ヒント(後半テオ視点)
「あははははっ! なにそれ、まだだったの~?」
エディの笑いが部屋に響く。
アレッシオ叔父様もよく笑う人だが何だろう、あちらは気にならないのに久しぶりに会ってこれは腹が立つ。
じと、と睨めばうぐっ、と口を噤んでくれた。
(エディを黙らせるとはすごいな……)
何故か感心される。そうか? 意外とこういうところは素直な人である。
お茶会だと聞いてきて、兄の代わりにテオの後ろにいたのが彼だった。
後でラウラも来るそうだ。情報の整理をするらしい。
魔具について話すので兄が事前にいないことは聞いていた。
ラウラが来るまでは二人きりだと思っていたのにとんだ邪魔者がいたことに無言の抗議をテオに送れば平謝りされる。
(私も二人きりが良かったのだがカルロに断られてしまった)
くっ、兄が言うなら仕方がない。
風船も一つだけ。ソファーに置いてあった赤いハートの風船を割れない程度に苦情を込めてぎゅうぎゅうと抱きしめる。
何を勘違いしたのか周りがハートだらけになった。
……これで我慢するか。
「本当に仲良くなったね~。文字ってやっぱすごいんだね」
「エディも使えるかもよ?」
「ん?」
不思議そうに頭を傾ける。どうやら詳しい説明をしていなかったようで、いざ説明したら冒頭だ。
笑いをやめたエディは考えるように上を見上げ苦笑する。
「ん~、肝心の運命の相手が自分で選ぶ、ってことでしょ? 僕兄さんと違って素直に言うから必要ないよ」
「うぐっ」(き、気にしていることを……)
ダメージを受け自身の胸を抑えていた。
まだ気にしていたのか。
「で、結婚式のリハーサルするんだ? 元々するものだからちょうどいいじゃん」
「良くない」(それをしても文字が消えなかったら本番までどうすれば……!)
どうしましょうかねえ?
王冠の時と違いこちらは本当にリハーサルもしなければならない。何をすれば文字が消えるのか分からないが無駄にできる時間はほぼない。
「リハーサルって皆がすることでしょ? 通常していることをしたら文字は消えないんじゃない?」
エディの言う通りである。ラウラから何かいい情報が入るといいのだが。
* * *
ラウラが前王妃様に聞いたところ、やはり結婚式の時間が違い十八時から行ったらしい。
つまり消えたのは朝の六時。明朝でもぎりぎり文字があったというわけか。
時間が違うと分かっていればもっと早く解除方法が分かったかもしれないのに、とアレッシオ叔父様は不満を抱いたそうだ。
分かったとしても必要なのはもっと細かいことだ、と今度はテオが不満を文字で呟いていた。
「改めて禁忌になった魔法を洗ってみたの。王冠の魔具に関係なく、七百年前に禁止になった魔法。心の中を知る魔法と、嘘を見抜く魔法があったの。だから始まりの王太子はどうして二人が消したいか知っていたんだよね。そして現在では結婚式の時間が遅くなったことも知っていた。だから本番でなくてもなくなる方法を必ず考えたと思うの。メリッサ、本当に何も知らない?」
まさかこちらが質問されるとは。
うん、まあ。解除方法を知りたいことは直接口でも言った。
本当に彼は何もヒントを残してくれなかったのか、と私も思っている。
アレッシオ叔父様曰く魔具を調べることは想定していなかった。王様が語ることもできない設定だ。
では何だ?
テオと顔を見合わせる。彼の頭の上の文字も同じようなことを考えていた。
「……メリッサ。母上は、最初何という伝承だと言っていた? 父上が言えない以上、後ヒントがあるとすれば代々王妃に伝わるものの中にあると思う」(残すのは伝承の中に違いない)
お義母様から?
皆の視線が私に集まる。
確かお母様から聞いたのは……と改めて思い出しテオが魔法で用意してくれた紙に箇条書きで書いてみた。
――王太子が20歳になると運命の相手にだけ文字が見えるようになる
――王族にだけ伝えることができる
――結婚すれば消える
――好きな相手に素直になれない王子が神様に素直になれますように、とお願いした
――神様の呪い
私達の心の中を見たからそれと一緒にした、としてしまえばそれまでだけれど。
「ちょっと、最後の呪いはメリッサが考えたことでしょ? 勝手に足したらダメだよ」
あ、そうだった。エディに言われて二重線を引いて訂正する。
「七百年も前なんでしょ? メリッサみたいに足した人もいるかもね」
その可能性は十分にある。
だがヒントがあるとして、魔具に関係なく、結婚式に関係のあるものは……。
私達の視線はある一点に集まる。声に出したのはエディだった。
「これの王子って、始まりの王太子でしょ? ヒントはこれっぽいよね。そもそも、神様っていったって実際は兄さんとメリッサじゃん」
正直、これだけ異質である。起源など必要ない。しかも嘘。
過去へ行くために必要だった“始まりの王太子は初代魔術師団団長で団長室の肖像画に描かれた人物”という情報はアレッシオ叔父様が調べ上げたこと。伝承とは関係ない。
自分自身の情報を残さなかったのに、嘘の起源だけを残した。
神様にしたのは運命の相手という信憑性を高めるためや悪用を防ぐためだと思ったけれど。
結婚式と神様。
誓いのキスではなかった。ならば残るのは。
「……誓いの言葉は、通常のリハーサルでするものですか?」
神様へお願いして文字が出た、とするなら。
なくなるのも、神様へ願うもの。
「いや……するのは手順の確認だからしない」(誓いの言葉……それが?)
では、なくなる確率は高い。十二時間後まで様子を見る必要はある。リハーサルを何時に行う予定なのか聞いてみると同じ昼ぐらいだそうだ。……なくなるのは夜か。
テオは少々戸惑っていた。
「リハーサルでも誓っていいものだろうか」(リハーサルでもなくなるものか?)
「なら待ちますか?」
「違ったら初夜を一日遅らせればいいだけだしね~」
「んなっ!」(いやだ!)
ラウラとエディに即答され眉間に皺を寄せる。
なくならない可能性があってもするしかない。
「まあ結婚式のリハーサルなら何回やってもいいし、気軽に行きましょうよ。間違っていたらその時また考えましょ」
ラウラがのんきにお茶を飲んだ。彼女はこれが正解だと思っているらしい。
もうこれじゃなければ考えようがない。
それにしても、まさか最初からヒントがあったなんて……。
いや、魔具を探そうとしなければ過去へ行かなかったわけで、そうしたら魔具はできなかったわけで、文字が出ることもなく……。
頭がこんがらがってきた。過去へ行く魔法は禁止されて当然である。
「結婚式のリハーサル楽しみだね!」
にこっと朗らかに笑うラウラを見ているとほっとする。
魔法を使うことではないのだ。魔具を探したあの時に比べれば気が楽である。
ラウラの言う通り、間違っていたらその時に考えればいい。
……結婚式のリハーサルを何度もするのはどうかと思うが。
******
仕事を終え自室に帰り、ソファーで一息をつく。
本番の結婚式までももうすぐ。
結婚式での誓いの言葉。
リハーサルで誓うのは複雑な気持ちがするものの、文字が消えるなら早いうちがいい。
ふと頭の上を見上げてみたが当然何もない。
メリッサの視線は私の頭の上にあることが多い。それを少し寂しくも感じていた。
文字が消えたらメリッサは私と視線を合わせてくれることが多くなるはず。もう頭が真っ白になって暴言を吐く狼藉はしまい。
もし。文字が消えたなら。
メリッサと――。




