整理しましょう
ハートのバルーンアートを愛でつつ次のお茶会を楽しみにしていたら、ラウラから会いたいという手紙が来た。何でも文字について話したいとのこと。
私からは話せなかったのに、一体何の話なのか。
早速魔術師団の団長室に行ってみればラウラとアレッシオ叔父様だけでなくテオもいた。ほんの数日ぶりでも会えて嬉しいと思う辺り、恋心とは厄介なものだ。
(メリッサ。会えて嬉しい。可愛い)
同じ気持ちだった。体が熱い。夏の暑さと違っていやなものではない。
テオのすぐ近くに座る。嬉しそうに頬を緩める彼と目を合わせた。
「メリッサって自覚するとこうなの?」
向かいのソファーでぽかんとするラウラの横でアレッシオ叔父様が笑い転げていた。
話を聞く。文字をなくしたい? ではやはりいやだったのか。テオを見ると慌てて口が開かれる。
「ち、違う。その後が問題なのだ」(文字はいい! 私はメリッサに会いたい!)
聞けば、初夜まで文字が出るそうな。
それは。
「面白そうですね」
「面白くない!」(私の心の中が全てメリッサに伝わってしまったら目も当てられない)
つい言ってしまったが具体的に想像してみる。この前のハートマークや花火のようなことが、寝室で。
……あ。いや、かも。そっと視線を逸らした。
「……遠慮しましょう、か」
「……ああ、頼む」
テオからも絞り出したような声がした。
「けれど結婚前になくなるものなのですか?」
「そこは実験しないと!」
ラウラ達が実験したいだけでは……。口にするのをやめた。
二人は元々この魔法について詳しく実験したかったらしくテオの提案は願ったり叶ったりだったそうな。
「とはいえなくなるかどうか分からないけどね。無理だった場合はずっと目を瞑っていればいいんじゃない?」
(メリッサがずっと目を瞑る? ……拒否されているとしか思えない。絶対いやだ)
そんな初夜は私もいやだ。文字が見える前の私ならそれでも良かったかもしれないが今は彼のいろいろな表情が見たいのだ。断る。
「じゃあがんばろっか!」
ラウラがぐっと両手に力を込めた。こういう気合いを入れる表情も仕草も彼女は可愛い。
従兄弟とはいえ、小柄で愛くるしい彼女のほうが異性にモテるはず。何故テオは私なのか。
しかしテオは冷めた瞳でラウラを見ていた。私と目が合うと笑みをこぼす。
(可愛い)
テオは目が悪いのか。
「テオはラウラを可愛いと思わないのですか?」
「……?」(ラウラのどこが可愛いんだ。メリッサのほうが可愛い)
視力は悪くないのに残念な人だ。あまり嬉しくない、と言ったことは忘れてしまったのか。私はラウラが好きで可愛いと思っているので喜べない。私とテオでは可愛い、の定義が違うらしい。
抗議の意味を込めて頭でつついてみる。何故か頭の上の文字はまた可愛い、であった。
向かいの二人は笑っていた。
アレッシオ叔父様の笑いが収まると話し出す。
「じゃあ早速。まずは私が調べたことの整理をさせて。口伝のみで受け継がれてきたことだからこれに関する書物はどこにもなかった。三親等でないラウラにどこまで言えるかも調べたいから彼女に同席してもらっている。言えないものはラウラ、耳を塞いでね」
「はい」
「文字の色は嬉しければ赤、悲しければ青、暗い気持ちに黒。真っ白になることもあるしハートマークが出ることもある。それ以外ある?」
ちらり、とテオの頭を見つめる。最近増えた色がある。
「ピンク、です。文字以外には黄色い光と花火が上がったことがあります」
「へえ。いろいろあるんだね。どんな時か詳しく教えてもらえる? あ、テオは聞くの恥ずかしければ耳を塞いでいいよ」
「いいえ」(私も聞きたい)
他はともかくピンクとハートマークは言いづらい。しかし文字をなくしたがっているのはテオだ。だから彼の顔が真っ赤に染まろうと話し続けた。アレッシオ叔父様は目の前の紙に記していく。
「なるほどね~。大きさも変わるんだ。お兄様もピンクでハートマークが多かったんだろうなあ~。くふふ、それは言えないか」
一頻り笑うとラウラを見る。彼女にもきちんと全て言うことができた。
「それにしても、結構緩いんだね。テオ…………」
ん? いきなりアレッシオ叔父様が口をぱくぱくと開閉する。ラウラが急いで耳を塞いだ。アレッシオ叔父様が呆然としている。
「アレッシオ叔父上?」(どうした?)
