声に気付く
二人は仲がいいの? 悪いの?
バルドは私に頭を下げるとそのまま先へ行ってしまった。
ラウラは言ってやった、と満足そうに手を腰に当てている。
「ああ、ごめんねメリッサ。続きをしましょう」
「……大丈夫?」
あんな簡単に結婚の約束(?)をして。
というか、どちらにしても結論は同じ、よね?
怒涛の出来事で口を挟む隙がなかったが……本当にライバル?
ラウラからは生意気な人、と聞いていたけれどむしろ外見はいかにも真面目そうな好青年だった。
「もちろん。私が団長になるから大丈夫よ!」
安心して、と言われるが……ごめんなさい、全てにおいて意味不明だ。
けれど一応「応援してるわ」と返しておいた。ありがとう、と笑みを浮かべるラウラはやはり可愛い。
それと、アレッシオ叔父様が言った相手がバルドなのは理解した。
ラウラは無自覚だからだと思うけど、好意のある人へ厳しいのは血筋か何か?
アレッシオ叔父様に質問することが別のことになってしまった。ラウラから先ほどの出来事を話すのだろうか。
あの人は大笑いしそうだ。
* * *
思ったより長くかかって疲れた。
そしてこれだけ時間をかけたのに何も進展がないということが精神的にきつい。
帰って休みたい気分であるが、テオとの約束があるため昨日の言葉の通り執務室へ向かうことにした。
兄にも許可を得ている。私がラウラの研究の実験台になることは幾度となくあったから大して疑問は持たれなかった。
真ん中のホールに着くとこちらに向かって手を振りながら小走りで近付いてくる人物がいた。
「あれ? メリッサ、久しぶり~」
エディ。用事を聞けば私と同じく執務室に行く予定だそうだ。手に書類を持っていた。
「あれからきちんと仕事しているの?」
お茶会の後のストレス解消をなくしたら全然会わなくなった。昔はよく王城の庭園で遊んだものだが成人して職を持つと関わりがなくなってくる。
「……騎士団員の仕事は鍛練だと思うんだ」
そっと視線を逸らした。していないわけか。
「副団長のウーゴが可哀想ね」
「いやいや、ウーゴは書類作成も得意なんだよ。得意な人に任せるほうがいいと思う」
「だったら団長を交代したら?」
「周りがそれを許してくれると思う?」
肩を竦める。王子という身分は大変だ。
「まあ僕はこれでも兄さんより身軽な立場だけどね。だから、せめて結婚相手くらい好きな相手とで良かったと思うんだ。今は両想いだし?」
……ん? 自分の話かと思ったらいつの間にテオの話に?
まあ、彼がずっとテオの味方だったことは知っているからいい。大好きな鍛練をやめてでも私のストレス解消を担ってくれたのもテオのためである。兄弟仲がいいことで。
「貴方も両想いの相手が現れるといいわね」
「んー、メリッサの場合は身分も文字もクリアしてるからいいけど、僕の場合はどうかな~。正直あまり希望は抱いてないよ。僕恋愛なんて分からないし」
頭の後ろで腕を組む。彼は昔から恋愛事になると興味がなさそうな顔をする。
しかしここまでずっと興味がないなら意外と将来大恋愛をするかもしれない。お義父様もお義母様に会うまでそうだったらしい。
それと。
「苦手だからって回避していいということではないわよね? 話題を逸らすのもどうかと思うわ」
「あ、気付いちゃった?」
ぺろ、と舌を出す。
「これでも前よりはしているんだよ~」
どうだか。
そういえば、彼はラウラとバルドに関しては知っているのか?
聞いてみた。
「ああうん、そうなんじゃないかな、とは思ってた。ラウラはバルドにだけやけにつっかかるんだよね。同い年で実力があるからかもしれないけれど兄さんに似てるなあ、って。バルドは素直だよ。でもラウラは素直に受け取ってないみたい。恋愛面はリータ叔母様に似たんじゃない?」
テオは誰に似たんだ。ああ、先祖の始まりの王太子か。
ついさっきあったことを話すと
「え、何そのアレッシオ叔父様が大笑いしそうな案件」
と言いながら自身も笑っていた。
「ラウラ無自覚なの? それで?」
「好意があるようには見えなかったわ」
「へえ~。王族の恋愛って変なの多いんだね。でも好きな人の声にはどんなに集中していても反応する、ってすごいね。やっぱり僕にはまだまだだな~」
ははは、と笑いながら手を振っている。
変、ね。テオを含めて言われたのには複雑な気分だ。
「どこかに強くて毎日鍛練に付き合ってくれる女性いないかな~」
……ああ、すでに彼の好みはおかしかった。
* * *
執務室がある南にはほとんど行ったことがない。
場所は教えてもらっていたが結構複雑なルートのため大人しくエディに付いていった。
ノックもエディにしてもらう。
「はい、どうぞ」
兄の声だ。エディが扉を開けて先に通してくれる。持っている書類から顔を上げた兄と目が合った。
「何だ、お前ら二人で来たのか?」
「たまたま会ってね~」
そのまま書類を兄の机の上に置く。兄はいやそうな顔をした。
「おいこら、せめてテオのところに置け」
「だって兄さん集中しているみたいだし~」
兄の斜め向かいを見れば自身の机に向かい黙々と書類を処理しているテオがいる。
兄の机よりも大きい分置かれている紙の束も数倍はあった。文字も難しい言葉が並べられている。
私達が来たことにまったく気付いていない。
むむっ。
「お前に昼会う時なんかはいつもこうだぞ。すげえ集中力だよな」
感心しているようで息を吐く。兄のことだから私への説明の意味もあると思う。
エディが私を見てにまにま笑った。
「ねえねえ、試しにやってみない?」
「は? 何をだ?」
私の代わりに兄が疑問を投げかける。エディは私が話したラウラ達の話をした。
「……何だそれ。俺避難していてもいいか?」
「カルロ、仕事はしないと」
「お前が言うな」
二人を放って私はじっとテオを見つめる。
試したいという気持ちはあるものの、何もなかったらショックだ。正直今の段階でも気分は良くない。
……それでも。
「…………テオ」
「ん? あ、メリッサ!」(メリッサだ。会えて嬉しい! 気付かなかった、いつからいたんだ?)
顔を上げて視線が合うなりイスから立ち上がった彼に目を瞬かせる。
私からの反応がないことを訝しがり机を回って私のところへ来ようとした。
「メリッサ? どうした?」(……? 何かあったのか? 私何かしてしまったか? はっ、私が気付かなかったのが悪かったか!?)
…………。
「好きです」
「へあ!?」(いきなり何だ!? 嬉しい!!)
嬉しいのは私のほうです。
私に近付いてきた彼の肩にぽすんと頭を置いた。震え上がりながらも私の背中に自然と手が回される。
「え? え、え……わ、わ、わ、私も、好き、だ」
どもった言葉が笑えた。私もそっと彼の裾に手を伸ばす。
「少し疲れたので、癒してください」
「へ? あ、あ、ああ」
きっと今頃彼の頭の中ははてなマークだらけに違いない。
なるほど。ラウラのほうはともかく、バルドがいきなり結婚を言い出したことには納得した。これはいい気分だ。
またいつかしてみたい、と密かに考える私に対し兄は引いていた。
「やっぱり避難すべきだった」
「兄さん、もしかして僕のことまだ気付いてない?」




