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いっぱいしましょう(後半カルロ視点)

「うーん、教会でキスも違ったのか」

 アレッシオ叔父様が顎に手を当てる。

「まさか本格的な結婚式をしないといけないとか? これだけ考えているのにそれは勘弁してほしいな~」

 独り言のようだがテオは身震いしていた。

(それは、それはやめてください神様!)

 両手を合わせて祈っている。テオの中では未だ神様からの呪いが有力らしい。

 ラウラは何やら疲れた様子だった。魔具が隠されているかもしれない秘密の部屋を連日連夜探していたそうだ。見つけられなかったと涙目で告げられた。

「もう、全然。全っ然見つけられないの。魔具じゃないなら何なの~?」

 疲れたと言いながらコーヒーを飲んでいる。カフェイン中毒にならないか心配だ。

「本当、降参だよね。二人のいちゃいちゃに賭けるしかないよ」

 あはは、と笑うアレッシオ叔父様に「諦めないでください」とテオが苦い顔をする。

「秘密の部屋に入る条件も何かあるのかもしれません。今度私を連れて行ってください」(条件が結婚式も初夜も断る。何としてもその前になくす!)

 気合いが入っている。それほどいやか。

「そうだね、その可能性も高いもんね。ぜひお願いするよ」

 アレッシオ叔父様はにこやかだった。この人、読めない。

 秘密の部屋に入る条件、ねえ。




 *   *   *




 魔術師団団長の部屋から私室に戻ってきたテオは額に手を当て俯きながらはあ、と溜め息をつく。

 今回も特に何の収穫もないことが堪えているらしい。普段の仕事に加えて何の資料もない未知のことを探るのだ、心労は半端ないだろう。

 私にできることといえば。

 ソファーでテオから離れた私に顔を上げ不思議そうに見つめてくる。私は自らの膝を叩いた。

「どうぞ。お疲れでしょう? お休みください」

「へ」(い、いい、のか……?)

 おろおろと何を躊躇しているのか。遅い。

「後5秒以内に来なければ二度としません。後ペナルティを追加します」

「えええ!?」(そんな!?)

 悲鳴を上げるとともに膝の上に来た。おやまあ素直な。

 耳まで真っ赤だが頭の上からハートマークが出ていた。顔も嬉しそうである。

(こ、こういうことでペナルティなのは何故だ? 私のヘタレがいやなのか?)

「そうですね」

(!!!!!)

 暗い文字に返事をすれば顔が青へと変わっていく。私の膝の上に寝そべりながら失礼だ。

 癒そうと思ったのだが、やはりそれよりも。


 屈んでちゅ、と頬にキスをした。別れの挨拶でいつもしていることなのに大げさにびくうっと派手な動作をして頬に手を当てながら起き上がる。

「メ、メメメメメイッア?」(な、何だ何だ何だ)

 呂律が回っていない。私はそんな名前じゃありませんよ。テオに近付き手が置かれていないほうの頬にまたキスを送る。

 声にならない叫びが聞こえた。テオと真正面で顔を見合わせる。

「お義母様達は結婚前まであまり接触しなかったそうです。ですから、文字をなくすためにも今度からいっぱい触りましょう」

「っ……っ……っ~~……!」(生き地獄!)

 言いたいことがあっても言葉に出ないらしい。地獄?

「いやですか?」

「いいいいいいやじゃない」(食べられない据え膳なだけだ)

 これには首を横に振った上できちんと答えた。据え膳、ねえ。別に私は嫌がっていない。

「テオが文字が見えるのがいやじゃなければいい話では?」

 目をぱちぱちと瞬かせる。

(え、これ私のせい? しかし消したいのは私だ)

「慣れていないから戸惑うのです。いっぱいしましょう」

 アレッシオ叔父様やラウラが調べられないことをするしかない。

 私がしたいだけ、と言えばそれまでのことだけど。

「っ……!」(父上達は結婚前はいちゃいちゃしていない。初夜にそんなにキスをしたのだろうか)

 あ、数は関係ないかもしれないと気付いてしまった。それでも。

「テオはキスしたくないんですか?」

(したい!)

 声よりも文字のほうが早い。

「し、したい……」(メリッサがいやならばヘタレをなくさなければ)

 小声で呟いた。

 ……本当は、そういう情けないところも嫌いではない。今いちゃいちゃするには邪魔なだけ。


 では、とテオの手をはがして私の手で両頬を包む。

「違うところにキスなのかもしれません。頬はしましたから他をしましょう」

「へえっ!?」(!?!?!?)

