もやもやする
あれからテオはよく「好きだ」と言うようになった。
文字では見ていたが耳に入る音が加わると違うものに感じる。こそばゆい。
あの日自室に入った途端部屋中にハートマークが溢れていて何事かと思った。
その後も言えた、と躍っている文字を見てペナルティのことを忘れていたと知った。思い出したにも関わらずあれ以来ハグとキスはない。ペナルティを減らすためだと思われたくないかららしい。別にいいのに。
言う時は未だつっかえている。本人はスムーズに言うことが目標のようだ。
毎回言ってくるためさすがにそこまでは、と告げてみたものの
「父も祖父も素直だったし、わ、私から言った数が条件なのかもしれない」(言いたい)
と押し切られてしまった。しかもラウラ達の前で。
「そうだね、可能性があることはどんどん試してみてよ」
二人も肯定的だ。テオを連れての魔具探索も成果が出なかったらしい。
「もっと情報があればいいのにね。特にお母様が私に話してくれない」
信用ないのかな? と笑いながらアレッシオ叔父様が軽く言っている。それに答えられる人はいない。話題を変えよう。
「城の全てを探したのですか?」
「と、は言えないかな。部外者立入禁止で行けないところはあるよ。理由が言えないものだから許可は当然下りない」
地図を広げながら言う。線が切れて書かれていないところがあったからそこだろう。主に騎士団だ。
ただ、とアレッシオ叔父様が続ける。
「始まりの王太子が魔術師で概ねの外観は変わってないとするとあり得るのは東のここか北の王族居住地なんだよね。私が団長だから東は隅々まで探索できた。となると、後可能性が高いのは王族居住地で行けない場所」
地図から顔を上げてにっこり、と笑顔を作る。
「残るのはお兄様とお義姉様の私室、だね」
……はい? テオを見つめればそっと視線を逸らされた。王と王妃の部屋、だと?
「いやあ、さすがに行きづらいよね~。あの二人なら許可してくれると思うけど、それでもね」
頭の後ろに手を置く。口調は困っている風なのに表情は相変わらず楽しそうだ。
「警備にも何と言っていいのやら」
「警備なら近衛団ですからエディに言えばいいと思います」
「おお、メリッサは乗り気だね。じゃあ私の代わりに行ってくれる?」
それはいやだ。恐れ多い。首を横に振った。
「だよね。テオにも嫌がられちゃった。本人に探してもらう、というのもありだけど二人とも忙しいからお願いする時間も取れなくて。あー、でもやだなあ」
だんだん苦笑いになってきた。紅茶を啜る。さすがのアレッシオ叔父様でも王の私室に入るのはいやらしい。
「後ね、条件がメリッサなんじゃないかな、って思うの」
ふとラウラが口を開いた。
私がどうしたのかと首を傾げて続きを促す。
「秘密の部屋に入る条件。よくよく考えればテオ殿下の場合生まれた時からここにいるから間違って開けてしまうこともあるんだよね。それを思うと、メリッサが訪れる場所はテオ殿下の部屋とか少ないでしょ?」
私、か。その可能性は確かにある。しかしテオ達と違い公爵令嬢に過ぎない私が王城中を歩き回るのは憚られる。
「お父様が言ったけど条件的にここか王族居住地のどちらかだと思う。だからあまり気にしないでできると思うんだけど、いいかな?」
お願いするように手を合わせる。ラウラがそこまで下手に出なくても、私が拒否するわけないのに。私は彼らに比べれば仕事などないに等しい。時間はたっぷりある。
「もちろんいいわよ」
了承したらぱっと顔が華やいだ。やはりラウラには笑顔が似合う。
「わ、私も一緒に行く」(ラウラと二人きりだなんて)
ん? これは嫉妬だろうか。
ただ私はテオ達と違い魔力に関して懸念がある。そこは数回に分けて調べることとなった。
テオもそうしたとのことなのでそこまで気を張る必要はないと言われる。
「日時も関係あるかもしれないから結構時間かかると思う。テオ殿下と二人だけで調べてもらう時もあるかも」
「別に私はそれでいいが」(アレッシオ叔父上と二人きりにさせるのは避けたい)
んんん? テオが意外と嫉妬深いのは分かってきたが、範囲が分からない。既婚者のアレッシオ叔父様にまで? 私が気が多いと疑われているのか?
「王族居住地ならともかくここはテオ殿下の許可だけじゃ無理ですー」
ラウラが腕でバツ印を作るだけでなく舌を出す。同性でも可愛いなあ、と思う。横にいるテオの頭の上の文字は黒くなっていた。
(ラウラと二人きりにさせたくない)
それは効率を考えたら無理であろう。だからテオも口にしないのだ。
……あれ?
そもそも、テオはすでに調べ終えている。アレッシオ叔父様が忙しい時は当然ラウラと二人きりで調べたはずだ。
…………先程、確か国王夫妻以外の部屋は隅々まで調べたと言っていなかったか。
と、いうことは。
テオの私室も?
私が行ったことがない寝室も?
王太子妃の部屋も?
ラウラ個人の部屋も?
………………もやもやする。
アレッシオ叔父様は私の考えが分かったかのように私と目を合わせて含みのある笑みを見せた。
「いやあごめんね、私忙しくて。まあでもこの二人なら大丈夫だよ、それぞれ一人しか見てないからさ」
……え?
人知れず戸惑う私をよそにテオが私とアレッシオ叔父様を交互に見つめる。どうやらあれだけで察したみたいだ。
「な、何もないぞ!」(あのラウラだぞ!)
どのラウラ?
私からすればラウラ以上に可愛い女性はいない。じ、とテオを見れば焦ったように手と顔を横に振っていた。
何かあるとは思っていないが、まるで何かある人の反応だ。
これで私が怒ると思っているのか。
ええ、怒りますが。
テオに手を伸ばして腕を組む。
「貴方は私のです」
胸を押し付ければぷしゅーと顔から湯気が出た。いつからびっくり人間に?
(あああああ。幸せだ!)
「ペナルティ1追加しますね」
「えええっ!?」(嫉妬してくれた)
顔は青いのに文字は喜んでいる。
「いやなら減らしてください」
(可愛い……)
感想違いません?
(メリッサが嫉妬してくれた。嬉しい)
私もテオの嫉妬を喜んでいるのにむっとしてしまう。
いや、私は嫉妬させようとは思っていない。……テオもそうか。うーん、人間の感情とは我侭だ。
「ほへー。メリッサが私に妬くなんて」
目を真ん丸にしてラウラが見てくる。可愛い。だがそれとこれは別。
いくら彼女でもダメなものはダメである。理屈でどうにかできるものではない。
……やはり私は面倒くさい。
聞いてみればそういった個人の部屋はテオだけ、あるいは三人で見回ったということだった。
「テオが嫌がったんだよ。私も嫁入り前の娘だけにするのは抵抗があったし。それに私嫉妬という感情には敏感だからさ」
「だから安心してね、メリッサ」
ウインクされたり微笑まれたり、居た堪れない。
ペナルティはやりすぎたかもしれない。
横を見ればまだにやけている。ハートマークまで出ていた。空気を読んでくださいよ。
(幸せだ。私もがんばろう)
不思議に思っていると手が繋がれた。私と目を合わせるとふわりと優しく笑う。
ああ、もう。これだけで気分が良くなるのだから、恋心とは厄介なものだ。




