魔具①
欠陥品?
テオの頭の上を見る。
(欠陥品?)
文字はきちんと出ていた。
「ああごめん、全部壊れているってことじゃないんだ。一部の魔法が欠けているんだよ。さすがに七百年持たせるには小さすぎたのかな」
「ど、どこが欠けているんですか?」(まさか文字の消し方!?)
青ざめているがそれだったらお義父様の文字も未だあるはず。まさかこの二十年強で壊れた?
「ううん。20歳のいつから、ってところ。20歳になっていても他の日付を選ぶところが潰れている。魔法自体に支障はないよ」
……そこ?
な、なんだ。どうしようもないところが壊れているのかと思った。テオとともにほっと息をつく。
「だから代々時期が違ったのか。一定以上溜まったら、だと思ってた。お兄様が毎日のようにお義姉様に会ってたから溜まるのが遅くなったって仮定してたのに」
「――!?」
何も言えないからと私達を見守っていたお義父様が目を見開いてアレッシオ叔父様を見つめる。
「元々は誕生日と設定されていたそうだ。私も父から聞いた」
お義母様は出るのが遅すぎて一度は婚約解消を視野に入れたと言っていた。一定溜まると、ならお義父様が阻止するであろう。アレッシオ叔父様はこれを知らなかった。
アレッシオ叔父様はあからさまに肩を落とす。
「なーんだ。いろいろ考えてたのに欠陥だったのか~。どうする? 誕生日に変える?」
「直せるんですか?」(直せるんですか?)
「直すのは防止の魔法がかかっているから無理。でも上から重ねることならできなくはないよ。――そうだ。お兄様、伝える相手の範囲を広げてもいい? 私はやはりリータに言いたいと思う」
お義父様はその視線をテオへ向けた。
「魔力を使うのはテオだ」
その言葉でテオに注目が集まる。にっこり、と綺麗に笑っていた。何だか圧力を感じる。
「ねえテオ、もう少し負担増えても大丈夫だよね?」
「は、はい」(怖い)
テオの顔が引き攣る。あれは否定できまい。
「お父様我侭~」
「ありがとう」
「褒めてませ~ん」
「あ、でも配偶者にしよう。婚約者設定だと広すぎる」
魔法を使って上書きしている楽し気な二人を横目に私はテオに本当に大丈夫なのかと聞いた。
「ああ……。元々気付かなかったんだ、支障はないはずだ」(多分)
王族の魔力の大きさはすごいなあ。しかしどのくらい魔力を使うか分からないのだ、文字が消えるまで油断はできない。
「無理をしないでくださいね」
皆がいるからと小指だけをそっと握ればハートマークがぶわりと舞い上がった。
「あ、あああああ、ああ」(メリッサにはいつでも会いたい。魔力が尽きないよう気を付けよう。あまり魔法を使わないようにしなければ)
文字も大きくて多い。頭の上が光り輝く。
……用心しているそばから魔力を使いすぎていますけどー。
「テオ、テオ。なんか今めちゃくちゃ魔力使ってるよ」
「え!?」(!!!!)
「うん……まあ、大丈夫かな。私リータに言いたいし」
本当に大丈夫なのか……? 兄弟が多かったら範囲も広がるのでは……?
思わずお義父様を見つめたものの落ち着いて静観していた。王族の魔力って……。
「ま、量産はできないね。王族の魔力量だからこそできる魔法だよ。それでも一人用。二人にかけるのは負担が大きい」
一人用? ということはラウラやエディには使えないのか。いや、テオの文字が消えた後なら使えるか?
「年の差があるなら他の王子も使用できたのかな?」
「アレッシオ叔父様、確か魔法がかけられるのは王太子だけなのでは?」(他の人にできるのか?)
あ、そういえばお義母様から聞いたのはそうだった。だから一人用なのか。
だがアレッシオ叔父様が首を横に振る。
「人物は王族、とあるけど王太子とは決まっていないよ。次の国王が設定することになってる。出るのは20歳だから、それまでには後継が決まっているということだろうね。第一王子が死んだり失脚しても歴代の~ができるよ。20歳の後ダメ人間になっても王族でなくなればそこで魔法が終わって次の人物を設定できるようになっている。運命の人と一緒」
「え?」(?)
「テオ達から聞いてそうだと思ったけど、運命の人も自分で決めた人だよ。設定された人が設定する、っていう複雑な魔法がかけられている」
設定された人が設定? どういうことだ。
確かに始まりの王太子は婚約者に見せるように、と設定していたがお義母様や他の人は文字が見えた後の婚約だったはず。
「……? あの、私設定した覚えはありませんが?」(もしそうなら分かるはずだ)
テオが私に目線を送りながら問いかける。
「だね。でもテオはずっと前からメリッサが好きで他の人間とは結婚しない、ってほどの大きい愛情なんでしょ?」
「……は、い」(こ、言葉にされると照れる)
頬を赤らめ若干俯きながらも答えた。
あの、ハートマーク、ハートマーク。多すぎです。
「だったら無意識のうちに設定しているよ。そういえばお兄様一目惚れだったものね。ちぇー、考えれば分かったことだなー。魔具なんだから運命の相手じゃなくて王太子が決めた相手だって」
「いえ、これ今の時代の魔法の技術じゃできませんよ。始まりの王太子がすごいんです」
落ち込むアレッシオ叔父様をラウラが慰める。
「んー、そうなるか。今では語り継がれていなかったり禁忌とされる魔法もあるね。禁忌にしたのはこの魔具が理由かな? 再開できるものあるかな? 魔力の量が数字で表すことができるのは便利だね。既存の物の中に入れる魔法があればもっと魔具の使い道が広がる。次の魔具どうしよっかな~」
「いいですね。心の内に関する魔法ですからテレパシーの代わりになる魔具が発明できそうです」
二人揃ってハイテンションである。これから魔術師団は激務になるかもしれない。今この時間も二人の代わりに仕事している団員達を思うと……。
まあ、国が便利になるのはいずれ王妃になる身としてはありがたい。
禁忌の魔法は初めて聞いた。この魔具に関係があっても再開しようとするのは怖い。
お義父様も渋い顔をしている。
「アレッシオ……」
「それよりもさ、そうなると離婚もしないし側室もいなかったのは何なの? 運命だと信じ込めば本当になるっていうプラシーボ効果?」
それよりも、とは……。お義父様は苦い顔のまま溜め息を一つついた。
「……多分そうだ。元々王太子に言わなかったのは文字が出ることを嫌がったり文字が出なければ結婚しなかったりすることを恐れてのことだ」
魔具が関係ないことだから話せるらしい。
「へー。じゃあ発動しなかった王太子は運命の相手が見つからないというより本気で人を好きになったことがない、ってことだったのか」
「浮気性の人とかはどうなるんですか? 途中で変わります?」
「それくらいの軽い想いじゃ発動しないよ。きっと。実験はできないね」
「私はメリッサ一筋です!」(メリッサ以外を好きにはならん!)
ラウラの質問に答えたアレッシオ叔父様に対しテオが声を張り上げる。
……恥ずかしい人だ。一歩離れたらガーンとショックを受けて頭の上も暗くなった。
今日だけでだいぶ魔力を使っている気がする。




