魔具②
「あれ? ということは、お父様20歳になる頃にはお母様のこと好きだったってこと? うわあ、本人運命だから、とか好きだと自覚したのはお母様が先だとか言ってたくせに。あはは、ヘタレ」
何故かテオがダメージを受けていた。
(ヘタレ……私はお祖父様似だったのか)
違うと思います。
前国王様は暴言を吐いていないはず。外見含めて始まりの王太子のトーニオ様似ですよ。
「無自覚だったんじゃないですか? それでも魔法使えるんですよね?」
「まあ、そうだね。強い想い、っていう設定で無自覚ってどうかと思うけど……」
「きっとそうですよ。強くても無自覚な人はきっといますもん」
「……う、うん」
さすがのアレッシオ叔父様も娘を見ながら歯切れが悪くなった。
ラウラに言われるとは……前国王様……。
「まあ始まりの王太子もずる賢いよね。文字が出るのは想いの強い相手だから歴代の国王は真実を知っても言わないし、歴代の王妃は運命の相手だと信じているから離婚を選択しない。王妃に受け継がせる伝承って、いやなこと考えたもんだね~」
話題を変えたがふふふ、と嬉しそうだ。
トーニオ様が考え出したかどうかは疑問だけれど、いやというよりいい方法だと思う。
実際文字が見えるのは運命の相手だと告げられたからこそ私は彼に一歩歩み寄った。
文字が出ないままだったら一体全体どうなっていたことか。
テオの考えが気になって彼の頭の上を見つめる。
(確かに……私だけが真実を知った場合、メリッサに運命の相手ではなかったとは言わないだろう)
ふむ。妥当だ。
七百年もの間、文字が出た歴代の国王全員が伴侶に言わずに済ませたのだ。正直私だったら言わない。
その時きゅ、と手が握られる。
目線を下げて見えた表情は私が想像したものとは違っていた。
(誰が何と言おうとメリッサが私の運命だ。文字が見える前から、一目会った時からそう思っていた)
私と目が合うと微笑んでくる。
トーニオ様に対しても神様が決めても、と発言していた。
それならもっと早く暴言をやめるべきだった、いやそもそも暴言をしないものではないか。
いろいろ言いたいことはあるものの目の前の穏やかな顔を前にすると何も出てこない。
昔のことはいい。私も、今はどちらかといえば運命というものを信じたい。
手を繋ぎ見つめ合う私達を温かく見守るラウラとお義父様とは反対にアレッシオ叔父様はくくく、と肩が震えていた。失礼な人である。
じろりと睨めば慌てて弁解してくる。
「いやいや、仲良さそうでいいな、って思ったんだよ。自分が決めた人が運命、っていうのいいよね。私はリータだ。この魔具が使えれば彼女が驚く姿を見ることもできるのかな」
リータ叔母様に? それはどうだ?
それより王族で無自覚がOKならやはりラウラに使ってみたい。ただ魔力がどのくらい必要なのかが分からないし設定も私一人ではできない。後でアレッシオ叔父様に相談してみるか?
うんうん考えていると手にぎゅっと力が籠もる。
顔を上げればテオももう一方の手を顎に当て考えていた。力は無意識か。
(メリッサには使えるのだろうか。彼女の心の中……少し知りたいかも)
私?
私は王族ではない。結婚すれば範囲に入るのか? 無理では?
そもそも。
「私素直になりましたよね?」
「え」(バレた!?)
バレますよそりゃあ。今魔具が使われているのは貴方ですよ。
「ち、違……メリッサが素直じゃない、と思っているのではなく」(メリッサが今見ている風景を私も見てみたい。可能ならメリッサが出したハートマークがとても見たい。絶対可愛い)
狼狽して手をばたばたと忙しなく動かしている。焦りらしい汗とハートマークが頭の上に見えた。
私の素直さが足りないのかと思ったらこの風景が見たいのか。
自分がハートマークを飛ばしているところを想像する。
…………私が想像すると気持ち悪いのだが、テオは本当に想像した上で可愛いと考えているのだろうか。
とりあえず手を離してくれませんか? ……繋いでいてもいいですけど。
「私は王族でないので無理だと思います」
聞いていたラウラにも「そうだね、無理かも」と肯定してもらった。「そ、そうか」と分かりやすく項垂れるテオは一度目の診察を受けたほうがいい。
「それに私では魔力が足りません」
軽く首を横に振ればアレッシオ叔父様も会話に加わってくる。
「だね、自動で吸われちゃうからね~。あ、国王も自動で吸われるんだよね? テレパシーの使いすぎで倒れた王族がいたけど、それってもしかしてこのせい?」
「その人は王様や王太子じゃありませんでしたよ」
「違うの? じゃあどうしてだろう?」
「王族といっても魔力の量に違いがありますし使い方が下手だったんじゃないですか?」
ラウラが厳しい。魔術師団に所属し団長を目指すだけあって魔法に関することにはシビアだ。
「それかテレパシーは長距離で長時間だと大幅に魔力を消費しますから、王都から遠いところに住む人だったとか」
「ふーん。そうなるとやはりテレパシーの代わりになる魔具は早急に作ったほうがいいかも」
二人して顎に手を当て考えている。アレッシオ叔父様の手の平の上に乗せていた王冠のある箇所をお義父様が指さした。
「なあに、お兄様? えーと……手動も可?」
書いてある箇所を読み上げる。
「ああ、日によって大量の魔力が必要な場合もあるからな。もっと見ろ」
魔術師団に所属していないお義父様が大量の魔力を必要とするのは式典の類か、あるいは戦争だ。
魔法が使える王族はもちろん戦争で大活躍するため参加することが多い。いるだけでも騎士達の士気が上がる。この魔具のせいで魔力が足りなかったなどということがないように手動という方法もあるのか。国王が全てを知るなら王太子のフォローもできる。
自分が婚約者とラブラブになりたいからと魔具を作ろうとしたトーニオ様。私は魔具の恩恵を受けたがお義父様みたいに必要のなかった例もあるだろうし、よく七百年も持ったものだ。
感心しているとアレッシオ叔父様の弱った声が聞こえた。
「…………ごめんお兄様、これ魔具が小さいから説明の文字もすごく小さくて見えづらいんだ。さっきからずっと解除方法探してるのに見つからないんだよ」
画面に目を凝らす。同じく画面を注視するラウラの眉間にもしわが寄っていた。
ああ、探してくれていたのか。
初めて見る魔具に夢中になっているものだと思っていた。テオも二人が好奇心旺盛なのを知っているから待っていたのに、見つかっていなかったのか。
「え、見つからないんですか?」(早く知りたい!)
「うん。すごく文字が小さいんだよ」
「文字を大きくしたりできないんですか?」
今の魔具の説明は分かりやすい。ああいう画面は魔法が使えないと出せないがなくても足りるくらい、ボタンを一つ押せばできる簡単な物ばかりだ。
そこら辺もアレッシオ叔父様達の頑張りだと思うけれど、この魔具も元々は彼らが作った物。
だから言ってみたのに気まずい顔をされてしまった。
「昔の天才にそこまでの配慮はなかったみたい。というか分かってなかったかな。読み取られること前提に作ってないね。自動的に発動する魔具だから」
「そんな……」(そんな……)
テオの視線がお義父様へ向く。お義父様は解除方法も知っている。
お義父様からも気遣う視線が送られた。
これは言えないのか。




