目指すのは(後半テオ視点)
テオに心の声が頭の上に文字として現れることを告げた。
「文字が見えるとは本当か? そうだとしたら今まで私の気持ちが分かっていたということか? 一体いつからだ? メリッサは私の気持ちを知ってどう思っ……」
「うわあああああ!」(うわあああああ!)
信じてもらうために頭の上に見えた文字を口に出して言ってみたらテオの顔が真っ赤になり喚き声に変わる。
(信じる! 信じるから! もう言わないでくれ!)
「……きちんと言葉で言ってください」
「言わないでくれ!」
はい、と素直に返事した。
「い、いつからだ?」
「歴代の王太子が20歳になるといつからか現れるようです」
「20歳……。では、あの、あれか、婚約解消をしようとしたあの時に……!」(あの時からメリッサが変わった気がする!)
「その前、私がお茶会を欠席した時ですね」
「あの時から……!」(うわあ……)
くらりと倒れそうになる。気絶しないように踏ん張ったのはさすが王太子といったところか。
それからも運命の相手であることや三親等の王族以外には伝えられないことを話した。今知っているのが誰なのかも。
運命、と聞くとテオは顔を真っ赤にする。頑張って口元がにやけるのを我慢していたが残念ながらそれは意味がないのだ。
私が視線を頭の上に移すとはっとして頭の上に手を伸ばしたけれど文字は物理的に消えるものではない。隠そうとしても無駄である。私が首を横に振れば悟ってくれたらしく手を下げた。
「そ、そうだったのか……。――あ。昔うるさいと言われたのもそれか?!」(文字のことだったのか?)
……ん? いつのことだ。聞いたらお義母様に文字について聞いたお茶会の帰りでのことだと教えられる。そういえばそんなことを口走っていた。何も言われなかったため有耶無耶になっていた。すっかり忘れていたのにテオは覚えていたのか。
「あの時もおかしいと思ったのだ」(メリッサと別れた後必死に何を言ったか考えていた)
「そうだったんですか」
気にかけてくれて嬉しい、と感じている。両想いになっても私は面倒くさいな。
「…………あ。わ、私の誕生日もそれか? あのだな、タイピンも本当に嬉しかったのだ」(だから会場から出て行ってしまったのか)
必死に何か言い募っているが今もつけているからそれは分かっている。これも、嬉しい。
他にも今までのことを確認された。顔が赤くなったり青くなったりする様子は見ていて面白かった。
私も大事なことを確認しなければ。
「心を読まれるのは、いやですか? 結婚すれば消えるそうですが、引き続き私と会ってもらえますか?」
「は?」(いや? 会う? え、どういうことだ? もし私がいやだと言ったら結婚までメリッサと会えないというのか? そんなバカなことがあるか? もしかしてメリッサは私に会いたくないから文字について告げたのか!?)
「いえ、私は貴方に会いたいです」
文字に返事してしまった。だがそのままテオを真っ直ぐ見つめる。
「貴方を好きだと自覚したのに会えないのはいやです」
抱きしめていた手に力を込めればテオの腕にも力が入った。かあああ、と顔が赤くなって湯気が出る。
そして頭の上から出てきたのはピンクのハートマークだった。初めてだ。心がほわんとする。
「わ、私も、会いたい」(あああ、可愛い。キスしたい)
じ、と頭の上を見ていると私の視線を察して更に顔が赤くなる。もう全身真っ赤だった。
「あ、いや、あの、その……」(うわああああ、私の欲望がだだ漏れに!)
「どうぞ」
上を向いて目を瞑る。
「えっ」
戸惑う声と雰囲気がする。しばらくすると唇にふに、と僅かな感触がした。
…………これだけ?
目を開けてくれ、と言われたため開けるが若干不満だ。恋人になったというのに、これっぽちの触れ合いでいいのか。
テオがしないなら私から、と思っていたら私の頭の後ろに手が置かれて再度ぎゅっと強く抱きしめられる。心臓がドンドコドンドコ激しく鳴っていた。
これ以上は心臓が止まる恐れがある。
私を抱き込むのは頭の上の文字と、自身の顔が見えないようにだ。……喚いていると文字は頭の上に収まり切らないことはいつ伝えよう。ピンクの小さいものだったが、ハートマークがどんどんテオの頭の上から降ってくる。
これを見て照れずにいられるほど私は強心臓ではない。テオの胸に顔を埋めた。
けれど、結婚の前に慣らすのもいいかもしれない。だって私は彼が好きなのだ。もっとしたいと思って何が悪い。
******
その夜、仕事の話があったため父上に会いに行く。文字のことを話題にしてみれば父上は私の顔をじっと見、そして嘆くように額に手を当てた。
「…………そうか。知ってしまったのか。すまない、私達がもっときちんとメリッサに言わない理由を話すべきだった」
「……? 何故謝るのですか。結婚までの一年半くらい我慢できます」
むしろ私が言葉にできないことも察してくれて今日口づけをすることができた。思い出すと叫びたくなる。
柔らかかった。いい匂いがした。ほんの少し触れただけなのに甘かった気もする。うわああああああ。
ああ、メリッサが私を好きになってくれたなんて。あの後夢かと何回か頬を抓ったがどれも痛かった。カルロにめちゃくちゃドン引きされたものの幸せだ。
文字よ、ありがとう。神様、感謝いたします。
にやける私とは裏腹に父上は未だ気遣わし気に私を見てくる。
「テオ……いつ、文字がなくなると思う?」
「結婚したら、なんですよね?」
ああだが、メリッサの了承がもらえるなら時期を早めても……とにまにま考えていると父上が難しい顔をする。
「ああ。……正確に言えば、ディアナ曰く私の頭の上の文字が見えなくなったのは初夜が明けた朝だったらしい」
「………………は?」
父上が言いたいことが分かり愕然とする。朝ということは、つまり。まさか、その夜は文字が見えたままで……。
父上が重々しく頷く。それが答えだった。
「知らないほうがいいこともあるということだ。……知ってしまったからにはがんばれ」
「がんばれません!」
神様、何を考えているんですか!?
* * *
「アレッシオ叔父上! ラウラ!」
バンッ、と勢い良く魔術師団団長の部屋の扉を開ける。二人がここにいることは分かっていた。魔法で事前に連絡を取っていたが用件を知らない二人は肩で息をする私を怪訝な瞳で見つめてくる。
「あははっ、慌ててどうしたの?」
「どうすれば文字をなくせますか!?」
「はい?」
きょとんとする二人に、いつ文字が見えなくなるかを告げた。ぶはっ、とアレッシオ叔父上が吹き出す。
「え、嘘。そうだったの!? お兄様文字が見えたまま初夜だったの!? マジで!? あはははははは、そりゃあお母様もお義姉様も私に言わないわけだ!!!」
お腹を抱えて笑っている。ラウラは引いていた。
「うわあ……それは……えー、私メリッサに文字のこと言ったら、って言っちゃった。ごめんなさい」
謝る必要はない。今までの疑問が解けてすっきりしたことは事実だ。私は教えてもらえてよかったと思っている。
メリッサと恋人になれた。この魔法に感謝している気持ちは変わらない。
だがこのまま初夜を迎えることには抵抗がある。
「この魔法をなくしたいんです。協力してくれますか」
絶対文字が見えない初夜を目指す!




