お茶会以外でも会いましょう
「お茶会の、週一を、やめてもいいだろうか」(前々から考えていた、どうだ)
いつも通りお茶会でバルーンアートについてテオと話していたらそんなことを告げられた。
前々から、と言われても。よく分からない。
「お茶会をやめるのですか?」
そう聞けば間髪入れず否定される。
「ち、違う!」(そんなのいやだ!)
ではどういうことだ? 後ろにいる兄も怪訝な顔をしていた。
テオは躊躇うように口を何度か開閉した後、小さな声でそっと呟く。
「も、もっと……お茶会がなくとも、メリッサに会いたい。週一では、足りない」(もっと会いたい)
私が表情豊かな人間だったら顔が赤くなっているのだろうが残念ながら変わらなかったと思う。
お茶会の頻度を増やすかと思いきやそうではないらしい。だが、彼は王太子だ。このお茶会の時間も結構頑張って作ったもののはず。
「忙しいのでは……」
「じ、時間は作る。お茶会ほど取れるかどうか分からないが、何とか作ってみせる」(メリッサともっと会いたい!)
私に対しては頬を赤らめていたけれど兄を振り返る時の顔は真面目だった。
「カルロ。メリッサが執務室に入ることに許可は出るか?」(執務室はどうだ?)
「は? 許可って、出せる立場にいるのはお前だろ。……って、え? 執務室?」
「ダメか?」(ダメか?)
「いや、お前がきちんと仕事するならいいけど……いちゃいちゃはするなよ」
「しない!」(お前の前だぞ!)
顔を真っ赤にして兄に叫んでいる。私はびっくりして呆然とした。あ、兄の前でいちゃいちゃしたことはないのに。……ない、よな?
テオはほぼ執務室にいるから場所としてはいいと思うものの、さすがにそこに長い間お邪魔するのは気が引ける。私のせいで仕事が滞ってしまったらいやだし、彼の仕事姿を見るのは楽しそうだがそれだけでは退屈だ。
かといって執務室以外でテオが無理せず会える場所となると。できれば兄や他の人間がおらずテオと二人きりになれる場所がいい。
……一つ、行ってみたい場所がある。
「テオの部屋はどうですか?」
「へぁ?」(私の部屋?)
「ダメですか? 昼食くらいなら一緒に、とか……」
「え。お、お昼一緒にしてくれるのか!?」(やった! メリッサと! 食事!)
文字が躍っている。周りに音符まで出てきた。初めて見る。えーと、楽しそうなら何よりです。
テオが兄に確認したところ毎日は無理だがお茶会の準備をしない分時間が作れるそうだ。
お昼を食べながら仕事することもあるらしい。大変だ。
「まあお前の私室だから……好きにしろ、としか言えないな」
若干納得していない顔だったが了承してもらえた。だからもう寝ないと何度も言っているのに。
しかし当日の連絡はどうやって? 手紙?
「私が魔法で送ってもいいか? 一方的ならメリッサの魔力を使う必要はない」
テレパシーと言って脳内で会話できる魔法があると説明された。試しに使われる。テオが片耳を手で塞ぐ。
『聞こえるか?』
テオは口を開けていなかったのにどこからか声がした。
「はい」
「今のがテレパシーだ。距離や時間によって魔力を大量消費するからあまり知れ渡っていない」(むしろ場合によっては非効率だ)
「まあ手紙のほうが効率いいもんな」
テオの頭の文字と同じことを兄が言葉にする。
そういう魔法があったのか。テオが初めて嫉妬する表情を見せた時エディと連絡していたというのはこれか。
魔力の消費が大きいと言われたが、頭の文字と比べたらどうなのか。
テオに聞いてみたかったけれどここには兄がいるから聞けない。ラウラに話すか、テオの私室へ行くようになったらテオ自身に聞いてみよう。
テオにこちらに来てくれ、と言われ隣に座る。そして手を出すように言われた。
「私が先にいない場合がある」(待たせるのは申し訳ない)
もしそうなら部屋に入って待っていてほしいと合鍵を渡された。胸の内ポケットから出したから魔法を使ったのだろう。
手に渡された物がずっしりと重く感じる。
盗難などがあったらと思うと怖い。ラウラ達に頼み、魔術師団と同じく魔法で開けられるようにしてもらおう。
そう伝えながら返すと了承したくせに悲しそうな顔をされた。
いやいや、怖いですって。
「万が一でも私以外が貴方の私室に入るのはいやです」
「ぇ。……そ、そうか」(メリッサが妬いてくれた!)
