始まりの王太子③(後半トーニオ視点)
「いえ、ありません」
「ん? これで全部のはずだが」
「はい、そうですね」
二人して首をひねっている。
私も装飾品を見てみた。絵画で見た程度だから一つ一つ詳しく覚えていないが、一つだけ分かりやすい物がある。
そっと一際目立つ王冠を手に取った。これならお義父様が着けているのを見たこともある。様々な宝石がついているけれど私が知っている物と何ら変わらない。さすがに建国時からあった物だから魔具ではないだろう。
これらでもなかったのか、と溜め息をついているとふとテオがじっと王冠を見つめていた。
「テオ?」
「この紫の石はアメシストですよね?」
王冠の後ろのほうについていた紫の石を見る。私は正直宝石に詳しくないがアメシストだと思う。トーニオ様も首肯した。
テオが王冠に顔を近付けて凝視する。
「私が知っている物と色が違う。もっと深い紫だった」
「色……ですか?」
「ああ。紫色はいろいろ調べているから詳しい」
……私のパーティードレスやプレゼントか。
といっても、色が違うから何だ?
「七百年経っているのですから色が変わるくらいは自然だと……」
「それはない。魔法をかけて常に新品の状態にされている。絵では後ろまで見られないから分からなかったが今のアメシストの色は絶対これじゃない」
断言した。自ら王冠を手に取って何度も頷いている。
「つまり、未来の私はそのアメシストの中に魔具を入れたということか」
「そう、だと思います。ただ私達の時代では既存の物の中に入れる魔具はないのですが……この時代なら魔法でできますか?」
へえ、そうなんだ。そういえば何かに装着する魔具はあっても中に入れる魔具は見たことがない。今までない物ならアレッシオ叔父様が分からないのも無理はない。
テオがトーニオ様に王冠を渡す。
「できるにはできるが、ここまで小さいのは初めてだ。元々この魔具に小型化する魔法が含まれていてよかった。周りに分からないようにするにはいい隠し場所だな」
宝石としては大きいものの物自体は小さい。
七百年も経てば魔法もいろいろ変わるみたいだ。
要するに小型化、軽量化に関してはアレッシオ叔父様は自分を褒めていた?
帰った後説明することがたくさんある。
はあ、と息をつく。
「メリッサ! 良かった、無事だったのね!」
……え?
腰に抱きついてきたラウラは泣いていた。可愛い顔に悲しい顔は似合わない。ポケットからハンカチを出して優しく拭う。
安心させるように背中をぽんぽんと叩きつつ周りを見渡す。
いつの間にか魔術師団団長室のソファーに座っていた。隣にはテオもいてぱちぱちと瞬きしている。
(戻ってきた、のか?)
文字がある。
少しだけほっとしてしまった。私という人は……。
「メリッサ達がいなくなった時は、ど、どうしようかと……私やお父様が絵の中に入ろうとしても無理だったの」
ぐすぐすと泣きながらラウラが説明してくれる。絵の前にいたアレッシオ叔父様がソファーに座った。
「安心して、君達がいなくなっていたのはほんの数分だよ。いきなりソファーに座っていたのは驚いたけど……何があったのか教えてくれる?」
はい、とテオが頷いた。
説明すると二人は顔を見合わせる。とても嬉しそうだった。
「合作かあ。会いたかったけどそれもいいかなあ」
「小型化を推進したのはお父様ですものね、すごいです!」
「ありがとう。色を設定したのはラウラだからラウラもすごいよ」
「えへへ~。ありがとうございます」
お互いを褒め合っている。ほわほわした穏やかな雰囲気だ。
「既存の物の中に入れる魔法や過去に移動する魔法なんてあるんだ。禁止された魔法ってそれ以外にもあるのかな? 調べたいなあ~」
ふふふ、と笑っている。あれ、急に怖くなった。
「まさかの王冠か~。王の象徴だから調べるのはマントと違って周りが許してくれなかったんだよね~。それも王冠の中の宝石の中って……七面倒くさい物にしてくれたね、テオ」
「え、私、ですか?」(私?)
「だってループしているから過去のテオが決めたんでしょ? テオじゃなかったら誰?」
「え……」(私?)
