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秘密の部屋

「お待たせ~」

 ラウラが部屋に入ってきたとドアを見たら、何やら彼女の上半身を覆い隠すような箱が前方にあった。魔法で浮かせているから重く見えないものの前が見づらいせいか若干ふらふらしている。

 ソファーの間にあるテーブルに置くとラウラは一仕事終えたように額を腕で拭った。

「よいしょ、っと。ふー。何とか間に合ってよかった~」

「お疲れ~」

 アレッシオ叔父様は当たり前みたいに歓迎しているが

「ラウラ、何これ?」

「ああ、これね、試作品」

「……試作品?」

「そ。魔具が見つからないならいっそのこと作ってみようと思って。何かのヒントになるかもしれないしね」

 にこりといい笑顔が見えた。

 見つからないから試しに作る? 二人の発想がすごい。


 それにしても大きい箱だ。白くて立方体である。

「大きい、ですね」(これが魔具?)

「いやあ、大きいのは仕方ない。まずは何でもこんなものだよ。他の魔具もここから改良に改良を重ねて最後に使いやすいよう成形してコンパクトに圧縮していくんだ」

 テオの質問にアレッシオ叔父様が答える。

 ラウラはソファーに座ると語ってくれた。

「心の声が頭の上に出る、っていう魔法をかけるの一苦労だったんだけど、これくらいはテレパシーもあるから時間をかければできたよ。色をつけるの大変だった~。ハートマークとか音符とか記号は難しくてもうちょっと時間かかるかも。後人物の設定は魔法でできても特定の人だね。歴代の~なんて無理」

「今までの魔具がそういうものだからね。魔具について告げられる人は特定の人から三親等と設定できるけどやっぱり人物を変えるのが難しい。運命の相手はお手上げ。テレパシーと同じくらい魔力消費が大きくて定期的に込めないとダメだから実用化は難しいかな」

 アレッシオ叔父様が手を横に振りながら補足する。


「その、どうしてこれを? これを持ちながら私の部屋を回るのですか?」(何か意味があるのか?)

「ううん、そうじゃない。実はね、お兄様達の部屋に魔具が隠されているかもしれないから見てもいいかって聞いたら無駄だ、って言われちゃったんだ」

 無駄? ダメ、ではなく?

 どういう意味だ。お義父様は何か知っているということか。

 私の視線での問いかけにアレッシオ叔父様は頷いて返事をする。

「お兄様が何か知っている、ということは最近気付いたよ。魔具を聞いた時首を横に振ったのは分からないって意味じゃなく言えないってことなんじゃないか、って。言えないの? って聞いたら肯定された」

 そうだったのか。お義母様は知らなさそうだったから国王だけが知ることになるのか。

「でね、ここからが本題。魔具があるとして、国王だけが知る場合あれらの中にあるんじゃないかって思うんだ」

 指さしたのは後ろの肖像画。

 あれら、とは?

 まさか、彼がつけている装飾?

 あれらは王様がつけるもので……。

「こ、国宝ですよね」(あれらの中に?)

 青ざめるテオにアレッシオ叔父様も苦笑する。

「うん、そう。まず借りるのは無理。一つ持ち出すのにも面倒くさい手続きがいくつもある。勝手に持ち出すことはできないように魔法がかけられていて私でも犯罪になるよ。そもそも理由が言えないことがネックで調べられなかったんだよね。この可能性はいやだったんだけどなあ」

 それでも余裕があるのは想定していたからか。それとも元々の性格か。

「どれが七百年前に作られた物か分からない。それに魔具だとしたら昔作ったにしては小さいんだよね、どれも。小型化、軽量化したのは私が団長になって勧めてからだと思っていたんだけど」

