始まりの王太子②
「あの、それは……」
「ん? 何だ? 魔力消費が大きいが王族の魔力なら十分だろう? 君の魔力でもできるはずだ」
テオの魔力の量までいつの間に調べたのか。本当、していることが現代と桁違いだ。
会いたいと言っていたラウラとアレッシオ叔父様がここにいないのは残念である。
「聞いたのは王太子が20歳になったら運命の相手になる女性にだけ見える、だったな。悪いが運命の相手など、神様になるつもりはない。私はただメリッサに私の気持ちを知ってほしいだけだ、神様の意思など知らん。運命の相手を決めるのは私だ」
アレッシオ叔父様が懐疑的だったことだけれど……文字が見える相手は運命の人ではない?
「もし運命の相手とするなら私の子孫がそう設定したのかもしれない」
「いえ。――しなかったと思います」
テオが思いの外きっぱりとした口調でそう答えた。私と視線を合わせてゆっくり微笑むと手が握られる。
「私の運命の相手はメリッサだ。神様が決めようとそうなるはずだ」
「っ……」
ひ、人前で恥ずかしい人だ。
「う、羨ましい……! 魔具を完成させて私もメリッサとラブラブになりたい!」
トーニオ様が叫びながら顔を両手で隠した。
何故魔具ありきなのか。ないと困るのはこちらだけれど。
「メリッサは私のです!」
テオに抱き寄せられた。
いや、私じゃなく……。
ああもう、にやけそうになる。顔を隠すためにテオの胸に顔を埋めれば更に手の力が強くなる。
客観的に見ればこのほうが恥ずかしいことにその時の私は気付かなかった。
「……本当に私の子孫か? いいなあ」
数年前まで同じ言動でしたよ。
そもそも、ラブラブにはなるにはまずトーニオ様の婚約者が彼のことを好きにならなければならないのだが。そこら辺は考えているのかどうなのか。
顔を上げたら拗ねたように口を尖らせた。
「言っただろう、私が素直になれる道具を作ると。暴言を吐かないで済むものをと思っていた。この魔具のように心の中をそのまま、しかも文字にして出すなんて考えていなかった。それにメリッサは……いや、何でもない」
言うなれば、彼が作ろうとしていたのは自白剤か?
魔術師でもない私には作り方なんて分からない。そもそもあれは犯罪者用だ。
……あれ、私口に出したっけ?
テオも不思議そうに私達を交互に見ていた。
トーニオ様が魔具に手を置く。
「せっかくこうして魔具の基盤があるのだ。私は考えていただけで具体的なアイディアはなかったからありがたい。これを使ってもいいか? そうすればこれに足せばいいだけで簡単なことだ」
え。その発言に驚く。目の前にあるこれが探していた魔具?
ラウラ達が文字のことを聞いて作った物が過去で加工されて現在まで存在することになるのか?
そんなことをしていいのかどうか、過去へ移動する魔法なんて聞いたことがないから分からない。
「そんなことをしていいのでしょうか?」
「いいも何も、魔具がこちらに来たのだから意味があるのだろう。このような物を0からすぐ作れる未来の魔術師の技術はすごいな」
テオが質問するもトーニオ様はこれで作る気満々だ。実に楽しそうである。
ラウラ達が聞けば喜ぶと思う。
しかしこれを使っていいのか? 私達は未来に帰れるのか?
「えーと、確か20歳だったな。歴代で使うならそれでいいが私は今すぐに設定しておこう。三親等? 悪用を防ぐためか? いろいろ考えられているんだな。まあループしているこの場合考えたのは誰にもならないか。不都合はないからこのままでいいな」
箱の上や横に手を移動させている風にしか見えないが魔法を使って加工している。い、いいのかこれ。
テオが堪らず声を上げてくれた。
「その、トーニオ様。申し訳ありません。私達がどうやって過去に来たかも分かりませんし、この魔具が関係する可能性もあります。これで魔具を作られた場合私達はどうしたら……」
「それなら恐らく未来の私がしたことだから安心しろ。過去に移動する魔法は未来では禁止されているんだな。七百年もすれば使う魔法も変わるのが自然か」
はい?
発言したテオと共にぽかんだ。
「え、あの、過去に移動する魔法があるんですか?」
「ああ、ある一定の時間が経てば自動的に帰る。この魔具は先ほど調べた通り心の声を文字にして見せるだけでそんな機能はない。だから私にくれ。というよりもういくつか機能を足してしまったが……」
帰る、という言葉にほっとする私に対しテオは怪訝な顔をした。
「それなら魔具も同じく戻ってしまうのではないですか?」
「それは大丈夫だ。さっきできないように設定した。……あ、こんなことをするから禁止されたのか。過去の物に影響を与えればタイムパラドックスが起きる。ふむ……私が禁止すれば今後二度と起きないから矛盾が生じないか?」
設定も考察も早い。私は何をどうしたのかさっぱりだが要するに、ラウラ達が作ったこの魔具は試作品どころか本物になるわけだ。
「この魔具が過去に来るために私達も来た、ということですかね?」
「多分。ラウラが言ったように、メリッサが条件だったのは試作品ができて初めて絵画に触るからだと思う。魔具について説明する人は必要だ。ただ……私は何のために呼ばれたのか分からない」
テオが首を傾げる。私にくっついていた、ならラウラも来るはずで反対に魔具は来ないはず。トーニオ様はふと魔具から顔を上げた。
「そんなことはない。――重要なことを私に教えてくれて感謝する。まあ私は矛盾がないように未来の私がしていたことをするだけだがな」
未来の私とは。頭が痛くなりそうだ。
神様でなかったことが確定したなら、いいか。
……って、そうだ。
知らなければならないことがある。何故魔具を探していたのか。それは……。
「あの。解除方法は何にしようと考えていらっしゃるのですか」
「解除方法? そんなものが必要なのか? これは魔力を与えれば永遠に続くように設定されて……そうか、一生はいやだな」
理解が早くて助かる。テオもそれを知るのが一番大事だと気付いたようだ。私達が来たのはこれを知るためかもしれない。
「結婚をすれば消えると言われています。それに今まで魔具を探していても見つかりませんでした。最後の成形はどうなさるおつもりですか?」
「成形? このままではダメなのか?」
「ダメ、ではありませんが肖像画で身に付けていたたくさんの装飾品の中にあると考えています」
「肖像画? ああ、それで過去に来たんだったか。まだ作っていないな」
「王に就いた時期の絵でしたからね」
「そう、なのか? 王太子に出るのに? ああ、国王と二人の魔力ならもっといろいろな機能がつけられるか。考えたな」
この場合考えた人は誰になるんだ?
トーニオ様もアレッシオ叔父様もお互いに感心している。
テオが装飾品の数を説明する。トーニオ様は不思議そうに腕を組んだ。
「全てあるぞ。これは新しく作るものではなく既存のものに付け足したのか。そんなことが可能なのは宝石に変えることかな」
宝石……確かにそれがついている装飾品は多い。どれが、と考えているとパチン、とトーニオ様が指を鳴らした途端テーブルの上にその装飾品が置かれた。
私はびっくりしたがテオは感嘆する。お、王族って。
許可が必要ではないかと思ったけれど時代が違う以上何も言うまい。
「どうだ? この中で何か足されている物はあるか?」
テオがざっと調べるも残念そうに首を横に振った。




