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口にしましょう

 お茶会では兄が付き添うから文字について話すことはできない。いちゃいちゃも憚られる。

 その代わりというようにお茶会が終わるとテオは私を馬車まで送るようになった。風船もテオが魔法で運んでくれる。

 お茶会後エディに会うことはなくなった。好きな人に会うのにストレスはない。テオからも「行かないでくれ」と必死に言い募られた。文字は嫉妬の黒。それを嬉しがるところが私はダメだな。

 エディに告げたら嬉しそうだったのがムカついたので軽く叩いた。

「ち、違うって! 兄さんが両想いになれてよかったなって思ったんだよ!」

 本人は鍛練を増やせると喜んでいたがその時間は書類の整理に回すようテオから頼んでもらった。何故あの男が団長になれたのか不思議でしょうがない。


 そしてその道中は手を繋ぐことにした。始めは私からばかりだったが最近はテオが顔を真っ赤にしつつ手を握ってくる。これの震えがなくなるのはいつのことだろう。

「あの、風船を全て持って行っていいのですか?」

 日により量が様々だが全部持って行くのもどうかと遠慮していた。テオはぎこちなく頷く。

「構わない」(メリッサのために作ったのだから当然持って行ってくれていい。むしろ持って行ってもらいたい)

「口にしてください」

「…………メ、メリッサのためなのだから、い、家で大切にしてくれ」(大切にしてくれ)

 はい、と返事をする。バレても頭の上の文字のほうが長いとは。文字をなくそうとしなくても結婚後はなくなるのだから、たくさん言葉にしてもらおう。


 さて。私はいちゃいちゃ程度で文字がなくなるとは思っていない。アレッシオ叔父様達もいろいろやってみる中でまずは、という提案だった。

 いちゃいちゃは引き続き私のためにするとして、それ以外のことも考えよう。

 一番可能性が高いことは暗に分かっているものの、アレは確認しづらい。

「ところで、文字が見える前テオは何か特別なことがありましたか?」

 テオが考えるように顎に手を当てる。

「メリッサがお茶会を欠席した時……」(何かしたか? あまり覚えていない。カルロが付き添うのは初めてではなかった。いや、連続だったのはあの時が初めてか)

 兄に関係があるだろうか? とりあえず次のお茶会では付き添いをやめてもら……ん? そもそも歴代の王太子はお茶会を開いていたのか? 婚約者には兄がいたのか? お義母様にはいる。

 頭の上の文字がまた動く。

(そういえば、その前の週に神様に素直になりたいとお願いしたような……)

「え、していたんですか?」

 肖像画と似ていたし、やはり生まれ変わり? あの肖像画の王太子の相手はどんな人だったのかと気になった。

「あ、ああ……」(今思い出しても昔の私は最悪だ)

 握られている手に力が込められる。テオと視線を合わせたら青に近かった色が赤に変わっていった。

(今は幸せだ。文字に頼るのは情けない。素直になろう。もっと口にしよう、態度に出そう)

 ゆっくりと口角が上がる。それを見ていると私の心も温かくなる。

 私はテオと違い表情に出すことが難しいから、思っていることは何事も言葉で表そう。

「一応、お願いしてみますか?」

 文字をなくすようにと。

「ん?」(そんなことでなくなるだろうか)

 可能性は低いがやってもらった。手を合わせる等動作に関しては何もしなかったらしい。

(――神様。どうか文字を消してください)

 案の定何も変化はなかった。


 仮に、もしこれが本当に神様からのものだとすると。

「祈り具合が足りない可能性も……」

「そ、そうか?」(確かに切実な願いではあったが、そんなことでいいのか神様)

 場所が関係しているのかもしれない。だからお願いをしたという応接室と執務室、それからテオの私室でももう一度してもらうようお願いした。

 ただまあ、陛下――ジャンルカお義父様は終始素直だったそうなので願ったことがあるとは思えない。それでもすると約束する辺り、テオの文字をなくしたいという願いも切実だ。


「あの、私からも一つ確認したいことがあるのだが……」(今ならいいか?)

 再度歩き始めるとテオが躊躇いがちに言葉を放つ。

「ペ、ペナルティのことなのだが……まだ続くのか?」(恋人になれたのに。運命の相手なのに)

「ダメですか?」

「ダメ、ではないが……」(そう言われると答えづらい)

 元々暴言をやめてほしくて始めたこと。終わってもいいが味気ない。じ、と相手を見つめる。

「クイズもこのまましたいので、継続したいです」

「……」(10になると解消も継続……?)

 顔が青ざめている。ペナルティを増やさなければいいだけでは?

 今は確か2.5だったか。半端な数字だ。

「ペナルティが減る方法はないのか?」(聞いてみよう)

 おお。昔は心の中で思うだけだったのに口にするとは。勇気を出して言ってきたのだから考えるべきであろう。


 ……ふむ。決めた。

「では、テオが私を抱き寄せて好きと言いながらキスをしたらペナルティを一つなくしましょう」

「…………は?」(?)

 大きなはてなマークが見えた。

「どれか一つでもなかったらカウントしませんから」

(ハードルが高すぎる……!)

 えー、と不満を口に出せば顔を赤らめる。私の視線から逃れるようにそっぽを向いた。

(い、今は2.5だ。ペナルティを増やさないようにしよう)

 どうやらするつもりはないらしい。残念だ。

 文字のこともそうだが、私と会わないならペナルティが増えることもない。

「……私に会うのがいやになりましたか?」

「へ?」(何のことだ? 私は会いたいが?)

 心の底から不思議がっている。嫌がる人もいると言われたけれど、やはりこの人には言っても良かったのだ。

 私がぴたりと止まるとテオも一緒に止まる。どうした、と聞かれる前に彼に腕を伸ばした。相変わらずびくりと震える。顔を上げて唇を合わせた。

「好きです。……こういう風にしてくださいね」

「~~~~~っ……!」(!!!!!)

 笑顔で決められればもっと良かったが変わらなかったと思う。ただテオは顔も頭の上も真っ赤だった。


 馬車の場所が近くなるにつれて表情が暗くなる。素直になった途端赤くなったり青くなったり、忙しい人だ。

 別れのキスも継続することにした。解除条件が何回目かのキスの場合がある、という戯言で。

 だが、初めての時以外頬にされている。

 率直に言って不満だ。ペナルティを消すための行為をハードルが高いというなら低くしよう。

 テオから頰にキスされた後、人差し指を唇に当てた。

「テオ。口に、してください」

 頭が爆発した。あれ? これは文字か? 実際か? 分かりづらいなあ。

(メ、メリッサのデレが凄まじい……。果たして私の心臓は大丈夫か)

 初夜を迎えるつもりの人が何を考えているのだか。

(ああ、幸せだ)

 ……なら、いいか。

 王太子の幸せ度も関係しているのかもしれない、うん。

 私が瞳を閉じれば顔が近付いてきた。口づけの後はハートマークが頭の上からぽんぽん降る。

 満足して別れの挨拶をした。

(ああもう、週一なんて足りない。もっと会いたい)

「口にしてください」

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