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自覚しましょう

 お腹を摩りながらラウラの部屋に向かう。

 魔具の補正があってもやはりダメだ。小さいのだから上手く誤魔化して残す方法を考えよう。

 申し訳ないがいくつかテオに食べてもらった。

 私がスプーンで彼のお皿に移すと

(食べさせてくれないのか)

 と残念がった文字が現れた。

 この前パニックになって今朝気絶した人とは思えない。

 お昼も共にしたいと言われたし、案外欲望に忠実である。

 それなのに今度は夜遅くにキスしようかと提案したら

「む、むむむ無理だ」(我慢できない!)

 と拒否された。一体全体どこまでが許容範囲なのか。分かりにくい人である。


 ラウラの部屋に着きノックしようとする前にガチャリと扉が開いた。

「待ってたよ~! 早速行こうか!」

「すごい偶然ね」

「偶然じゃないよ。テオ殿下からテレパシー来たもの。そっちに向かったけど無理させるな、って」

 扉の前で待機していたのだと告げられる。納得していたらんふふ、と口に手を当てながらにやけた。

「自分はキスして有頂天なのにね~。面白いよね~」

「何で知ってるの?」

「わざわざ報告してきたの。キスが私の差し金だと思ったみたい」

 違うのにね、と言いながらぷくくと笑っている。

 ……あの人、他にもいろいろと報告してないよな?

「安心していいよ、他のことはあまり聞いてないから。二人が文字に関して怠けてるとは思ってないしね」

 扉を閉めると意気揚々と地図を広げ次の場所へ向かうことになった。


 ラウラはどこまでも察しがいい。

 何故自身の恋愛事に関してだけああだったのか。謎だ。

 本当は朝ごはんの時にバルドについて聞こうと思ったのだが王族居住地なら人が少ないから構わないだろうか。

「……ねえ、ラウラ」

「なあに?」

「バルドのことだけど……」

「んん? 何、あの人メリッサに何か言ったの?」

 地図から顔を上げこちらを向くといやな顔をする。とても好きな相手とは思えない。

「彼は別に。ただ、結婚のことだからアレッシオ叔父様はどんな反応をしたのかと気になって」

「お父様? 何か面白がってたー。どっちでもいいよ、続報待ってる、だって。一人娘のことなのに他人事~」

 ああ、やはり面白がったか。あの人もラウラがバルドを好きかもしれないという可能性に気付いているはずだから否定することはないか。

 ラウラは不満そうに持っている地図をバサバサと揺らす。

「後、自分とよく似てる、って言ってたな~。何が似てるんだろうね? もう! 仲がいいね、って言われちゃったんだよ。仲良くないっていうの!」

「……でも結婚するのよね?」

「そうよ。けれど私絶対お嫁には行かないからね!」

 ふん、と鼻を鳴らす。問題はそこではない。どうすればラウラは自覚するのか。

「うんと……ラウラは好きな相手との結婚じゃなくていいの?」

「いいわよ。お父様達は恋愛結婚がいいって言うけど、私恋愛なんて分からないもの。誰でもいいわ。バルドは魔力少ないけど頭がいいから結婚相手の条件としていいと思うの」

「条件で選ぶの?」

「うん。エディみたいに自分の好みの人を探していたらいつまでも独身だろうし」

 ラウラの好みの人? それがバルドに当てはまるのではないか。早速聞いてみたところ「魔力が高い人」と言われてしまった。それに該当するのは……。

「あ、テオ殿下やエディは従兄弟だからなしだよ! 心配しないで!」

 私に配慮してくれたみたいだが、今心配しているのはそこではない。

 えーと。

「他には?」

「他? んー、頭がいい人がいいかな」

「……バルドが当てはまるわね」

「そうだね。でも他がね~。外見好みじゃないし~」

「私もテオの外見は好みじゃなかったわ」

「あはは、そうだったね。でもメリッサはテオ殿下が自分を好きなところを確信して好きになったんでしょ? 絆されたとも言う」

「え」

 私そういうところで好きになったの?

