
……え、それで帰ってくるもん?
「テオが引き止めなかったのか?」
「めちゃくちゃ駄々をこねられたわ」
駄々って、子どもかよ。いや、俺としてはどちらかというとテオの気持ちのほうが分かる。
メリッサはいつも表情が変わらないので今の気持ちが分からない。
いやなことがあったから帰ってきたわけではなさそうだが何故いつもと同じ態度でいられるんだ。俺のほうがどんな顔をしていいのか分からない。つい視線を逸らしてしまう。
何があったにせよ帰ってきてしまったということは、これは明日は落ち込んだテオと仕事かー……。
「なので明日は泊まるから」
はい?
思わずまた視線を元に戻すものの相変わらずの無表情で平坦な声色。だが振り返ってリビングへ向かう後ろ姿は心無しか嬉しそうだ。
え、ていうか泊まるって?
ということは、明日も……?
……聞いていない、俺は何も聞いていない。
首を大げさに横に振って頭の中から考えていることを追い出す。いなくなれ。
ああもう、俺は何も知りたくないんだよ!
明日のテオの機嫌が分からない。
……仕事、休みたい。
仕事に集中するテオに拍子抜けするも「絶対残業しない」と宣言されて微妙な顔になるといい。




