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今度こそ(アレッシオ視点)

「も……もう一曲、踊って、くれないか」

「も、もう一曲頼む」

「もう一曲」

「こ、この曲も」


 一つのダンスが終わる度真ん中に陣取ったテオがメリッサを頑張って引き止めている。

 これが面白いことでなくて何なのか。こちらは大笑いするのを堪えるのに必死である。

 周りも呆気に取られてだんだんダンスするペアが減ってきたことにも気付いていない。二人の独壇場だ。

 自然で柔和な笑顔を見せているテオもそうだが、婚約を嫌がっていると噂されていたメリッサが拒否せずテオに見惚れていることも周囲がざわつく原因である。

 元々テオがブチギレてからそんな令嬢は減っていたけれどこの二人を見ればいくら何でも王太子妃という地位への諦めがつくだろう。これを国外の者に見せれば側室に、と言ってくる者も減るに違いない。

 そもそもうちはあの魔法があるおかげで側室を設けるなんてものはさびれた制度となっている。歴代の王は運命の相手以外見向きもしなかった。何代も仲睦まじい陛下夫妻が続いているのもうちの自慢だ。


 テオが素直にメリッサを望めばメリッサも素直に応える。

 想像はしていたものの実際目にするとこうも面白いとは。仕事を前倒ししてまで時間を空けた価値はある。

 兄も同じ気持ちのはず。

「どう、お兄様? 見られてよかったでしょ?」

「ふ、そうだな。感謝する」

 それからディアナお義姉様と笑い合った。この二人はラブラブ具合を隠そうとしているわりにところどころでボロが出る。

 うちのツンデレリータちゃんじゃないんだから、表に見せてもいいと思うけどね。もう兄の頭の上に文字は出ないのだ。

 まあでも、昔の素直すぎる兄を表に出すのは国王としてどうかと思うので、ディアナお義姉様が正解なのかもしれない。個人的にはあの時の兄のほうが面白くて好き。私が笑い上戸になった原因は絶対兄だ。


「二人だけの世界、ってやつか?」

「わあお。兄さん変わるもんだね。あ、メリッサも」

 カルロはメリッサの兄として妹がうっとりしている表情を見るのは複雑らしい。腕を組んで難しい顔をしている。エディは素直に感心していた。

「メリッサと両想いだって確信して自信が出たのね」

 娘の言葉は独り言のようで聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声だった。

 ほう、いつそんな確信する出来事が起こったのか。ぜひ知りたい。だがラウラもテオも教えてくれなさそうだ。メリッサは未だに自分の気持ちに無自覚だから聞いても答えは得られまい。

 あーあ。ま、仕方がないか。今の面白い状況を見続けよう。


「もう一曲お願いしたい」

 ぶふっ。また言ってる。

 いい加減ずっと踊っていてほしいとお願いすればいいのに。何回その問答を繰り返す気だ。ヘタレだなあ。あー、お腹痛い。


 と、腕の中にいる妻が動く気配がした。

 未だにリータは腰に回る手に居心地が悪そうにしている。

 だけど離したほうが嫌がることを知っている。離すと後で拗ねてしまう。二人きりの時は彼女のほうからくっついてくるのだ。私のあだ名を呼ぶのも彼女だけで、他の者には言わないようにお願いしているらしい。いくつになっても我が妻は可愛い。


 私達の傍で見ている三人を一瞥する。未だお目当ての人がいない三人。

 いや、娘には一応候補がいるか。本人に言ったら否定されるから言わないけど。

 将来義理の息子になるかもしれない人物を思い浮かべて頭の中で合掌した。無表情ばかりのメリッサの心情には気付くくせに自分の気持ちに疎い娘でごめんよ。

 私達が娘しか産まなかったのは無益な争いから逃れるため。魔術師として兄のために働きたいのに私を隠れ蓑に謀反を起こそうとする輩は潰しても潰しても這い出てくる。

 もし息子がいたら外野が喚くくだらない後継者争いに巻き込まれていた恐れがある。

 エディもそれを少しは考えているはず。一番はタイプの女性に会ったことがないというシンプルな理由だ。ふふ、それでいい。王族であっても結婚くらい望む相手としたいと考えて何が悪い。

 そういう意味では運命の相手が分かる魔法は素晴らしい。

 ぜひとも解明したいものだ。


「機嫌良さそうね」

 テオ達を見ているから当たり前であるが、彼女の言葉は違う意味合いを含んでいる。リータに笑いかけながら彼女と同じく小声で話した。

「ふふ、そう見える?」

「ええ。……長年考えている、私には言えないことを考えている時の顔よ」

 おやまあ。うちの奥さんは私に詳しい。

「ごめんね」

「謝らないで。言ったでしょ、言えない、と」

 敵わないなあ。私がわざと秘密にしているわけでないことに気付いている。

 リータが私達の可愛い娘に視線を向けた。

 娘の視線の先はテオじゃなくて親友のほうだろう。彼女の幸せをラウラは願っている。

「あまりラウラに無理をさせないでね」

 うーんと、私は娘に無理をさせないけど、これはラウラが無我夢中になることを懸念しての言葉だな。私の魔法の才能だけじゃなくて集中力まで似ちゃったから。

「はい、娘の体調管理がんばります。私のはよろしく」

 しらっとした顔をされたが、私は分かっている。

 これは私達を心配している表情だ。


 私は妻にも娘にも、そして甥にも将来の姪にも恵まれた。

 テオは早々に運命の相手を見つけた。事実メリッサは文字が見える。テオなら私とメリッサが二人きりで話そうと魔法の話題だと言えば了承してくれるに違いない。実際間違いではない。二人きりがいやなら彼女の親友のラウラを同席させたらいい。メリッサも話してくれるだろう。

 妻はやきもち焼きでも年の離れた将来の姪にまで妬く人ではない。

 問題はいつ協力を願い出ようか、だが。二人が両想いになってからのほうがいいと思っていた。もうすぐ叶いそうだ。


 今度こそあの魔法を明らかにしよう。

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