「動かないでくださいね」

 まずは、と顔を近付けようとすると手をその間に出される。

「ま、待て! す、全ての人がそうするとは思えない!」(そんなことをされたら理性が持たん!)

「かもしれません。私はしたいです」

 そのままちゅ、と手の平に口づけると慌てて引っ込まれた。

(!!!!!!!)

 そして固まる。固まってると知りませんよ~。

 心の中で忠告してまず額に唇を落とす。眉間と眉尻、目尻、こめかみにした。

「目を瞑ってくれませんか?」

「………………」

 反応がない。あれ、呼吸している?

「テオ?」

 私が呼んだ名前に反応し目を見開くと手が腰に回されて抱きしめられた。

 顔を上げて名前を再度呼ぼうとした私の唇は彼ので塞がれる。

 角度を変えて何度も重なってくるので何も言えない。手をどこに置いたらいいか分からない。何だ、一体何があった。戸惑っていると唇を吸われた。

 びっくりして目を開ければばちりと目が合う。まさかずっと開けていた?

「ぁ、ち、違う、その、あの……!」(まだしたい)

 顔が離れる。何が違うのか。文字は正直だ。肩に手を置き、また目を閉じた。

「っ……」

 戸惑う声が聞こえたもののほどなくして唇を寄せてくる。

 キスしている時間や種類も関係するかもしれない、と心の中で言い訳を述べながら甘噛みしてみると体がびくついた。

 自分がされたら驚くのか。ただ今回は体を離さなかった。


 しばらくキスしているとぴく、とテオが動く。唇を離しても私を抱き寄せたまま耳を塞いだ。テレパシーか。呼吸を整えつつ仕事の時間が来たのだと分かる。

 部屋中がハートマークだらけだった。これには慣れなくて目を瞑る。

(ああ、文字がなければ)

 閉じる前見えた言葉の後ろは見ていないフリをした。

 しかし。好き、とは言ってくれないんですね。それともペナルティのことは忘れてしまったのだろうか。




 ******




 いつもはにやけながら帰ってくるテオが今日はぼーっとしていた。ぼーっとしているように見えて仕事の手はいつも以上に動いている。

 そもそもメリッサとお昼を共にできる時はなるべく早く行こうと通常の倍のスピードで処理していて、長くいるために午後の分もしていることが多い。これ、もう明日の分までやってるんじゃないか?

 お茶会でも別れのキスをしているからいちゃいちゃにも慣れたかと思ったらそうではないらしい。今日はいつも以上にメリッサと何かいいことがあったのだろう。

 兄としてはそういった類のことは知りたくない。けれども噂は自然耳に入ってくる。

 彼らが人前でもいちゃつくせいだ。

 俺の前では一応いちゃいちゃしないように気を付けているつもりだそうだが、お互い目を合わせてにこりと微笑んでるんだからまったくだ。しかも無意識。

 メリッサ。お前が笑うって珍しいんだぞ。口の端を上げるだけの微笑でも滅多にないのに、あれがいちゃいちゃじゃなかったら何なんだ。

 妹はいつテオを好きになったんだ。お茶会の時、俺のこと視界に入ってんのか? 兄ちゃん泣くぞ。


 それにしても、テオはぽけーっとしていることが多くなった気がする。もちろん他の奴らがいる前ではびしっとしているけれど執務室では気を緩めている。

 約一年前まで落ち込んでいた奴がこうも変わるとは。メリッサに何のきっかけがあったんだ。

 こんな奴と二人きりで大丈夫なのか。

「…………テオ。お前、過ちは犯すなよ」

「で、できない!」

 ……? できない?

 瞬時に反応したのはさすがとして、しない、じゃなく?

 メリッサが何か言ってんのかな? 結婚まではしない、と。

 いや、あいつはウェルカムだった。無自覚の時からそうだったからタチが悪い。

 じゃあテオのほうが我慢してるのか。

「じゃあまあ、そのままがんばれ」

「このままはいやだ!」

 はあ? いきなり叫んで、さっきから何だこいつ。

「ぁ……すまん。話せないことなんだ」

 今度は何故か謝られた。本当、何言ってるんだ?

 結婚するんだから仲がいいのはいいことだと思う。けれどバカップルにはならないでほしい。

 アレッシオ殿下達と団長室で話していることもあるし、きっと何かあるんだろう。そうに違いない。そうであってほしい。

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