文字に頼らないようにしよう
ラウラとアレッシオ叔父様は魔法自体を解明したがっていたが私達の目的は初夜の前に文字をなくすこと。
魔具が分かっても肝心の解除方法が分からないまま。
過去にまで行ったのに進捗なし。何ということだ。
絵画に再度手を当ててみたが何も起きなかった。起きたら起きたで怖いけど。
アレッシオ叔父様は絵画を隈なく見渡す。何やら魔法で調べているらしい。
「一回きりの魔法で発動条件が対象者限定なのかな。私達が調べても何もなかったから巧妙に隠していたみたいだ。七百年も継続させていたんだからすごいよ。魔具はともかく魔力の量や魔法の扱い方はさすがに昔の人に敵わないね」
それから私達に視線を移す。
「あの魔具はほぼラウラに任せていたからここに持って来るのは今日が初めてだったんだ。そうでなくとも私達は絵画に触ったことがあるから普段ここに来ない人のほうがいいね。メリッサと指定できる情報とか指紋を取られたことは?」
「ぁ……」(私が同じ名の王妃は一人だけだと告げた)
ああ、なるほど。自分の好きな人と同じ名前なら忘れることはないに違いない。
それをテオが告げればラウラは声を弾ませる。
「やっぱり条件はメリッサだったのね!」
後テオ殿下もね、とついでのように言われてしまう。情報源は彼なのだから彼のほうが重要だと思うもののラウラは素直になったテオにも相変わらず厳しい。
(メリッサを一人で行かせるなんて数分とはいえたまったものじゃない。そこは良かった)
私の存在を確認するように手が繋がれる。テオと視線が合わさるとハートマークがぽんっと出た。
もう。安心している場合ではないですよ。
魔具が王冠だと分かったはいいが、やはり何とかして国宝を調べなければならなくなったのだから。
ソファーに座り直したアレッシオ叔父様が口を開く。
「王冠は盗難防止の魔法がかけられているから盗むのは無理として、宝石ならぎりぎりできるかな」
国宝に対してできることとは一体何だ。周りが固唾を呑む。
「偽物を作って、本物と交換する」
「…………はい?」(?)
返事ができたのはテオだけだった。
「入れ替えるだけならお兄様が身に付けている時にできるはず。お兄様なら事情が分かっているんだ、きっと何かサポートしてくれるよ」
めちゃくちゃな!
「大丈夫、偽物ならすぐ作れるよ」
そういうことではない。国宝の一部を入れ替えるなんて文字のためでも恐れ多い。
さすがにラウラも引いている。テオに助けを求めて視線を向けようとする前に握られた手に力が込められ、おそるおそる私と繋がれていない右手を上げた。
「あのう……結婚式のリハーサルができるなら国王の即位式のリハーサルはできないんですか?」(こっちのほうがマシだ)
偽物の作成方法を考えていたアレッシオ叔父様が目を瞬く。
「できるけど王冠の必要性とか詳しいことは私には分からないな。結婚式に間に合う?」
もう半年もない。そうか、もうすぐか。
「そこは私ががんばります」(父上が分かっているなら何かサポートしてくれるはず)
結局お義父様頼み!?
まあ、アレッシオ叔父様の案よりは何倍もマシである。可能なら他人を入れずにじっくり調べることができるだろう。
「王冠を被るだけで分かれば一番いいんだけどね。お兄様は結婚式に被っても初夜が明けるまで知らなかったらしいから違うね」
そうか、お義父様がお義母様に言われるまで気付かなかったということは王が魔具について全てを知るにも条件があるのか。
後少し過去にいられればトーニオ様といろいろ相談できたのに。トーニオ様も、解除方法を知りたいと話したのだから何かヒントを残しておいてくれなかったのか。
「でも分からないと王冠に魔力を溜められないよね。いつもつけていても不思議じゃないけどそうでない王もいるからつけているかどうかは関係ないのかな? お兄様あまりつけていなかったと思うんだけど王になってからは多忙でそんなに会わなかったからなあ……」
アレッシオ叔父様は過去を思い出すように腕を組み視線を上に向ける。
「次の王太子が生まれたら、とかじゃないですか?」
「ああ、なるほど。その可能性は高いね。第一王子が20歳になるまで溜めることができるなら少しずつでも相当な魔力量になる」
ラウラの発言に首肯する。となると、やはり初夜の前に王太子が文字について知ることはできないのか。
知ったところで過去に後戻りできない上誰にも言えないとは、この魔具改良すべきじゃないか?
二人もそう思ったみたいでわくわくしている。
「七百年も経っているんだものね。改良のし甲斐あるよね」
「楽しみですね~!」
「テオ、なるべく早くできるようにしてね! スケジュールは何とかして合わせるから! 魔術師団の皆は優秀だからさ!」
「そうですね。バルドが団長になりたがっているから仕事押し付けてもいいですよね!」
二人ともにっこにこ。楽しそうで何よりです。テオは勢いに押されていた。
バルドや魔術師団の皆さんはその日大変だなあ。
* * *
二人に催促され早速お義父様に相談するため魔術師団団長の部屋を出る。テオがテレパシーで聞いたところ今お義父様がいるのは南の建物。私も途中のホールまでは付き添うことにした。
魔具が何か分かったから部屋を回ることはなくなった。もう私が魔法を使う必要はない。終わって安心だ。
反対にテオは今も残念がっている。
(メリッサともっと一緒にいたかった)
部屋を回らなくても一緒にいることはできる。私は予定がなくなったから今日一日暇だ。
甘えるように腕を抱き寄せた。手は繋がったまま。
「お昼は一緒にできるんですよね? 貴方の部屋で待っています」
「っ……あ、ああ。ありが、とう」(抱きしめたい)
赤い文字とハートが心臓の鼓動のようにドクンドクンと大きさを変えている。
「していいですよ?」
「こ、ここはちょっと……。誰の目があるか分からない」(見られる可能性がある)
それは残念だ。肩に頭を乗せて更に密着する。
「では、貴方が部屋に帰ってきたら、ですね」
「~~っ……あ、ああ」(今帰りたい! 抱きしめたい!)
おや。大きい文字だから見えてしまった。
ああ、それと。リハーサルといえば。
「結婚式のほうはどうするんですか?」
テオは少々悩む様子を見せる。
「結婚式だとしても、結婚式の何かなのかが分からない。違ってまたしなければならなくなるより、確実に魔具を調べてからのほうがいいと思う」
そう、か。
顔を上げて文字をじっ、と見る。これがなくなってしまうのか。
恐らく即位式のリハーサルは簡単に許可が下りる。
いっそのこと、文字が消えたと嘘をついて本当の結婚式まで行っても……と考えていると文字が動いた。
(早く文字をなくそう。そして素直になって、きちんと目を合わせて、ありったけの想いを口にするのだ)
私と目を合わせるとふわりと優しく微笑んだ。
「好きだ、メリッサ」(好きだ)
つい見惚れてしまった。テオが不思議そうな顔をしたから慌てて返事をする。
強い決意に、私が考えていたズルを恥じる。
いつかテオは本当のことを知るのだ。ずっと文字をなくすよう素直になるよう努力してきた彼を知っているのに騙すのはひどい。
彼の透き通る声から出てくる言葉は以前と違い心地いい。
私こそ、文字に頼らないようにしなければ。




