一目惚れ?
テオを見つめると引き続きにこにこ笑ってハートマークを出してくる。
私は今も笑っているのか?
「後、メリッサにこの前言われたこと調べてきたよ」
「ありがとう」
テレパシーと文字の魔力のことだ。
あの後テオに聞いても分からないと言われた。文字の場合は魔力を出していることにすら気付けないほどだったから少ないのでは、とのことだった。
「えっとね、テレパシーの使いすぎで倒れた人は王族でもいるみたい。でも王太子が文字の使いすぎで倒れたことがあったなら今のテオ殿下と同じく文字をなくそうと奮闘するはずで、今までそれをした形跡がなかったからそこまで魔力を消費しないのかも、ってのがお父様の考え」
テレパシーの魔力消費がすごすぎるのかと聞けば王族にとってそんなことはないらしい。
「王太子の魔力量もすごいんだろうけど、やっぱり魔具か何かのサポートがある可能性が高いね、って」
「会っている時間が短いからでは?」(もっとメリッサに会いたい)
え。この人まだ足りないのか。
「んー、一年前には王城に来る婚約者もいるのに? ジャンルカ伯父様の場合は一年間どころかディアナ伯母様に初めて会ってから暇さえあれば会いに行ってたらしいよ。テオ殿下だって結構メリッサと会ってるでしょ?」
「足りない」(足りない)
それにはさすがのラウラもぽかんとした。
「はあ……。まあそれは二人の問題だとして、お父様が探しても見つけられない秘密の部屋とかに魔具が隠されてるかも、だってさ」
「そう、か」(秘密の部屋……そんなものが王城にあるのか)
「王城の設計図はないんですか?」
「増改築を繰り返してるから完璧なものはないみたい。魔法で亜空間を作った可能性もあるね」
質問してみるとラウラが答えてくれた。テオも首肯する。
「お父様も探したみたいだけど、もう一度探してみるつもり。あー……と、そろそろ戻ったほうがいいかも」
ラウラが私達の後ろを見てぽり、と頬を掻く。
彼女と話すために一旦兄とエディから離れていた。そろそろ二人が訝しがるか。
「じゃあテオ殿下、お誕生日おめでとうございます。はい、これ」
ラウラはどこから取り出したのか持っていた箱をテオに渡した。魔法?
「このままいるとダンスしなくちゃいけなくなるから避難するね。じゃ!」
そう言うなり手を上げ出口のほうへ向かう。本当に文字のためだけに来たのか。
「あ、そうそう。やっぱりテオ殿下みたいに素直になりたいって神様に縋った、ということはなかったみたい」
去り際に思い出したようでさらっと伝えられる。それはまあ、想定していた。テオは微妙な顔をした。
「あれ? ラウラの奴いなくなったのか? 何しに来たんだあいつ?」
「嘘、ラウラがいればダンスしない口実ができると思ったのにー」
兄は普通に不思議がっていたが文字について知るエディはラウラが来た目的を察したらしく別のことで嫌がっていた。
忙しくてプレゼントを手渡しに来ただけだとテオが説明していたけれど、ラウラは去年もパーティーに来ていなかったからその説明は苦しい。
「アレッシオ叔父様に呼ばれたみたい」
とテレパシーを使った言い訳をしたらそちらのほうが納得された。
兄はまだ聞きたそうだったものの、そろそろダンスの時間になる。テオが私をエスコートしながらエディに告げる。
「お前もそろそろ逃げてばかりじゃなく相手を探せ」(いつまでも婚約問題から逃げられると思うな)
「えー……。兄さん自分の問題が解決したからって僕に振らないでよ~」
「解決していない」(後一年で文字をなくさなければどうなることか!)
最後はぼそっと小声になっていた。エディはそれでも不服とばかりに口を尖らせる。
「そもそも兄さんもお父様も一目惚れでしょ~? だったら僕がどこかの誰かに一目惚れするまで待っててよ」
「あ、エディ……」(バカ)
………………一目、惚れ?
テオ、が?
思わずテオをじっと見つめる。どういうことだ? 私達は政略結婚ではないのか?
「ぁ……いや……」(え、えーと、えーと)
「え? メリッサ知らなかったの? そうだよ、兄さんが一目惚れして両親にどうしても、って言って無理矢理婚約したんだよ」
「エディ!?」(わあああああ!)
テオが焦っている。
まあ、薄々感付いてはいた。この文字の魔法があるのに運命の相手かどうか分からない私を幼い頃から婚約者としたのだ。テオが私を望んだ可能性は高い。
しかし。
「一目惚れした私に暴言を吐き続けていたんですか?」
しかも初めての会話は「おい、ブス」である。私がムカついて反撃したのは当然のことだ。
好みでなかったので彼の容姿をこてんぱんに貶した。だからこそ彼が私に暴言を吐いても無理矢理婚約させられた上に初めて会った時のことがあったからだと思っていたのに。
「ぁ……えっと……す、すまない……」(ああああ~……ほ、本当に昔の私はダメダメだ)
分かりやすく打ちひしがれる。私と繋いでいないほうの手で頭を抱えていた。
昔から無愛想な私に一目惚れできた不可思議は置いておいて、よくもまあ十年以上治らなかったものだ。
文字が見えても私が何も伝えなかったらどうなっていたのか。久しぶりにムカムカしてきた。
(ペ、ペナルティか)
大きい青い文字。
正直、過去のテオは今も嫌いだ。本心でなくとも暴言を許すつもりはない。
だが過去は過去、だ。
昔を考えればアップルパイを出された時が一番最悪最低だった。
大きな溜め息をつくとテオがビクつく。
「ほ、本当にすまない……」(あああ、戻れるものなら過去に戻って一からやり直したい)
今のテオは謝ることができる。私の前で情けない顔をして、周りに見られているのも気にしない。
私は過去に戻りたいとは思わない。
テオの手をきゅっと握りしめた。
「過去のことはもういいです。過去に行けるわけではないのですから。さあ、ダンスを踊りに行きましょう。貴方は今日の主役です。その顔はおやめください」
素直になってほしいと思っているが国外の者も大勢いる中でその顔はまずい。
それに、私は彼の青い文字は好きではない。これならハートマークが飛び交う恥ずかしい人のほうがマシだ。
「私は今の貴方が好きです。どうか、笑ってください」
自然な笑顔のほうがいい。ラウラが私に言って魔具を作らなかったことにも納得がいく。
「メリッサ……」(確かにそうだ。過去に行けるわけではない。挽回するために私は今をがんばらなければ)
一旦真剣な顔に直すと今度は私を見つめて笑みをこぼした。
(今、私の隣にいてくれる彼女を大切にしよう。二度とあんなことするものか)
そうそう、その意気ですよ。視線だけで返事をしてダンスの場所へ向かった。
「僕の問題うやむやになった? 良かった」
「お前、もうちょっとであの二人危なかったのに何安心してるんだよ。俺は時々お前が怖い」