今度は嬉しがった。私は妬いた、のか?
テオが嫉妬して嬉しがった私が言うのも何だが、嫉妬して喜ばれるのは複雑な気持ちになるなあ。
勝手に入っていていいのかと聞けば
「見られて困るものはない!」(ない!)
と豪語していたもののその後
(あ、メリッサが写っているアルバムがある)
気になることが文字で出た。じっと見つめると焦り始める。
「あ、いや、あの、アルバムはあるが、皆で一緒に撮ったものだけだ。断じて盗撮はしていない!」(カルロにもらったものはあるけれど)
弁明になっていなかった。
糾弾するのは兄だな。
テオも兄に意味が通るように発言していた。そして今の兄の顔を見れば私の発言は許される。
「お兄様?」
「い、いや、俺も盗撮はしてないぞ? うちのアルバムからお前が写っているのをいくつかおすそ分けしただけだ。お前が一人だけのはないからな、安心してくれ!」
両手を横に激しく振りながら必死に言い訳していた。まず本人の許可を得るべきである。そう告げれば謝ったのでまあ良しとしよう。
兄が少しだけ不思議がる。
「お前鋭くなったな」
ぎくりとした。感情が表に出ない体質で良かった。
……ん?
まるで私が鈍感だったような台詞だ。失礼じゃないか?
ちょっと兄の心の内も文字で見てみたくなった。
「あ、あの。できれば明日からでもいいか?」(明日ならそんなに仕事がないはずだ)
「はい、構いません」
首を縦に振る。そんなに仕事がない、というのはいつもと比較してのことだろう。明日のお昼に予定は入っていない。
事前にダメな日付を告げればテオからも多忙な日にちを言われた。圧倒的にテオのほうが多かった。
「では、そういうことで」
「ああ」(お茶会以外でもメリッサに会える。幸せだ)
向かいのソファーに戻ろうとしたら温かい瞳で見つめられる。うっ、立ちづらい。
「明日はあらかじめ部屋に風船を準備しておく」(部屋に風船があれば暇潰しになるはず)
「行きます。すぐ行きます。むしろずっといます!」
テオの両手を握った。前のめりになる。
「へ」(へ)
「こら!」
兄に怒られた。何故だ。
(私の部屋に風船があったらずっとメリッサがいる? くっ、カルロに反対されなければ……)
え。しないんですか。寂しい。暇潰しは必要ですよ!
テオの両手を強く握り直した。上手くできているかどうか分からないが上目遣いで見てみる。
「一つだけでもいいですから。ああいえ、膨らまさなくていいですから。お願いします」
「分かった」(分かった)
「テオ!」
兄がソファーに手を置きながらテオに何か言っていたがやったー! と私は喜んだ。多分顔には出ていない。
お昼の時間より前に行こう。風船を膨らまして遊んでテオを待っていよう。
「メリッサ、結婚前だぞ!」
「寝室に入るわけじゃないから大丈夫よ」
文字が見える段階ではテオが嫌がるから心配する必要はない。兄は知らないため仕方がないか。
私室がダメなら今まで通り廊下かホール、もしくはこれから兄の前でいちゃいちゃすることになるがいいかと告げたら兄が折れた。
妹のいちゃいちゃは見たくないらしい。確かに、私も兄のいちゃいちゃを目の前で見たいかと言われれば絶対見たくないと答える。
(ゆ、誘惑に負けないよう寝室に鍵をかけておこう)
テオは顔を真っ赤にしつつ真剣に考えていた。
(しかし本当に風船が好きなんだな。やはり王城中風船計画を……)
わくわく。
(いや、メリッサが王城の中を歩き回るのはいやだな。私の部屋にいてもらいたい。たくさん置いておこう)
わくわく!




