確認しましょう
今日はラウラとアレッシオ叔父様に会い文字について報告することになっている。テオはもとより二人も忙しい立場のため定期的に、というのは難しい。二人のうちどちらかだけということはあった。
私だけが行くことはテオに反対された。案外嫉妬深い人だ。アレッシオ叔父様も驚いていた。
どちらかと言えば問題はリータ叔母様ではないのか。お義母様曰くお義母様とアレッシオ叔父様が二人きりになることもアレッシオ叔父様をあだ名で呼ぶこともしないでほしいとお願いされたらしい。
質問してみたらにんまり笑いながら
「リータは嫉妬深くても甥や、姪になる人にまで妬かないよ。嫉妬したら嫉妬したで可愛いけどね」
と惚気られた。実の娘であるラウラが平然としている辺り、日常茶飯事のようだ。
ラブラブって難しい。やはり目標はほどほどだ。
場所はいつも魔術師団の団長室。壁も厚いがそれに加えて普段から防音の魔法を使っている。
この前テオにお願いした神様へのお祈りのことを話したらアレッシオ叔父様が大笑いした。
「あははっ、テオったらそんなこと考えてたんだね」
「うぐぐ……」(だからこの人に話すのはいやなのだ。何があっても笑う人だ)
まあ、いやな笑いではない。にこりと愛嬌のある笑顔を浮かべる。
「良かったじゃん、素直になれて。噂になってるよ、未来の王太子夫妻も仲が良くなって安心だって」
そういえば、応接室以外ということに気を遣って廊下やホールでキスしていた。はたから見ると恥ずかしい二人組だ。ほどほどとは。テオの文字は喜んでいた。
(そうか、周りからもそう見えるのか。以前は素直になったほうがいいとアドバイスされるばかりだった)
おや。テオも周囲からアドバイスされていたのか。私だけにしているものだとばかり思っていた。
「今のうちにラブラブだって周りに示したほうがいいよ。そうじゃないと結婚してからも側室だの何だのうるさいからね」
アレッシオ叔父様が本当に嫌そうに眉を顰める。恐らく自身も経験したことなのだろう。テオも真面目な顔で頷いた。
「可能性は低いと思うけど後でお兄様やお父様に聞いてみるね。構わないよね、テオ?」
語尾が小さくなったがお願いします、と軽く頭を下げていた。
ラウラが手を上げる。
「こっちも伝えたいことがあるの。二人が一番心配していたことだと思うけど、初めては関係ないらしいよ」
(よ、良かった。考えていたがそれだけは違ってほしかった)
テオは安心しているが私はいきなりの言葉に唖然とする。
あ、いや、心の文字はともかくテオは顔を紅潮させていた。
確かにそれは危惧していた。文字がなくなるためには、直前にしていたことが一番可能性がある。
つまり、初夜。
処女だの童貞だのそういうものが条件になる魔法も実際あるそうだ。物語でも読んだことがある。
私もテオも分かっていてそれを話題にすることはなかった。テオの希望と真っ向から対立してしまうからだ。
それにお義母様に初めてだったかと聞く勇気はさすがにない。かといってテオに聞いてほしいと願うのも酷だ。
「ラウラ、どうやって調べたの?」
「お父様にお願いされてお祖母様にいろいろ聞いた」
ラウラにとってのお祖母様、要するに前王妃。アレッシオ叔父様にはあまり話してくれなかったらしく、アレッシオ叔父様は他のことを調べるのに苦労したのだとか。
「消えたのがいつか知ってる、って言ったら簡単に教えてくれたよ。ディアナ伯母様は初夜が終わって朝起きたらなくなっていたけれど、お祖母様は明朝でも消えてなくて、ある時突然頭の上から消えたみたい。時間は覚えてないって」
「……お義母様にも聞きに行ったの?」
「うん」
まっすぐ頭を縦に振る。
テオとアレッシオ叔父様は身内のそういう話題に気まずそうにしている。私も当事者でないのに背中がむずむずする。
ち、違うということだけ分かればいい。詳しい話は聞かなかったことにしよう。
「分かってよかったね」
ラウラの曇りのない笑顔を見ると落ち着く。ラウラはすごい。
「私貴女を尊敬するわ」
持つべきものは王族と親戚関係にあり目標へ真っ直ぐ突き進める友だ。
ラウラはえへへ、と照れて頭を掻いている。可愛い。
(……妬く)
え、今更? 驚いてテオを見る。
エディにも妬いていないと思っていたら団長室に行かないでくれと言われたし、この人本当にやきもち焼きだなあ。
うーん、それを嬉しがる私よ。しかしラウラにまで妬くとは。
「可愛いと思ってほしいのですか?」
「いや、そうじゃない」(可愛いはちょっと……)
「かっこいいならもう思っていますよ」
「え」(!)
顔を真っ赤にしてにやけていた。ありがとう、と小声で感謝される。感謝されるようなことか?
「お祖母様達もラブラブだったみたい。出たハートマークの数にもよるのかもね。引き続きいちゃいちゃしたほうがいいと思うよ」
ラウラが私に密かにウインクする。文字を隠れ蓑にいちゃいちゃするつもりなことにまで気付いている。本当にすごい。
テオからはハートマークが出ていた。今も何個か分からないのだから数が条件になっていたらもう無理だ。
アレッシオ叔父様が腕を組んで視線を上にあげる。
「うーん。何かしたらすぐ消えるわけじゃなくて、タイムラグがあるのかもね。それとも順番が大事なのか」
ん……?
「結婚後初めて、が条件なのかもしれないよ」
「え……」(それは……)
要するに、初夜の可能性が完全になくなった、というわけではないらしい。
「まあそうじゃないことを祈るしかないよね。がんばれテオ」
(本当に、どうかそれだけはやめてください、神様)
アレッシオ叔父様の発言を聞く前に目を瞑って合掌している。真剣だ。
「タイムラグがあるとするなら有力なのは王族の結婚式から数時間後、だね」
優雅に紅茶を飲みながら発言される。それも考えたが……。
「ただ、それも前から考えていてね。王太子の結婚式だから何か特別なことをしていると思ったんだけど、調べても私が知らないことは何もなかったよ。私との違いは招待客が多いくらい。そこら辺テオ知らない? 王太子の結婚式だけにある特別なこと」
(特別なこと……特別なこと……)
視線をあちこちへ動かしていたが何も浮かばないらしい。
もしかして。文字について言えないのと同様、私達には言えないのかもしれない。
アレッシオ叔父様達も同じような思考らしく乾いた笑いが出た。
「本当、文献がないことといい大変だよ。初夜がいやだっていうのに結婚式しろとは言えないしねえ。というか王族の結婚式をそんな簡単に準備できないや」
通常一年近くかけて準備する。我が国は大国だから招待客もすごい。いくら何でも無理だ。
(早められるものなら早めたい……)
テオは口惜しそうに下唇を噛んでいた。そもそも、もうすぐ一年になる。テオの誕生日プレゼントを準備しなければ。




