明日はどうなる
も……もう無理。
予定分を終えて魔力が枯渇した私は近くのベンチに座り込む。
ここ最近王城に行く回数は多かったが良かったことと言えばテオやラウラにいつも以上に会えたことだけ。
「大丈夫?」
「何とか……」
「私はもう慣れたけどメリッサはこういう実験初めてだものね。お疲れさま」
隣に座ったラウラに微かにありがとう、と返事をした。
「メリッサでもないとなると、王城に謎の亜空間はないってことなのかな~」
地図を見ながらラウラが顎に手を当て考えている。まだ全てを終えたわけではないとはいえ、残りは僅かだ。
「明日は本命候補の魔術師団の団長室と王太子の部屋だものね。メリッサ、今日はたっぷり休んで明日に備えてね」
ラウラは元気である。私は首を縦に振るだけで精一杯だった。
体力や魔力を回復する飲み物を使用しながらだったけれど精神的にもつらい。これに慣れているラウラ達が怖い。
私はともかくラウラ達は他にもいろいろ仕事があるのだからすごい。それなのにこれに時間を取られているとは、やはり早く解決したいものだ。
明日に期待しよう。
「――メリッサ」
え?
帰るのは少し休んでからにしようと思っていたら聞きなじみのある声がして顔を上げる。
「テオ殿下、何でここに?」
ラウラのほうが質問してくれた。ここは北の王族居住地。今までいたのは王太子妃の部屋。といっても現在は家具も何もない空き室だ。掃除されていて綺麗だったが思いの外広いため時間がかかった。
寝室にある扉は王太子の寝室と繋がっているらしい。現在は鍵がかかっているので触れたのはドアノブまで。
……結婚すれば、毎日のようにあの扉が使われると想像して複雑な気分になったのにその原因が目の前にいる。
「今日も来ているとカルロに聞いていたんだ。大丈夫か? 無茶はしないでくれ」(大丈夫か? 疲れていそうだ。心配だ)
「はい。お仕事はいいのですか?」
「早く終わらせてカルロに許可をもらった。ラウラ、この後予定がないならメリッサは私が譲り受けて構わないか?」
「えっと、確かに予定は終わったけど……」
テオから私へ視線を移す。私はラウラに軽く頷いた。
「大丈夫よ。ラウラ、ありがとう。お仕事がんばって」
ラウラを見送る。テオの頭の文字は(羨ましい)と出ていた。一体何がだ。
(私もお仕事がんばってとか言われたい。結婚したら毎日言ってほしい)
はあ、なるほど。ラウラの代わりに隣に座ったテオは私の視線に気付きはっとする。
「別に結婚前でも望まれれば言いますが」
「……よ、よろしく頼む」(あああ、私は何て欲深いんだ)
これくらいで欲深いとか……貴方が今まで頭の文字で出したことに比べれば全然である。言うのはよしてあげよう。
「明日は貴方の部屋ですね」
魔術師団団長の部屋の後行く予定だ。
「あ、ああ……」(あ、明日は私の寝室にメリッサが……い、いつも以上の掃除を頼もう。私の理性は大丈夫だろうか)
「ラウラも一緒ですよ?」
この前も行ったのに。あれは寝起きだったからなしになっている?
「――! わ、分かっている、何もしない!」(わああああ、文字が! ……私の理性のためにも二人きりでなくてよかった。いや、でももし……)
テオがいきなり首を横に激しく振る。その後何故か自身の頬を両手で叩き始めた。
「わああああ! さっきのはなしで!!」(わああああ!)
「はい? あの、ほっぺ赤くなりますよ」
文字まで騒いでいるから続きが分からないけれど同時にハートマークも出ている。複雑な感情のようだ。
とりあえず手を取った。
「やめてください」
王太子が腫れた頬でいては皆が何事かと疑う。
力で敵うはずもないがテオはぴたりと止まった。またハートマークが溢れてくる。
「っ……あの、抱き、寄せてもいいだろうか」(文字が見えないように)
突然のことにはあ、と生返事をしてしまうも手を離すと抱きしめられた。私室でないため周りに警備の者がいることは忘れてしまっているらしい。
警備の人々はそっと目を逸らす。屋敷のほうの警備だからいいのかな?
「あの、だな……もし、の話だが」
「はい」
「その……もし明日も大した成果がないなら……疑似でもいいから、結婚式をしてみない、か」
小声でぼそぼそとした話し方だから恐らく聞こえているのは私だけ。
結婚式?
「一番可能性があるのに私の我侭でやめていたものだ。ドレスも完全にできあがっていないし装飾品もあまりつけられないがやってみる価値はあると思う」
少し考えてからこくりと首を縦に動かした。
「いいですね。楽しみにしています」
「っ……て、手配、する」
周りがハートだらけである。気恥ずかしいものの、いやではない。
私が背中に腕を伸ばせばぴくりと動揺したが離れなかった。むしろ回された腕の力が強くなった。
王城は温度調節をしている。それでも、夏でもくっついていたいと思うなんて、どうかしている。
「しょ、初夜は我慢する、から」
仮の結婚式でしようとするほうが不思議ですが。
「しないんですか?」
「っ~~!」
わざと言ってみると声にならない叫び声が聞こえた。
体がとても温かく見えた耳は真っ赤だった。面白い人である。
「……そ、それは……」
……ん? こんなに近くにいるのに続きが聞き取れなかった。そして聞いても教えてもらえなかった。
何を言っていたのだろう?
その後は馬車まで送ってくれた。その時は誰もいないからと「好きだ」と言われながらキスされる。したかったらしい。
ペナルティなんて欠片も残っていないというのに。
果たして明日はどうなるのか。
* * *
テオと共にやってきた魔術師団団長の部屋にラウラはいなかった。アレッシオ叔父様から少し用があって遅れていると伝えられる。
それだけ伝えると何かを考えているようで上の空だ。珍しい。集中している時も笑っている人なのに。
ラウラがいないならチャンスだとバルドとのことに関して聞いてみることにした。
「ん? バルド?」
私の声に反応する辺り、集中していたわけではなかったらしい。
この前のラウラとの会話を話し終えると困った顔で苦笑する。
「うーん、ラウラに自覚させるのは難しいかな」
「そうなのですか?」
「私直接言ったことがあるんだよ。バルドが好きなんじゃないか、って。けんもほろろだった。それどころか私が頭おかしくなったって心配されちゃった」
「ぇ……」
直接言ってもダメだったのか。ではどうすれば、と悩んでいるとアレッシオ叔父様の笑みが深まる。
「バルドはバルドで何もリアクションしていなかったんだけどまさか遠回しに求婚するとは思わなかったよ。ラウラは結婚してから恋愛するくらいがちょうどいいのかもね」
くつくつと楽しそうに笑う。そういえば面白がっていると言っていた。
しかしアレッシオ叔父様の笑いはこちらへ向かう。
「二人の功績だよね」
「はい?」(私達?)
テオが返事するとうんうんと頷く。
「あれ、気付いてなかった? 王太子夫妻となる二人が仲良くなって王城でラブラブ具合を見せるから周りがいいなって感化されているんだよ。お兄様達の時もそうだった。二人が結婚する年は国民の結婚率が上がったんだ」
テオと顔を見合わせる。
いいことだと思うのだが、何か、恥ずかしいような。
頭の文字も(嬉しい)と(恥ずかしい)の二つが漂っていた。
バルドが求婚の前私を一瞬見たのはもしかしてそういうこと?
「歴代の王太子全ての結婚ではなかったから文字は関係ないんだろうけどね~」
どこまでも魔法を考えてからっと告げるアレッシオ叔父様、強い。




