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ラウラの相手

 テオに思ったよりも抵抗されたが、早速明日から私とラウラで魔術師団を歩き回ることになった。

(私がメリッサと一緒にいたかったのに。仕事を終わらせれば合流できるか。しかし明日回る予定は魔術師団だ。いくら王太子である私でも許可なしでは……)

 ホールへ向かう帰り道でも顎に手を置きいろいろ考えている。私との手は繋がれたまま。

 無視されていると感じないのは、時折顔を上げて私を見つめてくるからだ。

(ああ、やはり明日も会いたい。どうにかできないものか)

 きゅ、と手に力が込められる。

(しかしただでさえ探索に魔力を使うのにメリッサにテレパシーを使わせるわけには……)

「――テオ。提案があるのですが」

「え?」

 私が話しだすと顎から手が離れる。

「もし良ければ、明日魔術師団でのことが済んだら貴方がいる執務室にお邪魔してもいいですか?」

 テオは忙しい。ならば私から会いに行けばいいだけの話だ。

「い、いいのか? 疲れていると思うが……」(嬉しい!)

 気にかける台詞とは裏腹に文字は喜んでいる。ハートマークがぽんと出た。

「はい。私も貴方に会いたいです」

「……っ」(も、とは)

 顔を耳まで紅潮させると私の手を両手で取った。

「わ、私も、会いたい」(文字に甘えるな。口にしろ)

 テオの決意まで文字にして現れるから多少気まずいものの、やはり音として耳に入ってくることは嬉しい。


「メリッサ。す……す、す、好き、だ」(あああ、またスムーズに言えなかった!)

 今度の文字は青。さっきと真逆の反応。失礼である。

「私も、好きです」

 手を握る力を強めれば顔も文字も赤に変わった。

 意外に、いつまで経っても初心だなあ。

 テオの顔をまじまじと眺める。

「……っ。あ、あの、キス、したく、なるの、だが」(可愛い)

「むしろしてほしいのですが」

(……私鼻血出てないよな?)

 心なしか少し顔を上にあげていた。はあ、出ていません。

「今ペナルティ2.5ですよ」

「――!」(そ、そうだった。しかしペナルティのためにするのはやはり……それに嫉妬でペナルティを増やすのは可愛い。減らすのが惜しくなってきた)

 えええー。何かおかしなことを考えている。

 もう。

「キスする時間帯が関係あるのかもしれません」

 文字のため、と少々可愛くないことを言って目を瞑る。顔が近付いてくるかと思ったらその前に抱き寄せられた。頬を手で包まれ、唇に柔らかい感触が来る。

「っ……文字のためじゃなくても、いつだって、したい。メリッサ、好きだ」

 目を開けてみれば見えたのは全身を真っ赤にしたテオだった。温かい。

「ペナルティのためじゃない。私が、したい」

 もう一度唇が降りてくる。

 告白の時からそうだが、この人一旦素直になると結構止まらない。

「明日、会えるのを楽しみに待っている」

 顔を近付けたまま吐息混じりに言われる。唇にかかる息にこちらが震えた。


 テオと別れ馬車に乗り、少しだけ引っかかったアレッシオ叔父様の言葉を思い出す。

 彼はラウラも一人しか見ていないと言っていた。

 誰のことだろう。

 あんなに研究好きなラウラに私が知らないいい人がいたなんて。ラウラはエディと同じくまだ恋愛に興味がないのだと思っていた。

 さらりと言っていたがまったく見当がつかない。私が知っている男性ではないのか。

 幸いにも明日ラウラと二人きりで会う。その時に聞こう。




 *   *   *




「……? 何言ってるの? 私は今研究が一番だよ」

 あれ?

 思ったよりあっけらかんと否定されてしまった。

「お父様ったら。私の恋人は研究ってことかな?」

 そういう感じではなかった。ラウラはもしかして無自覚?