「趣味悪いなあ、って思ってたけどあれからテオ殿下素直になって愛情をきちんと表に出すようになったものね。変わってよかったね」

 安心させるように微笑まれたが……私の好みがおかしいことを再認識した。

 何それ。まるで誰でもいいみたいな。ショックである。


「メリッサ? ごめん、言わないほうが良かった?」

 それには首を横に振りながら指定された場所に魔法を使う。

 何もなかった。

「うーん、ここも違うのか。次行こっか~」

 てくてくとラウラが歩き出す。

 そうだ、どちらにしても私は運命の相手なのだから好み関係なく結婚するのだ。気を取り直そう。

「ラウラ。その、ラウラは条件だとしてもバルドは違うんじゃないかしら? 彼はラウラが好きかもしれないわよ」

 まだその話題が続いていたのかとばかりに片眉をつり上げる。

「さあ? 彼が私に求めるのが条件だろうと恋愛だろうとどうでもいいわ」

 ええー。

 私はテオから告白されて自覚したので同じことをすれば、と考えていたのにまさかそう返されるとは。

 バルドが可哀想に思えてきた。

 エディもなかなか大変だが、ラウラも大変だ。私には荷が重い。


「……文字が出る魔法がラウラにも出ればいいのに」

 無意識のうちにぽつりと呟いた。

 しかし本当に、そのほうが自覚させるのに手っ取り早いのではないか。もし魔具が見つかったら真っ先にラウラやエディにできないか試してみたい。

「あはは、そうだね!」

 とラウラにも同意された。バルドに出る可能性は考えていないようだ。


 私に対し明るい笑顔を向けるラウラ。

 テオから暴言を吐かれていた時、彼女だけは常に私の味方だった。無愛想な私に昔からいつも朗らかな笑みを見せてくれていた。

 願わくは、彼女には私以上に幸せな結婚生活を送ってほしい。

 自覚したほうが幸せだと思うのは私がそうだからだ。

 せっかく両想いなのに、と考えてしまうのは私のエゴだろうか。




 *   *   *




 ソファーにぐったりと沈む。つ、疲れた。

 ラウラのためにもとやる気が出たのに結局何もなかった。本当に何もなかった。

 そりゃあまだ全部を見て回ったわけではないが、いっそのこと始めの王太子に会って何をどうしたのかと問いかけたい。

 神様にお祈りしたことが叶ったのならそれはそれでどこかに書いておいてほしい。


 今いるのはテオの部屋。お昼になるためラウラと一旦別れた。

 テオは書類の処理に時間がかかって遅れるとテレパシーが来て女官が紅茶を置いてくれた。現在は一人。

 正直、眠い。

 朝が早かったから欠伸が止まらない。

 兄の怒っている顔が頭の中に浮かんだものの、ごめんなさい。少しだけ、と私は目を瞑った。


「メリッサ、遅くなってすまな……メリッサ?」

 ドアが開く音がしてテオの声が近付いてくる。意外と早かったな、と思いつつ瞼を閉じたままでいると肩を揺さぶられた。

「メリッサ、起きてくれ。その……この状態は……」

 この状態は何だ。ああ、我慢できない、だっけ。

 覚醒しているが、どうせなら。

「……物語でよく、王子様のキスで目覚めるという場面があります。それが条件かもしれません。どうぞ」

「へっ?」

 すごく間抜けな声がした。言っている顔を見てみたかったが我慢だ。

 すでに起きている時点で試すも何もないけれど、ラウラとのほうで何も進展がなかったのだ。少々からかうくらい許してほしい。

 後、ほんのちょっとだけ眠い。


 私の肩に置かれた手が小刻みに震えている。迷っているのか。

 お昼の時間も決められているからあまり迷惑をかけないほうがいいかと思っていたら唇に柔らかい感触がした。

 瞳を開ければ、思ったよりも近くにいた真っ赤な王子様とばちっと目が合う。

「……お、は、よ、う」

 ぎぎぎ、と音がしそうなほどぎこちなく視線が逸らされる。

 ……それを惜しいと思ってしまう程度には、私はこの人が好きだと自覚している。

 趣味が悪くても、絆された、でもいい。

 ただ、誰でも良くはない。

 ゆっくりと起き上がる。

「おはようございます。……おかえりなさい、会いたかったです」

「……っ!」

 ぶわりとハートマークが出てきた。

「た、たたた、ただ、いま!」(幸せだ!)

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