 目の前にある大きな箱と絵画を見比べた。身に付けているのは王冠、指輪、腕輪、ネックレス類。大きいと言えばマントくらいか。

「大きいマントは昔調べられたよ。ただのマントだった」

 ラウラもそうだけれどアレッシオ叔父様も敏い人である。私の視線で気付いたらしい。

「七百年前で魔術師団もなかったなら一人で作ったはず。だから試しに作ってみたの。小型化すると改良しづらいから大きさはこれだけど、二人でもこれが限界でした」

 ラウラが箱を手で示す。

「作ってみても解明できない問題が多くてね。あれらの中に魔具がある場合、始まりの王太子はよっぽどすごい人だったんだろうね」

 天才と称されるアレッシオ叔父様やラウラの更に上を行く人物かもしれないのか。

「会ってみたいね~」

「ですね~!」

 悔しがるのでなく楽しそうに話す親子。この二人は本当に、魔術師になるために生まれてきたのだなあ。


「ねえテオ、結婚の前に王にならない?」

「今からは無理です」(無理)

「だよねー。調べてみたけど王になってから結婚、は例がなかった。お兄様は同時。まあサポートするのが魔具を身に付けた国王だとすれば魔力の問題はクリアだよね。王族二人分の魔力だもの」

 それからふと考えるように顎を手に置く。

「お兄様に自白剤……犯罪だな」

 テオと共に慌てて止めようとする前に自らやめてくれた。良かった。

 あれ? だが、魔具を作ったということは。

「秘密の部屋を探すのはなしになったのですか?」

 昨日もしていた。さすがに一日で魔具を作ったわけではないだろう。そう考えて聞けば二人が笑う。

「まさか。それだったらもっと早めに伝えるよ。お兄様に聞いたら自分達の部屋は関係ないけどやめないほうがいい、って微妙な顔をされたんだ。魔具が関係なくても何かあるってことらしい」

 ……? よく分からないなあ。

(良かった。楽しみだ)

 テオは何故かほっとしたような笑顔だった。回るだけなのに何が楽しみなんだ?

 魔力の少ない私はもうくたくたである。正直なしになってほしかった。お義父様、知っているならもっと詳しいアドバイスをください。

「だからメリッサ達は引き続き探して。私はあれらを何とか借りられないか手段を探ってみるよ。魔具が見つかればそれを調べて消す方法が分かるはずだからね」

 はい、と首肯するほかなかった。




 *   *   *




 早速この部屋を調べることにする。テオとアレッシオ叔父様はソファーに座ったまま国宝を借りる術を話し合っていた。

 ラウラが持つ地図によると魔術師団の建物の中で最も改装されているそうだ。

「東の中で一番古い部屋なの。魔術師団がない昔は騎士団が東と西に分かれていたみたい。魔法を使えば改装しやすいから結構めちゃくちゃ」

 アレッシオ叔父様が調べた時点で意味不明な扉やら箱やら地下通路やらいろいろ出てきたらしい。

 昔の秘密主義だった名残か。

 ここは天井も高い。

「それ……全部調べるの?」

「ううん、七百年間の中で増改築したってことだから調べるのはシンプルでいいと思う。まずは絶対七百年前に作られた絵画かな」

 始まりの王太子の肖像画か。

 ……改めて見ても大きい。人間三人分くらいの高さだ。どうやって描いたのか。

「もし魔具がこの中にあるなら、それに触ればいいとか……」

 え? 空を飛ばないとできませんが? 宙に浮く魔法はあれど、王族でない私には厳しい。

「大丈夫、魔具があるから! たくさん持って来たよ!」

 びっと親指を立てられた。

「ぁ……ありがとう」

 この絵画だけでも何時間かかるのか。諦めてまずは、と目の前の絵に右手で触ってみた。


 うーん。さすがに王太子に触れてもいないただの背景では何もないか。

 途端

「きゃああああ!」

 というラウラの叫び声が響く。何だ、と振り返ればラウラは顔面蒼白で私のほうを見ていた。

 もう一度手を見ると……え?

 手首まで絵の中に埋まっている。

 固まった。

「メリッサ! メリッサ!」

 腰に回されたラウラの腕ではっと我に返る。

「っ……!」

 な、何これ。引っ張り出そうとしても取れない。

 それどころかどんどん内側に取り込まれていて二の腕まで行きそうだ。もう一方の手で絵を押しのけようとしたらそれもするりと何の抵抗もなく絵の中に入っていった。

「え」

「メリッサ!」

 テオも慌てて私の腕を持つものの彼も一緒に絵の中に入っていく。

「メリッサ! テオ殿下!」

 ラウラの悲鳴が聞こえたがどうすることもできないまま私達は絵に取り込まれた。

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