 では相手は誰なのか。後でアレッシオ叔父様にでも聞いてみよう。


「メリッサ、今度はここお願い」

 ええ、と返事をして壁に向かい魔力を使う。鍵のロックを外す魔法だが何も起きない。

 測定した中で壁が厚いところを重点的にしているらしくラウラは作成した地図とにらめっこしている。

 現在誰かが仕事で使用している部屋は入れないため歩いては魔法、歩いては魔法だ。魔法を使う必要がない可能性も考えて私の片手は常に壁にタッチ。よくもまあこんな地道な作業を隅々までできたものである。

「ん~と……次は……」

 ぶつぶつと呟きながらラウラが歩いて行く。私が後を追おうとすると突然見えない壁に阻まれた。

 バリアの魔法だ。私は許可をもらっていないから一つ一つラウラに解いてもらわなければならないのだが集中していて気付いていない。

「ラウラ」

 集中しているラウラには無意味だと分かっていても名前を呼んでみる。当然返事はない。

 どうしよう、と迷っていると私の後ろからこつこつと足音がして人が近付く気配がした。


「――ラウラ」


「ん? 何?」

 ラウラが振り返る。

 ……ラウラが名前を呼ばれただけで顔を上げるなんて珍しい。私はいつも肩を叩いたりしないと気付いてもらえなかった。昔から一緒にいるのに何だか悔しい。

 私も振り返ればぺこりと軽く挨拶される。

「メリッサ様が困っていらっしゃいます。メリッサ様、お久しぶりです」

「ええ、久しぶり」

 といっても、パーティーで何回か挨拶したくらいで親しい相手ではない。

 確か名前はバルド。トルッツィ侯爵家の一人息子で、ラウラと同い年のはずだから私の一つ下。

 彼は魔術師団に所属しているが魔力がほぼない。しかし魔具のアイディアを出した数がすごく、ラウラとどちらが次期団長になるかと噂されるほどの人物だ。


「ああっ! ごめんなさいメリッサ」

 慌てながらこちらに戻ってくる前にバルドが手に持った魔具でバリアを解いてくれた。

 魔具があったのか。ラウラは魔法を使っていた。

「どうぞ」

「ありがとう」

 ラウラが不服とばかりに眉を顰める。この反応も珍しい。

「むー。何の用? 私は忙しいの」

「俺もこちらに用があるだけです。地図を見たまま歩いているのは危ないですよ」

「私はドジじゃないから大丈夫よ」

 ツン、とそっぽを向いた。ラウラから今まで聞いた話によるとあまり仲が良さそうに思えなかったからこの状況はまずいのか。二人はライバル的存在だ。

 バルドのほうは淡々としている。

「一人なら構いませんが、メリッサ様がいる時はやめたほうがいいと思います。何をしているのか分かりませんがメリッサ様をお一人にするほど集中するのはいかがなものかと」

「むむぅ。分かってるわよ。それから、敬語やめてって言ってるでしょ! 同い年なんだから!」

「身分があります」

「あー、もう! うるさいなあ!」

 地団駄を踏む様子は……正直言って可愛い。ラウラは怒っているみたいだが幼子が拗ねているようにしか見えない。雰囲気も別段悪くない。何というか、親し気だ。

「将来の団長の座は譲らないんだから!」

 きっと睨みつけているものの、上目遣いで大した威力はない。

 私がラウラ贔屓なだけではないと思う。バルドの目尻が少し下がる。

「いえ、目指していません。俺は副団長として貴女のサポートができれば十分です」

「なー! ムカつくのー! 嘘つき! 向上心がないならあんなにたくさんの魔具を開発できるはずないじゃない!」

 手足をじたばたと動かしていて可愛いなあ、とつい頭を撫でてしまった。ぴたりとやんで私を見つめるとむくれるのも愛らしい。


「もう、メリッサったら。バルド、私が団長になったら副団長にもしてあげないんだからね!」

「それは困りますね」

 ラウラがあっかんべーと舌を出す。テオには辛辣だったがこうやってムキになるラウラを見るのは初めてだ。

「じゃあ団長を目指してみなさいよ」

 バルドは何故か私を一瞬見る。

「……。では、ラウラ。もし俺が団長となったらご褒美をくださいませんか」

「何よ?」

「貴女を妻にしてもよろしいですか」

 ……え。

「いや!」

 即答するラウラに呆気に取られるが、え? バルドは今何と?

「団長を奪われた上に妻になるなんて絶対にいや! 私にいいことないじゃない!」

 びしっとバルドを指差す。

「私が団長になったあかつきには婿養子に来てもらうわよ!」

 ……ん?

 訳が分からないまま二人を交互に見る私に構わずバルドは小さく笑った。

「では、それで。俺も一人息子なので婿養子はいやですから」

「ええ!」

 二人は満足そうに笑い合っているけど、えっと、何これ?

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