そうか、そういうことになるのか。
どうすれば良かったんだ? 今から変えられる権利は私達にない。
「ま、調べるのはテオが王様になってからなら簡単にできるよね。とりあえず、結局解除方法は何にしたの?」
にこやかに質問されて「あ」と間の抜けた声がテオと重なる。
一番重要な解除方法を決めていなかった!!
******
さっきまでソファーに座っていた二人がいなくなって時計を見つめる。メリッサが退出してからちょうど一時間。いつも反省会と称して一人にさせてもらっている時間帯だ。
うん、まあ、妥当か。誰にも二人を見られずに済んだ。
指を鳴らして装飾品を元に戻しておく。
一時間の間ずっとあの二人の心の内を魔法で聞いていたが未来は王太子でも許可制らしい。恐らくそうしたのも私であろう。これが表に出ないようそれに関する魔法は禁止したに違いない。必要な魔力の量が多いから禁止とするのは大した労力ではない。嘘を見抜く魔法も禁止にしよう。
あ。解除方法を決めていないままだ。どうしよう。
未来のメリッサによると神様からの呪いと言われるそうだ。
神様、ね。
ちょうどいい。悪用を防ぐためにもそういうことにして伝承しようかな。
それに初夜にまであるのはいやだから……よし、決めた。彼らなら気付くはず。
未来で王太子に言わない理由の一つに初夜が関係あるようだが、七百年もあればいろいろ変わってしまうのは仕方がない。テオドーロ、頑張れ。
しかし知っている人が誰もいないと次代に託すことが難しい。王太子がダメなら同じくらい魔力を注ぐ王にしよう。
あの二人には感謝をする。さて。私はあの二人が過去に来るための仕掛けをしなければ。
七百年後で婚約者の名がメリッサ。それだけ分かっていれば十分だ。テオドーロによると彼女以外は過去に一名だけらしいからな。おっと、魔具も忘れないようにしよう。
んー、魔具を作った魔術師達にも会いたいけれど七百年後まで持たせるためにはさすがの私でも二人と一つで限界だ。
肖像画を置かないといけないから魔術師団を作らなければ。ふふ、これから面白くなるぞ。
さて、と。足すのはこれくらいかな?
こんな簡単に魔具ができるなんて、未来はすごい。
小型化は未来の技術だから私が開発するのはよしたほうが良さそうだ。
まずは魔具を一から作る技術を確立せねばならない。魔力がない者でも使えたらこの国は格段に発展する。王になる者として頑張らねば。
頑張るのはメリッサに対してもだ。
卑怯だが、魔法でメリッサが私を好きなことは知っている。こんな自分を好きになってくれた彼女に対し暴言を吐くことがいやだった。この魔具で魔力のない彼女にも私の心の内を伝えられればいいのだが。
だからといって魔具に甘えていてはダメだな。暴言をなくして、口でもメリッサのことが好きだと告げる。目指すのは私にそっくりな顔の子孫と彼女と同じ名前の婚約者である。実に羨ましかった。
「……トーニオ」
いきなり聞こえた声にびくうっと肩を振るわせる。
しゅ、集中していた。顔を上げればメリッサがいた。
「メ、メメメメメリッサ」
な、何でここに? 嬉しい。一日で二度会えるとは思っていなかった。
「貴方が執務室に来るのが遅いから呼びに行けと言われまし……え?」
視線が頭の上だ。
何故だ。寂しい。私は目が合いたい。
……あ。そういえば今すぐに設定していた。
私には見えないのか。残念だ。
彼女の頬が赤く染まる。可愛い。
「……っ……何をしているんですか。努力の方向性を間違えていますよ」
ついさっき同じような言葉を聞いた。
…………あ。そうか、私が魔具を作ったことも見えるのか。
こ、ここは素直に好きだと言うチャンスだ。
「っ……!」
……ダメだ。口にしようとしても何も出てこない。また暴言を吐いてしまうのか。いやだ。
俯く私の近くにいつの間にか彼女が来ていた。
「貴方は、まったく……。何年でも待ちますから、いつかは、口にしてくださいね」
彼女に抱き寄せられ、私は立ったまま気絶した。
ま、まずヘタレをなくす魔具を作ろう。




