見つめましょう
翌日会うことになったのはテオの私室。
独身の私の誕生日は今日が最後。テオの誕生日が結婚記念日となる予定だ。
元々は私の誕生日が過ぎた後だったが一日でも早く、とテオが変更したらしい。ちゃっかりしている。
部屋に入れば今までで一番の数の風船が飾られていた。魔法を存分に駆使して四方八方に風船が漂っている。歩くと邪魔にならないよう風船が避けてくれた。
ソファーに座っても風船を眺め続けている私を見つめるテオの瞳は温かい。
「誕生日、おめでとう。気に入ってくれたか?」(どうだろう)
その言葉にはもちろん肯定の返事をした。
「ありがとうございます。ずっとここにいたいです」
テオの顔が赤に染まる。
(メ、メリッサがずっとここに……。い、いてほしい。ああ、どうしてそうじゃないんだ)
今度は暗くなった。この人、案外表情豊かだな。心の声がないと百面相する変な人にも見える。
結婚式の準備のため一年前くらいから王城へ行くことが多くなる。お義母様の場合は他国ということもあって王城で生活していたらしい。私は近くに屋敷がありそれをするつもりはないのでそのことだろう。
(毎日会えないのか……)
がっくりきているテオが面白い。
「一年後にはずっと一緒なのですからいいではないですか」
実家の家族との団欒を優先しても構わないはずだ。結婚したら滅多に実家に帰ることができないに違いない。
テオの手に手を重ねると、顔を上げた時は明るくなっていた。
(ず、ずっと一緒……つまり……)
文字がピンク色で動いていく。…………本当に、むっつりスケベだなあ。
「そういう意味ではありません」
「――!」(ち、違……わないことはないが)
顔までピンクになった。赤くなったり青くなったり忙しい人だ。
素晴らしい空間の中でお昼ご飯を食べ、食べ終えるとテオがどこからか箱を取り出してきた。わざわざ魔法で隠す意味はよく分からないけれどこれくらい魔法を使うのが日常になっていることはすごい。さすが王族の魔力の量は桁違いだ。
箱を開けて出てきたのはピアス。紫色の石の小さな物。
受け取った箱をそのままテオに見せる。
「今年もつけてくださいますか?」
了承してピアスを取り出したテオは箱を両手で持ったままじーっと彼を見る私を見て戸惑う声を出した。
「…………メリッサ、その、横を向いてくれないか」(あれ?)
「つけづらいですか?」
「いや……」(え、このまま?)
今はお互い斜めに座って顔を見合わせている。私が視線を向けているとだんだんテオの顔が真っ赤になっていった。
「め、目を瞑ってくれないか?」(やりづらい)
「私が目を瞑らないとできませんか? 耳ですよ?」
貴方は私の目が好きなのだから瞑ったらもったいないのでは?
「見つめられたいんですよね?」
「っ……!」(き、緊張する)
口に出していないから見なかったことにする。瞬きせず視線で催促した。
しばらくするとぎくしゃくとテオの手が動いていく。
ふっ、勝った。この時ばかりは感情が表に出ない自分に感謝だ。
喚いている文字は置いておいて、テオの目を注視する。綺麗なアーモンド型だ。左右対称でどちらも二重。
兄や父のような切れ長のつり目が好みだがこれはこれでいいかな。この人外見のコンプレックスあるのだろうか。
まあ今は何やら形容しがたい複雑な表情をしている。端に見える腕も真っ赤で湯気まで出てきた。手はぶるぶると震えていたけれど何とか無事につけられたみたいだ。そっと腕が離れていった。
「どうですか?」
立ち上がって移動すれば鏡があるもののそれは後で見るとして、まずは感想を聞いてみる。
「に、に、似合う……」(み、見つめられたいと願ったけれど、見つめられ続けるともう何が何だか……)
「ありがとうございます」
こういう時は笑えたらいいのに。テオは限界なのか俯いていた。
(可愛い……!)
あ、これは見なかったことにしよう。
さて、鏡を見に行くかとテオから視線を外した途端腕を掴まれる。視線を元に戻せば手どころか全身を震わせながらも頑張って顔を上げていた。何かに耐えるように唇を引き結んでいる。もう一方の手が肩にかかる。
頭の文字を見て目を閉じると柔らかい感触が降りてきた。
目を開けると思ったよりもまだ顔が近い。そしてハートマークがぶわりと周りに広がっていく。
「っ……もう、一回」(キスしたい)
了承の合図の代わりにまた目を閉じた。さすがに目を開けたままは私も慣れない。
掴まれていた腕が離され、背中へと回った。テオとの距離が近付き再度口が塞がれる。は、と吐息がかかり離れたと思ったら抱き寄せられた。
おお、温かい。とてもいい湯たんぽだ。
なのに私が背中へそっと手を回そうとすると少々背中に指先が触れただけで勢い良くばっと離れていった。
…………ん?
「あ、す、すまない」(わ、私は何てことを)
何故謝る? 婚約者がハグするのが悪いことだと? ペナルティを増やそうか。
未だ赤い顔のテオは部屋の中にある姿見へ視線を移す。……ああ、私が立ち上がろうとしたのを邪魔したと思っているのか。鏡などいつでも見られるというのに。
「ど、どうぞ、見てきてくれ」(ピアスを見たいだろう)
テオが体を動かし私から遠ざかる。
…………それは、気遣いではない。
「テオ。寒いです」
私が口を開くと慌てた様子で周りを見渡した。
「え? あ、す、すまない。魔法で部屋の温度を上げ……」(寒かったのか。いつからだ?)
むう。前のことを忘れたのか。私は寒がりなのです。
テオに向かって両腕を伸ばした。
「私は前みたいに貴方の温もりのほうがいいです」
(!!!!!)
目を見開いて固まる。そのまま動かない。
「……いやでしたか?」
(幸せだった)
文字で即答された。では、と腕を広げたままテオを待つ。
「温めてください」
テオの頭がぼんっと爆発した。ぎくしゃくと私に近付き、カタカタとちょっとずつ身を寄せてくる。
この部屋に来た時はいつもハグしていた。慣れたかと思いきや、どうやらまだのようだ。
(あああああ、幸せだ。あれ? 今日ってメリッサの誕生日だよな? 私の誕生日並みに幸せだ)
えー、昨日だけですか?
キスもハグもしている。後は、いちゃいちゃといえば。
「あ、膝枕します?」
「っ~~!」
おお、また温かくなった。ぽかぽかだ。初心な彼のために一度したことがあるものを言ってみたのに。
これ以上だと風邪か? 知恵熱でも出されたら困る。膝枕は次の機会にしよう。
そう伝えてもテオからの返事はなかった。
うーん。ご飯も食べたし、温もりに包まれているとだんだん眠くなってしまう。目を瞑り体重を預けてみれば焦ったように体を揺すられた。
「眠らないでくれ。カルロに怒られる」
兄は一体どんな雷を落としたのか。
仕事もある。残念だ。
(それに私の理性が持たない)
おやまあ、可哀想に。文字がなくなるといいですね。
顔を上げてテオと目を合わせる。少しのけぞった。失礼だ。
「私が寒がりなこと、覚えておいてくださいね」
「……はい」(絶対に忘れません)
ん? 何故敬語? 幸せな赤色だからいいか。