「テオの頭の上に文字、が言えなかった。ラウラが子どもの頃は言えた。決定的な言葉はダメなのか。……もしかして、テオの頭の上に出てから三親等が変わるのかな」
頭の上に心の内が文字にして出る。
それ以外は大丈夫だということ? ラウラが耳を外す。
「なるべく知る人がいないように、ってことかな。確かに文字だけなら意味が分からないものね、そんな魔法は聞いたことがないから。んー、実際見えるのも一人だけだから信じることもないか。王太子が使っている魔法とされているけれど一日中ということは相当な魔力が必要だ。他の人に真似できないように、が最有力かな」
「お父様やエディには出ないんですよね?」
「どうだろうね。聞いたことがないというだけ。確定しているのは王太子に出ることと20歳のいつからか、の二つだね」
「運命の相手、というのは?」
「それも確定していないよ。ただクオーレ国の王族は何代も離婚していないし側室もいない。まあ王族だから滅多に離婚できないか」
「しません!」(いやだ!)
まだ結婚もしていませんよ。大声で言うテオの裾を引っ張った。恥ずかしい人だ。
アレッシオ叔父様は書いた紙を見つめる。
「いろいろ不明なことはあるけれど、問題は運命の相手の女性だけに見えることと始まりが20歳であってもいつか分からないこと、かな」
「それだけなのですか?」
「うん。個人相手に、っていうのは難しくない。文字の色も大きさも膨大な魔力が必要だけど王族なら想定の範囲内。でも運命の相手、と神様にしか分からない人をターゲットにするのは難しいね。そんな魔具があったら儲かるさ」
儲かるとは、魔術師団団長らしい意見だ。テオが微妙な顔をしている。ラウラは瞳を輝かせていた。
「それと20歳の誕生日に、とか日付が決まっているならできるけれど歴代の王太子の共通点が20歳だけで時期がバラバラ……欠陥品?」
「魔具じゃないんですから……」(この人の頭は魔具ばかりか)
テオが呆れるもラウラはアレッシオ叔父様と同意見のようだ。
「テオ殿下、意外と侮れないんですよ、欠陥品って。思ってもみない効果が表れてすごく便利な魔具になったりするんです。偶然の産物ですね。今世の中に出ているものもたくさんありますよ」
そうなのか。
アレッシオ叔父様が苦笑する。
「そういう魔具かなと思って王城中探したんだけど見つからなかった。お兄様に聞いても分からないと首を横に振られてしまったよ」
私は神様からの呪いとしか思っていなかったがアレッシオ叔父様はいろいろ現実的に調べていたようだ。
神様からの呪いの場合解決方法を探すことは困難になるであろう。
「まあ作られたのが何百年前だから魔具だとしたらとっくに壊れてるはずだよ。当時の魔術師がすごいスキルの持ち主なら別だけれどね」
魔術師? 王太子、ではなかったか。聞くとアレッシオ叔父様はにこやかに頷いた。
「そう。がんばって調べたよ。七百年くらい前の国王で初代魔術師団団長。後ろにある肖像画に描かれている彼こそが始まりの王太子さ」
アレッシオ叔父様が後ろを親指で差す。部屋が広いからあまり気にならないが全身が映った巨大な肖像画が描かれていた。王太子でなく王についた時期のもののようで王冠を被りマントを羽織り、指にも腕にも首にもじゃらじゃらといろいろな装飾があった。
テオと、よく似ている気がする。彼の先祖とすれば当然のことだがそれでもエディ、お義父様、アレッシオ叔父様の中で一番似ていると思う。
王太子でありながら魔術師団団長とは、それほどこの方の魔力が高かったのか。
「彼が存命の頃魔法は王族だけが使える特権みたいなものだったらしい。だから秘密主義になってしまったのかもね。当時の彼に聞けば一番早いんだけどね~」
あはは、とアレッシオ叔父様が肖像画を見上げながら肩を揺らす。テオが恐る恐る手を上げた。
「……あの。要するに、文字をなくすために何をしたらいいのでしょうか?」(それが知りたい)
確かに。私達が知りたいのはそれだ。
アレッシオ叔父様とラウラはお互いの顔を見合わせるととてもいい笑顔でこちらを見てきた。
「とりあえず、いちゃいちゃしようか」
………………はい?




